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295話 教皇

「な、なんだこれ……!?」


 ユキムラは車内でいつもの冷静な、というか、のんきな仮面が剥がれ落ちて動揺していた。

 レンやソーカにどういうことか聞こうとすると露骨に目をそらされる。


「さ、ユキムラ殿。ワシと一緒に特製の馬車で聖堂まで行こうじゃないか」


 がっしりとキーミッツとデリカに左右を固められる。


「せめて馬車は直しておきますから、お役目立派に果たしてください」


 まるでレンが別人のように冷たく言い放つ。

 ユキムラは、嵌められたのだ。

 そのまま車外へと連れられ、レンが目にも止まらぬ速度で、用意されたオープンカーのように高台のお立ち台が用意されている特製馬車の足回りを改良して、馬車は進み始める。

 鳴り物を鳴らす一団、先頭には整然とそして重厚な迫力を放つ聖騎士の行軍。

 完全にパレードだった。


「さ、ユキムラ殿! 腕輪を見せながら笑顔でお願いします」


「き、聞いてない……」


「師匠。諦めてください」


 いつの間にかレンも隣に乗車していた。

 絶対に逃がさないし、このパレードを必ず成功に導いてもらうという強い意志を感じる。

 さらにヴァリィ、ソーカ、タロ、全員そちら側の馬車へと移動していた。

 ヴァリィがデザインした白を基調とした法衣のような服装に身を包んでいる。

 

「ユキムラちゃん、失礼するわね」


 ユキムラに魔道具を当てると、一瞬でユキムラの服装も皆と同じ法衣に変化する。

 女神の腕輪が煌々と人々の目に晒される。

 そういうコンセプトで作られた服装のようだった。


 大通りは大歓声に包まれる。

 信者たちは女神アルテスへの感謝の言葉を口々に唱え、自らの持つタリスマンを掲げ祈りを捧げている。


「ちょ、これ……どうして……」


 どんなときでも冷静沈着なユキムラも、急速な状況の変化を理解するのにしばしの時間が必要なようだ。

 人々の祈りを受けて、女神の腕輪や皆のタリスマンが輝きだしてしばらくして、


「わー……綺麗だなー……」


 と、まるで他人事のように目の前に広がる神々しい光景を眺めていたユキムラは、現状の自分が置かれている立場、状況を理解し、『諦める』という選択肢を選択したのだった。


「あはははは! 皆が幸せそうで何よりですよ! はははははは!」


 満面の笑みで両腕をブンブンと振りながら通りへと集まった人々に愛想をふりまくユキムラの姿がそこにはあった。

 

「ユキムラさんの目が死んで時間の経った魚のように……」


「師匠……立派です……」


 白狼隊の他のメンバーの声はすでにユキムラには届いていなかった。


 王城代わりの大聖堂までの道のりは、たくさんの人々で溢れていた。

 それほどに女神の腕輪を持つものの存在はこの国に暮らす人にとっては大きいのだ。

 大聖堂の正門が開くと、整えられた動きで聖騎士が左右に開き整列する。

 掲げられた旗の装飾の付いた槍のゲートをユキムラ達がくぐると聖堂正面の重厚な扉が音を立てて開く。


「真に選ばれし聖騎士、ユキムラ様到着なさいました!!」


 その言葉を合図に今回のパレードを締めくくる盛大なファンファーレと花火が青空に打ち上げられる。

 歓声の波が聖都全体に広がっていく。

 美しいシスターに手を引かれながらされるがままで馬車を降りるユキムラ。

 そのまま正面扉の一段高い場所まで連れて行かれる。

 そこで待つのはケラリス神国教皇ファヴォリータ=ケラリス=アリシア。


 女性教皇であり、20歳という若さで類稀な神聖魔法の使い手、そして金髪の絶世の美女だった。

 女神が地上に顕現した姿と称されるその美貌に、月の輝きを封じ込めたと呼ばれる金髪。

 美の女神が究極の美を体現したと言われるナイスバディ。

 法衣の上からでも隠しきれないボディーラインは周囲の男性陣の喉を鳴らす。


「ユキムラ様。お目にかかれてこのアリシア光栄の至りでござます。

 当国は女神アルテス様の恩寵により栄し国。

 真に選ばれし聖騎士であらせられるユキムラ様にお越しいただき、国民を代表してお礼申し上げます」


 跪き、まるで臣下のような態度をする、この国のTOPの様子に、流石に違う世界へと飛びかけていたユキムラも正気を取り戻す。


「いやいや、このような過分な招待を受けてはこちらこそ恐縮です。

 どうか頭をお上げください」


 片膝をつきアリシアに手を差し伸べる。

 アリシアは顔をあげ、ユキムラを見つめる。

 その美貌は民草の噂をも超える情熱的で煽動的な輝きを秘めている。

 さすがのユキムラも照れを隠すことが出来ず、顔が熱くなってしまう。

 完全に法衣によって隠されていることで逆に、秘めた女性としての魅力を意識してしまう。


 バキッ


 ソーカの持つ魔道具が粉々に砕け散る音がしなかったら、その魅力に引き込まれていたかもしれない。


「どうぞ、お立ちください」


 冷静、というか一切の感情が吹き飛んだ声でユキムラは教皇を立たせる。

 同時に盛大な拍手と歓声が包み込む。

 聖騎士ユキムラと教皇アリシアの最初のフラグはソーカの力できちんとへし折られた。


「気温が5度は下がったわね……」


「師匠……選択肢間違えると……死にますね……」


 ヴァリィとレンの心配を他所に、ユキムラの来訪を祝う宴は、まだ始まりのチャイムが鳴ったばかりであった。




 

明日も17時投稿を目指します。


昨夜はあんなにはめたのにはめられたね。という最低な文言を消すぐらいの見識は残っていました。

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