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336話 突入! 異世界!

「これが異界への門……」


 白狼隊と魔王は巨大な門の前に立っている。

 魔王城の遥か地下、封じられし地にその門は存在していた。

 血のような真っ赤な扉に金色の装飾が散りばめられており、見るものに豪華さとある種の恐怖を感じさせる。

 黄金で造られたオドロオドロシイ装飾は、禍々しい邪神をかたどっていると同時に魔力回路として強固な封印も施されていることがわかった。


「凄いなこれは、芸術的な視点と魔導的な視点がとんでもないハイレベルで融合している。

 教科書にしてもいいぐらいの品物だね」


「魔王の血統に秘められた魔力刻印以外で開けることは不可能。そう『知って』いる」


「うーん、確かにこの複雑な魔力回路は立体的で、模倣は不可能だなぁ……

 レン、わかる?」


「……時間をかければ……それこそ何年も……ですかね……」


「そうだよねぇ……惜しいけど。エテルノ、お願いします」


「わかったわ」


「これから先は何が起きてもおかしくないから、全員戦闘準備」


 ユキムラの声で場に緊張が走る。

 エテルナは扉の中央のプレートに両手を当てて魔力を込める。


「我が名はエテルノ。魔王の名を継ぐもの。

 我が力を示し異界への門を今開かん……」


 黄金の装飾に魔力が通っていくと、まるで生き物のように変化していく。

 一層、また一層と魔力回路が開いていく。

 その変化は造形は見事の一言で、ユキムラもレンもヴァリィもすっかり飲み込まれていた。

 

「魔道具がまともに動けば絶対に録画したのになぁ……」


「瘴気が濃くて複雑な魔道具が動かないからねぇ……戦闘用はもともと過酷な条件下で使用するのが前提なんだけどねぇ~」


「要改良ですね」


 開発馬鹿三人である。


「最終層に到達したわ。開くわよ」


 エテルナの声で全員に緩みかけた集中力が戻る。

 ゴゴゴゴと音を立てて真紅の扉が開き始める。

 むせ返るような高濃度な瘴気が溢れ出す。

 念のために浄化用の魔道具がバチバチと音を立ててフル稼働している。


「これ、地上に漏らしてたらやばかったね……」


「ユキムラにーちゃん、皆! 入ったらすぐ閉じるよ!

 飛び込んで!」


 エテルノの合図で全員が扉によって作られた空間へと飛び込んでいく。

 すぐにエテルノも飛び込み扉は重厚な音共に閉じられる。




「これは……」


 ユキムラの眼下には真っ黒な世界が広がっている。

 地面も壁も空も黒い。

 

「時空固定に近い感じですね床や壁は……」


 レンは周囲を探りながら答える。

 全員フルフェイス式の鎧を展開している。

 このエリアの瘴気は普通の人間には致命的だ。


「体の動きには異常はない、変な罠は無いみたいだね。

 それにしても、何もないな……」


 魔法を使ったり戦闘のために身体を動かしても異常がないことは把握できた。


「たぶん、奴らはあそこに居るんでしょうね」


 ソーカが指差す先には、城がある。

 壁も天井部も全て黒によって造られた巨大な城が。


【ようこそ、白狼隊の諸君】


 とつぜん空間に声が響く。

 

「魔人かい?」


【彼らは、今生まれ変わっているところさ。

 この力で君たちの世界も全て塗り替えてあげるよ、ククク……】


「こんな真っ黒な世界はやだなぁ……」


【純粋な黒はこんなに美しいと言うのに……

 まぁ、他人の趣味に口は出さないよ。

 ただ、全て僕の趣味に塗りつぶすから、関係ないしね】


「せっかくの世界を一色にして、何がしたいんだい?」


【ぶち壊したいだけだよ。僕を否定した全てをね。

 さ、おしゃべりはこれくらいにしよう。

 腹立たしいことに、君たちに直接介入は出来ないみたいだ。

 ルールに合わせて魔神らしく振る舞うことにするよ。

 ロールプレイングゲームのように最後のダンジョンだ。

 頑張って僕の元まで来るといいよ。

 たくさんの絶望を君に与えてあげよう。

 『ヒデオ』君……】


 強大な気配が消える。


「あれが魔神、この戦いの最後の敵なんですね……師匠? 大丈夫ですか?」


 ユキムラは胸を抑えてグラグラと不安定に揺れていた。

 ユキムラ以外誰の耳にも入らなかった最後の言葉。

 それがユキムラの精神を揺り動かしたのだ。


「なんで……魔神……何者なんだ……」


 ユキムラの心に、この世界に来て初めて不安というもので満たされていた。


「ユキムラさん」


 ユキムラの身体が抱きしめられる。

 ソーカが優しくユキムラの体を受け止めている。

 鎧越しに彼女がユキムラを思う気持ちが伝わってくるような気がした。

 不安に凍えて震えていたユキムラの心に暖かな光が当てられる。

 ソーカによる愛。

 そして、ユキムラは周囲を見渡す。

 レンの尊敬の眼差し、ヴァリィの信頼の眼差し、タロからの期待の眼差し、エテルノの決意の眼差し。

 皆の気持ちがユキムラの心に力を与えてくれているようだった。


「ありがとう、大丈夫。ごめんね、俺には皆がいるもんね」


 ユキムラはあるき出す。

 最後の戦いの場所である城への道のりの最初の一歩を。


 城の姿は見えている。

 周囲は広大な、ただただ黒いだけの世界。

 歩いても歩いても城までの道のりがどの程度かわからない。

 黒いだけで、暗くはないが、気持ちは明るくはない。

 環境的にもじわりじわりと白狼隊を攻め立ててくる。


「何もおきないことが逆に辛いね」


「進んでいる確信が持てないのがきついですね」


 門のあった場所にはビーコンを置いているので、振り返ると確かに距離的な移動をしていることはわかる。

 それでも城の姿は変化が起きたようには見えない。


「せめて敵でも出てくれれば……」


「ユキムラにーちゃん、なにか来る……」


 エテルナが何かの気配を察知する。

 この空間においてもエテルナの魔王としての能力は一ミリも損なわれない。

 ズズズズと地面が微動していることに気がついたと同時に、真っ黒な地面から穢れに取り憑かれた魔物たちが地面から生えてきた。


「この地面を移動できるのか、ずるいなそりゃ……」


「数も多いし……見たこともない形ですね……」


「生物、というより兵器ね!」


 異世界の魔物は生物とはおよそ考えられない異形の姿。

 ユキムラはVOのモンスターをバラバラにしてぐちゃぐちゃにくっつけたようなイメージを受けた。

 あまり、いい趣味をしているとは思えなかった。


「予想の付かない動きをすると思うから、皆、気をつけて!」


 最初のモンスターが襲い掛かってくる、地面から浮き出したモンスターが次から次へと群がってくる。

 動きが生物的ではないので気持ちが悪い。

 カサカサと動いてまるでGだ。


 暴風のようにデタラメに鋭い手足を振り回し、武器をめちゃくちゃに振り回している。


「……つまらないな……」


 戦っていて少しも面白くない戦闘だった。


「力は凄いし、攻撃も早い、魔法も苛烈だ……」


「だが……そこに意思がない……」


 ソーカは一刀のもとに敵を斬り伏せる。


 罠があろうがまっすぐにカサカサと群がってくるソレ達は、ユキムラ達の相手にはならない。

 

【おっかしいなぁ、ステータスは最高にしてるんだけどなぁ……】


 またあの声がしてくる。

 

「ステータスだけが強さじゃないなんて子供でも知ってるぞ」


【……ふん……まぁ、やっとこいつらも変わったから、ステータスだけじゃなければ強いんだろ?】


 ボトリとユキムラ達の目の前に何かが落ちた。

 同じように穢れがついた敵だ。


「……糞野郎……」


 思わずユキムラはつぶやく。

 その敵は魔人達の顔が生えている。

 手足や武器も魔人達のソレだった……


【ユ……キ……ムラ……ころ……ス……!】


「酷い……」


 口を開いて吐く言葉は怨嗟にまみれた殺意だけ、魔人達の個性など消え失せていた。

 ユキムラたちを殺すための生物兵器と成り下がっていた。


「……自分のかたきとは思っていたけど、これはちょっと酷い……」


 エテルナもその惨状に怒りを露わにしている。


「再戦を楽しみにしていたのにな……悪いなこんな形で……」


 ユキムラは手に持つ武器に力を込める。


【コロスころす殺すコロスコロスー!!!】


 かつてはユキムラたちを苦しめた魔人達の武器が踊るようにユキムラ達に降り注ぐ。

 理性を失っても戦いにおいては魔人達の能力は無理矢理に引き出されている。

 苦しい戦いが今、始まった。





18時 19時 20時 21時 22時に投稿します。


最後までおつきあいください。 


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