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虹色の夢物語

作者: かさこれ

頭で考える前に読み進めて欲しいです。


3作目。ちょっと頑張りました。

よろしくお願いします。

          ー1ー


 「もう夏だねー!」先週、圭介におねだりして買ってもらったばかりのレインブーツで水溜まりに飛び入る。

 「まだまだ梅雨だよ。水飛ばすな、汚れる。」愛子に持たされている荷物を反射的に持ち上げ、水を避ける。付き合ってもうすぐ3年が経つ。お互いにそれとなく意識はしていたが、どちらが切り出す訳でもなく時間だけが過ぎていた。

 「おー。虹が出てる。」信号待ちでふと見上げたビルの隙間にくっきりと虹が出ていた。

 「えっ!どこどこ!?」歩行者用押ボタンを連打する手を止め、愛子が顔を上げる。

 「ほら。ビルのとこ。」無邪気な子供の様な愛子を見て、つい口元が緩む。

 「愛子って何色が好きだっけ?」そう言えば好きな色は聞いたことがなかった。

 「虹色!」間髪入れずに返ってきた答えに少し戸惑い天を仰ぐと虹はもう消えていた。

 何でもない休日がこんなにも特別な日になるなんて思いもしなかった。


          ー2ー


 「ッ!!ダメッ!!」ほんの一瞬だった。背中に受けたビル風を追いかけるように愛子が交差点に飛び出した。引き留めようとしたが、普段は俊敏な圭介を荷物が邪魔をした。体勢を低くして何かに両手を伸ばす愛子と、向かってくるトラックが見えた。

 いつもより静かなサイレンの音で目を開けると、赤い空に虹が架かっていた。


          ー3ー


 「本当にありがとうね。ごめんなさいね。」 圭介に向かって何度も頭を下げる。愛子の母親である良子が病院に着いたのは、彼らが搬送されてから1時間後の事だった。腕と頭に包帯を巻いた圭介と共に、愛子の手術が終わるのをじっと待つ良子の姿は血の繋がりを疑うほど毅然としていた。

 先生によると愛子は非常に危険な状態で2、3日が峠だそうだ。愛子を囲い、圭介と良子はただただ電子音が虚しく響く部屋で愛子の顔を見つめていた。

 良子は病院に泊まり、愛子の側にいた。特別仲が悪いわけでは無かったが近頃連絡を取り合っていなかったので、良子は愛子の手をとり、近況報告をした。夜には圭介も交えて、昔話で盛り上がった。話せば話すほど愛子のあの無邪気さにどれだけ助けられていたかが身に染みて二人して涙した。

 圭介は帰り際に良子にいくつかのお願いをした。事故から3日目の夜だった。


          ー4ー


 なんて幸せな夢だ。現実ならいいのに。


 雨の中、暗い夜道を歩いてる私。あの日のレインブーツを履いている。しばらく歩くと圭介がいて、私の手を優しく包む。

 「目をつぶってて。」言われるがまま目をつぶった。いつもなら反抗する私も初めて見る圭介の真剣な眼差しに気を取られていた。

 「目、開けていいよ。」少し遠くの方で優しい声がした。視覚以外の感覚が私にほんのちょっとの予感と期待を運んだ。ゆっくりと目を開けると目の前には、本来純白であるはずのそれに綺麗な虹が架かっていた。通り雨が頬を伝った。

 「夢だよね?」まんまるの自分のほっぺたをつねる愛子。

 「ひゅめひゃひゃいほ!(夢じゃないよ!)」自分の両方のほっぺたをつかみ、おどけながら圭介が言う。

 「お義母さんも待ってるから。」着替えを済ませ、二人で教会へと向かった。

 「ここって。もしかして。」教会を目にした愛子が言う。

 「お義母さんと相談したらここがいいってさ。」自分が強く希望したのを圭介は良子のせいにした。


          ー5ー


 圭介は良子から聞けるだけ愛子のことを聞き出そうとした。自分の気持ちが嘘でないこと、何でも受け止める覚悟があること、ありったけの気持ちをぶつけた。その熱量が良子の心に掛かった鎖を溶かし優しく包み込んだ。


 愛子は捨て子だった。梅雨の時期、まだ赤ん坊の愛子は教会に置き去りにされた。それを見つけ引き取ったのが良子だった。

 血は繋がっていなくてもお互いが確かな繋がりを感じていた。しかし、愛子の思春期と共にその関係性は崩れ去り、修復しがたいものになろうとしていたその時、愛子が大怪我をした。工事現場に立て掛けてあった資材の下敷きになった。出血が酷く輸血用の血液もストックが無いらしい。医者が言いたいことはすぐに理解した。同時に自分の血を呪った。医者から愛子の正確な血液型を知らされるまでは。


 奇跡だと思った。神様は見ていてくれていた。この日、良子と愛子は血の繋がった親子になった。

 

          ー6ー

 「じゃあ行こう。」圭介に手を引かれ、教会の入口に立つ。ドアが開くと、新婦側の一番前の席に座っていた良子が立ち上がり、拍手を送る。溢れそうになる涙を堪えながらバージンロードを進む二人。雨の音だけが響いている。

 二人は良子を証人として永遠の愛を誓いあい、指輪の交換も済ませた。

 「ありがとう。あなたみたいな息子を持って誇りに思うわ。」涙ながらに良子が言う。

 その言葉に押さえていた圭介の感情のダムが決壊した。膝から崩れ落ち、大粒の涙を流す圭介を見て愛子は驚いた。圭介にかける意地悪な言葉を選んでいると、良子が手を握り言った。

 「もうひとり会わせたい人がいるの。」


          ー7ー

 「入って。」良子の優しい声に導かれて小さな女の子が扉の裏から姿を現した。息の仕方も忘れるくらい愛子の中の時間が止まった。

 「あなたは、、、。」愛子のその言葉に良子は唇を噛み締め、言った。

 「やっぱり見えてたのね。」良子の目に涙が溢れる。

 「愛子。ごめんなさい。本当はずっと気になってたの。私の血が愛子に流れて、本当の親子になれた時はとても嬉しかった。こんな私を愛してくれてありがとう。」

 泣き崩れる良子を愛子と圭介は何も言わずただずっとずっと抱きしめた。

 雨もあがり、教会にやわらかい朝日が差し込む。

 ふたつの指輪を握り締め、良子は空を見上げた。

 ふたつの虹が架かっていた。


 

最後まで読んでいただきありがとうございました。

いかがでしたか?

感想、待ってます。

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