邂逅・3年前にあったこと
お初にお目にかかります
駄文ですがよろしくお願いします
青空の下、鍬を振るい土を耕していく。1年近く使っている鍬は手に馴染み始めて、持ち手には俺が握りやすいように少しだけ凹凸があり、滑り止めに布が撒いてある。
ザクザクと軽快な音を立てて土を耕す後ろでは別の者が畝を作っているはず。
「シュウ様、そろそろご休憩なされては?朝から働き詰めでございます」
俺を呼ぶ声に振り返るといるのは見慣れた女性。
見た目は20前後と思われる。浅黄色の髪をポニーテールにまとめて、群青色の瞳、簡素な白い厚手のシャツに丈夫そうな緑のオーバーオール。その胸元で存在を主張する2つの山。そして甘いミルクチョコを思わせるような肌。
俺は手を止めて周りを見渡すと同じように土を耕して畑を作る者や牛や馬で鋤の刃先だけのようなものを引かせて土を耕す者、出来上がった畝に苗や種を植える少年や少女もいる。
「レイラ、皆が働いているというのに俺だけ休むというわけにも行かないさ。ただでさえここは新しく開拓している地域なんだから」
俺が額を汗をぬぐって笑顔を見せると彼女は仕方ないという風に小さなため息をつく。
柵で区切られた畑の他には50件を越える程度の一戸建てと大きな牧場、そして小川に架かる橋が街道へ続く道があることを示す。
その背景には脈々と連なる高山、遙か彼方微かに映る防壁に囲まれた場所。
ここは俺が住んでいた日本とは違う世界、アンハイルトン。
マンガやゲームのような魔法があって、人以外の亜人がいて、モンスターがいて、勇者がいるような世界。
俺は3年前にこの世界に来た。
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3年前、日本のある県。
俺こと、今川秀壱はセンター試験を受け損ない悲嘆に暮れていた。
どうして大事な試験より子猫をとったのか、自分でもわからない。ただ自動車にはねられて息も絶え絶えな小さな命を見捨てられなかった。
動物病院に連れていき、数カ所の骨折を手術した子猫はなんとか回復できそうとのことで安心した俺だったが、この時点で時計を見て試験には間に合わないことを悟り、終わりを告げる鐘が頭に響いていた。
自宅に帰り、仏壇に手を合わせて両親と祖父母に事の顛末を報告する。両親はきっと怒っているだろうが祖父母は笑っていそうな気もする。
書類上の保護者である叔父には受けていないことを隠してメールで報告すると誰もいない広い家の一部屋、自室に向かいベッドに転がる。
我が家は先祖を辿れば今川義元、そして足利の分家である吉良家の血筋らしい。辿り辿れば八幡太郎で有名な源義家もいるらしいが確実な証なんて物はない。
ぱちものっぽい家系図だけはあるが本当に疑わしい。
ふてくされたわけではないが一眠りすると携帯電話の音で目が覚める。着信相手は動物病院。そういえば手持ちがなく手付けに1万だけ置いてきて残りを今日中に払うと約束していた。
カードを財布に入れて、病院に向かうと支払って子猫の様子も見させてもらった。
子猫はケースの中で俺の気も知らずに「にゃ~ん」と鳴いていて、痛々しい手術痕が目をついた。
費用を引き落としで支払うと病院の扉に手をかけた。
違和感、何か視界が揺れたような、脈が大きく打たれたような感覚。
扉を開けるとそこは……、
俺の知らない場所だった。
薄暗くどこか西洋風に思える石造りの部屋の壁には所々に蝋燭のついた燭台がある。
目の前には何かよくわからない鉱石や輝石、よくわからない肉塊などが並んだ台、そして台の向こうに黒いローブで頭まですっぽりと隠した人が5人が並び跪いて祈るように両手を組んでいた。
「…ここは一体…どこだ?」
俺が声を出すと1人がローブのフードを下ろして顔を見せた。
オールバックの白髪をした初老の男だった。俺と目が合うと、
「まずは突然このような場所にお連れしたご無礼をお詫び申し上げます。ここはあなた様がおられた世界とは別の場所、アンハイルトンという世界でございます。単刀直入に申し上げます。
我等の王になっていただきとうございます」
これが3年前、このアンハイルトンでの生活の始まりだった。
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