281話 同行者
「でも、もう皆は……俺達を逃してくれて……」
「ああ、大丈夫。もうみんな治療済みで食事してるよー。
今回はホントにギリギリだったから助けられてホントに良かった」
コウはユキムラの言っている事が信じられなかった。
グールウルフの群れに急に襲われて、明らかに何名かは致命傷だったし、最後に自分を逃してくれた戦士の男は腕を食いちぎられていた。
しかし、ユキムラは嘘を言っていなかった。
少し開けた場所にコウ達と旅をしていた一団は、テーブルと椅子の並べられた、なんとも異常な場所で美味しそうに食事をしていた。
腕がなくなっていたはずの男は何事もなかったように両手でシチューを掻き込んでいた。
「ダッゾおじさん!! 腕、腕が生えてる!?」
「おお!!! コウ、それにナオちゃん!! 大丈夫だったか!?」
ダッゾと呼ばれた男が大声で二人の無事を喜ぶ、皆が心配していたので食事を中断して再会を喜んでいる。
「凄いぞ彼らは、俺の腕もあっという間に元通り! 俺が必死に耐えるだけだったウルフたちもあっさり消し飛ばしてしまった!」
「俺なんて死んだバーちゃんと手を繋いで歩いてたはずなのに、気がついたら無傷だったよ!」
皆、口々に白狼隊の凄さをまるで自分のことのように誇らしげに語るのでユキムラはくすぐったい。
そんな自慢話もナオのお腹の音で中断する。
「ああ、ごめんね。
さぁ、これも用意してもらったものだが、本当に美味しいからナオちゃんもコウも食べよう!」
いい人たちなのは間違いない。
それから皆でお互いの無事を喜び合いながら食事を楽しんだ。
ユキムラはニコニコとその様子を見守っていた。
全員の食事も終わり、落ち着いた段階でユキムラは何が起きたのかを聞く。
「皆さんに何が起きたのでしょうか?」
ユキムラの問いかけに代表してダッゾが答える。
「私達はウーノの街へと向かって旅をしていたのですが、街道を歩いていると突然森が騒がしくなりまして、警戒して進んでいたのですが、大量のグールウルフの群れが森から溢れ出して……
最初の交戦でこっちの回復役をやられてしまい、覚悟を決めて、せめて若いのは逃がそうと敵の注意をひきつけて逃したのですが……
数匹の突破を許してしまって、助けに行く隙もなくせめてこれ以上通さないために踏ん張ってたところにレンさんとヴァリィさんが飛び込んできてくれて、あれよあれよとあの大群をやっつけて、しかも同時に治療まで……
本当に神様はいるんだと、今日オレはアルテス様に命を捧げようと覚悟を決めましたよ!」
「ダッゾさんって聖騎士志望じゃなかったの?」
「昨日までも信じてたぞ、今日からは死ぬ気で信じるんだ! ガッハッハ!!」
こうやって笑い合えるのも命あっての物種。
「そういう事って結構多いんですか?」
「いや、こんなことは初めてだよ。あんなに大量の死霊系魔物が出たって話も聞かないから、もしかしたら森で何かあったのかもしれん……急いで聖騎士隊に伝えないと、もっと犠牲者が増えるかもしれない」
「ここから東に森の一部が枯れ木になっている場所がありますが、何かあったりしますか?」
ユキムラは魔道具で周囲のMAPを集めながら進んでいる。
森の内部に一部枯れ木が立ち並ぶエリアを発見している。
「いや、森の中は詳しくは知らないが、枯れ木の地帯が街の側にあるというのは聞いたことはない。
狩人はいるはずだし、このあたりなら森に入っているはずだ」
「うーん、イベント臭がする。調べますか……」
新しい場所に来たらイベントが起きるものなのです。
「ところでコウ君とナオちゃんは若いみたいだけど巡礼してるの?」
ソーカが二人に訪ねている。
「ううん、お、僕たちはウーノにある修道院へ向かう所なんだ……
両親が山賊に……」
「ご、ごめんなさいね……」
「大丈夫。俺もナオも一緒に頑張るって約束したから!」
「二人は兄弟じゃないのね、コウ君がお兄さん代わりなんだね。えらいね」
ソーカがコウの頭を撫でるとコウは真っ赤になってしまう。
ナオはレンのことをジーっと見てる。
「ねぇ、お兄ちゃんはコウと同じくらいだけどそんなに強いの?
どうしたらそんなに強くなれるの? 私も強くなれる?
今回みたいに足手まといになりたくないの……」
その場にいた皆が健気なナオの発言に目頭を熱くする……
うつむく可愛らしい顔に美しい栗色の髪の毛がはらりとかかり、この年をしてドキッとさせる儚さを見せている。
「二人はいくつになったの?」
「お、僕は16歳です!」
思ったより年上だった。童顔という奴だ。
「私は、15歳です」
正直10歳位と思っていたユキムラ達は、ポーカフェイスでぶったまげていた。
「ほ、本気で強くなりたいなら……一緒に来る?」
ソーカは少々混乱しているみたいで思わずそんなことを口走ってしまう。
あっ、という感じでユキムラを見るが、ユキムラは別にいいよーといつも通り優しく頷く。
コウとナオはお互い目を合わせて力強く頷く。
「連れて行ってください!」
「お願いします!」
ひょんなことから同行者を作ってしまった。
「レン、この場合修道院への連絡が先だよね?」
「そうですね。枯れ木地帯の調査も含めて一度ウーノの街に行って話した方がいいでしょうね。
ふた手に分けて、枯れ木地帯からの被害を広げないように隔離しに行くチームと、ウーノの街で手続きを終わらせる方、この場合、封鎖をソーカねーちゃん、ヴァリィさん、タロにお願いして。
師匠と自分でいろいろと街で動いて、終わり次第師匠は枯れ木地帯の、まぁ攻略になると思うのですがに合流して、僕は街でサナダ商会あたりの手続きなどをする。っていうのがいいと思います」
さらさらと今後の計画を立案してくれるレン。
「そしたら、そうしよう。まずは二人。
俺とレンと一緒に街へ行こう。それでいろいろと手続きして……
修行開始だね」
二人が満面の笑みで嬉しそうに頷く。
こうして、小さな仲間が二人加入する。
明日も17時に投稿いたします。たぶん。