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301話 始まる戦闘、変わる意識

 サナダ商会の人選。

 スキルの発現。

 ダンジョンによる訓練。

 ユキムラによる各街のイベント攻略。

 毎日は飛ぶように過ぎていく。

 目の回るような忙しさも、幾度と世界を渡ってきた白狼隊にとっては日常茶飯事になっている。

 幹部候補としてサナダ商会に参加した人間は、その才能をいかんなく発揮して成長していったが、それを遥かに超える仕事量を、涼しい顔でこなしていく白狼隊に畏怖さえ覚えていた。


「ユキムラ様! とうとう私もダンジョンへとお連れ頂けるのですね!」


 ある程度の準備が整ったので教皇アリシアのダンジョンデビューだ。

 メンバーはユキムラ、レン、ソーカ、ヴァリィ、タロ、コウ、ナオ、親衛隊隊長カルラ、筆頭司祭メリア、大司教キーミッツ、聖騎士デリカそしてアリシアとなる。


「カルラさんメリアさんキーミッツさんデリカさんはアリシアさんを護衛してくださいね」


「私はユキムラ様の側に……」


「いう事聞かないなら、連れていきませんよ?」


「はい……」


 ソーカが影でプークスクスと笑っている。

 怒りで震える握りこぶしをユキムラに見せないように、素直にユキムラの言うことに従う。


「もう皆さんも戦力として立派に戦えるレベルなので、アリシアさんは安心して頂いて平気ですよ。

 戦術指導もメリアさんがしっかりと教えてくれますので。

 それでは、出発しましょう!」


 最大の12人パーティでダンジョンへと突入する。

 

「今日の目標は……10階?」


「師匠、なんで疑問形なんですか……」


「いや、アリシアさん次第だからなぁって思って……」


「大丈夫ですよユキムラさん。アリシア様は聡明な女性。自らをきちんと律して鍛練のみに従事し見事成し遂げられると確信しています!」


「そ、そうですわ。このアリシア見事ユキムラ様の期待に答えます!

 ……ん?」


 気がついたときにはすでに遅かった。

 普段ならこの程度の謀略に引っかかるアリシアではなかったが、ダンジョン前の失敗を取り戻そうと焦っていた。それに、未知なるダンジョンへの不安が、彼女の思考を少し鈍らせた。


「ユキムラさん、アリシア様のご立派な決意。

 全ての時間を自らの鍛練にあてる覚悟をお持ち。

 このソーカが責任を持って昼夜を問わず指導に当たります!」


「ソーカ燃えてるね! いいね! 頑張ろうねアリシアさん!」


 ソーカのしてやったりというニタァとした笑顔である。

 周りの人間も気がついているが、どっちの肩も持たない。

 私は木。と言った様子で静観である。


「さぁ、最初の戦闘だ。

 なるべくわかりやすく動くので解説はメリアさんお願いします!」


「おまかせくださいユキムラ様!!」


 ユキムラファンクラブNo57。メリア。張り切ってます。

 

「コウ後衛任せちゃうねー」


「はいユキムラ様!」


 コウは高々と飛ぶと空中で敵に向かい腕を振り払う、前衛の巨大な獣達の影で魔法を詠唱しようとしていたスケルトンビショップ達は突然身体の自由が効かなくなる。

 この時すでにコウの放つ鋼糸が全身を捉えている。

 

「縛糸獄炎術!」(名付け親:ユキムラ)


 魔力を通す強靭な糸、それを伝って業火が敵を包み込む。

 これがコウ専用武装である魔術鋼糸だ。

 前衛を担っている牛に似た魔物の突撃は、雨あられのように降り注ぐ斧の乱舞によって叩き潰されていた。


「若い二人は元気いいわねぇ……」


 おどけた感じでヴァリィは茶化しているが、この二人の見事な戦いに心を震わせている。

 ユキムラとヴァリィのロマンの結晶がここに実を結んでいる。

 急速なレベルアップにもめげること無く鍛練を積み、今では完全に白狼隊の一員として強力な力を発している。

 

 執事服を乱すこと無く糸と魔法で敵を倒すコウ。

 メイド服をなびかせながらアンバランスな斧を手足のように操るナオ。


 共に戦った人間はこの二人にマイナスな感情を持つものはいないだろう。

 そして、この二人の、見ていてキュンキュンしてしまう、幼馴染がお互いのことを少し特別と感じているが、以前の友達のような関係性を壊すきっかけを掴むことが出来ずに、理不尽な反発と反省のトライアンドエラー、青春活劇を見せられると、大きなおにーさん達とおねーさん達は二人を心の底から、静かに応援したくなってしまうのだった。


「す、すごい……」


 初めて見る白狼隊の戦闘。

 メリアの説明がなくともハイレベルな戦術的視野、戦略的思考が飛び交っていることを理解する。

 それだけでもアリシアの非凡な才能が見て取れる。

 メリアの説明を聞くと、そのアリシアの理解をさらに簡単に越えてくる。

 気がつけば、ユキムラとの冒険に心躍っていた浮ついた気持ちは、自然と国の代表としての教皇としての顔になっていた。

 食い入るように戦闘を見つめ、疑問点を質問し、スポンジのようにグングンと経験を吸収していく。

 アリシア自身も、自らが一戦一戦成長していくことを自覚していた。

 そして、成長というものは自覚できるほどの速度で認識できると、これほど気持ちのよいものはない。

 いつしか邪念は消え去り、冒険者としてのアリシアがそこに立っていた。


「ユキムラ様、一部の補助魔法を管理させていただいてもいいですか?」


 ワクワクしていた。

 自分の能力を限界まで発揮しても追いつかない未知の世界の戦闘に。

 そして、ユキムラはそういうワクワクした顔が大好きだった。


 ソーカの思惑の外で、アリシアは、自身がユキムラのことを考えずに戦闘に没頭していく程に、ユキムラからの評価が上がっていったのであった。



 

明日も17時を目指します。

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