78話 宴の開始
今日二話投稿します。
一話目です。
クイーンスノーアント撃退の報は街中に広がった。
50年前にこの街を壊滅させた蟲波の悲劇、溢れ出したアントが街中を覆い尽くし、決死の特攻隊の自爆攻勢で街のごく一部を守ることに成功したらしい。
その後アント達に有害な煙を出す薬草を発見して、月に一度トンネル内に送り込むことで悲劇を起こさずに済んでいたようだ。
今回は耐性を獲得したアントが繁殖をしてしまったのだろう。
溢れ出す前に発見してよかった。
今後は内部に照明も設置して監視しやすくなっているので定期的なパトロールをおすすめした。
クイーンを倒したのがソーカであったことも町の人々を熱狂させた。
救いの女神、雪国に降り立った真紅の女神、赤き巫女。
様々な呼ばれ方をして賞賛されていた。
「はぁ……」
「お疲れですな真紅の女神様」
ユキムラは宿へ逃げ帰ったソーカへ暖かい紅茶を入れてあげる。
特製のジャムをたっぷり入れた甘々で酸味が効いた疲れたときにはたまらない一杯だ。
「もう! からかわないでください。あ、おいし~~。ありがとうございます」
「少しは俺の気持ちがわかってくれたかなーって、嫌なもんだろ祭り上げられるの」
「ははは、確かに。少し、困りますね」
外へ出ると大騒ぎだ、人が集まり皆がキラキラした目でソーカを囲ってくる。
上手いこと建物の影に隠れて隠密用のマントを利用して宿まで戻ってきた。
宿の周りも人だかりができている。
「師匠、サルソーさんが今夜の式典にはお二人とも必ず参加してもらえるよう再三の連絡が来てますよ」
さっきからレンが鳴りまくる通信機の対応に追われてうんざりしている。
「ソーカ諦めて今日は奉られておいで」
「はぁぁ~~~」
がっくりと肩を落とすソーカ。逃げられないと観念したようだ。
「レン、サルソーさんに参加する旨伝えといて。服装は正装かな?」
「そうですね、サルソーさんは張り切っていましたし。ちゃんとした方がいいかと……」
「まだ時間あるし。素材もあるから。よし、ソーカ、今回のクイーン退治のお祝いにドレス作ってあげるよ。ちょっとそこに立って」
「え? あ、はい」
ユキムラは縫製用の一式を取り出してVO式縫製を行う。
これなら細かな採寸はいらない。作る相手、素材、完成形選択をしてミニゲームをやれば。
「うわーーーーーー……素敵、こんな、こんな凄いもの頂いていいのですか?」
メインカラーは赤、所々に金の刺繍が入っているが、決して下品にならない控えめな刺繍。
フレアな感じは抑えめでどちらかと言えばタイトなデザイン。
ソーカの剣士としての凛々しさと美しさを十二分に引き出す。そんなドレス。
それに同じく真紅の靴、くるぶしに美しい薔薇の作りをしている。
髪留めなどの小物も含めてあっという間にユキムラが作り出した。
「だ、大事にします……」
少し涙声でそのドレス一式を抱きしめているソーカ。
「俺とレンとタロは脇役だから主役を演出する額縁になろうね」
同じ手順でササッと全員のタキシードに似たスーツを作り上げる。
3人はメインカラーは落ち着いた黒に近いモスグリーン、一輪のバラの周囲の葉や枝を表している。
白のワイシャツはどこまでも白く、光沢があり、そこで少し色気を出している。
タロは、たまんない可愛さになるだろうこと間違いない。
「そしたら、各自準備をして会場入りしようか。
ゆっくりお風呂にも入りたいしね」
3人とタロはそれぞれ夜の準備をする。
ユキムラとレン、タロは先に会場へと入る。
「す、凄いね。予想より規模が大きい」
領主の館の前の空間全てを使い切っての会場だ。
そのまま正面のメインストリートまで沢山の出店が出されていて、街を上げての祭りになっている。
ソーカは先に領主の館へ通されているはずだ。
メインの雛壇に席が用意されていたので席に着く。
珍しくばっちりと正装をしたユキムラはとんでもなくかっこよくなっていた。
レンも13歳と成長しており、すでに青年としての魅力も出始めた美少年。
二人の登場に会場からは黄色い悲鳴が上がっている。
しかし後に続くタロの破壊力はその上をいった。
タキシード風のお洋服を見事に着こなす純白の毛玉。
大量殺戮兵器となって老若男女問わず歓声を受けている。
ユキムラもレンもその愛くるしい姿に目尻が下がりっぱなしだ。
「お集まりの皆さん、この度この街を未曾有の危機が襲いました。」
サルソーさんが開会宣言代わりの演説を始める。
領主の館、2階バルコニー部分がライトアップされ照らされている。
「50年前の悲劇、いや! 今度はわが街のすべてを飲み込むほどの大量のスノーアント、そしてあの忌々しきクイーンスノーアント!この街を恐怖に叩き込む悪魔たちをたった3人と1頭の英雄たちが討滅してくれました!!」
ドワーーーっと会場がビリビリと揺れるほどの大歓声が起きる。
ユキムラとレン、それにタロは立ち上がり皆に手を振る。
「そして! クイーンスノーアントを討滅した、この地に降り立った女神を紹介します!
南西にあるサナダ街より訪れた救いの女神、ソーカ様です!」
スポットライトがサルソーの隣を照らす。
真紅のドレスに身を包むソーカ、金の刺繍が光を弾き背後の壁面に星のように綺羅びやかに光を写す。
まさに女神であった。
会場は割れんばかりの歓声と悲鳴に包まれる。
ここに一人の英雄が生まれた瞬間だった。
自分に洋服のセンスが無いのに服飾のこと書けるはずもないわけでシクシク
今日の6時にもう一本。




