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258話 お披露目

 道路設置部隊が帰ってきたのはユキムラとレンが語り合った翌日の昼だった。

 出発前は家が建ち並んでいた一角が、立派な外壁に囲まれた空間に変わっていて、ユキムラとの付き合いの短い隊員たちは度肝を抜かれていた。


「みんなお疲れ様ー、庭園の方にお昼用意したから楽しんでいってー」


 すでにユキムラが通信で家の完成祝と龍の巣までの道路敷設完了の祝を合わせてやることを伝えてある。

 ユキムラ達が楽しみにしていたテンゲンの名物である魚、ユキムラの予想通り、うなぎも名店の職人を呼んで準備してある。

 スキルで調理も可能だが、長年の経験と技術の集約した調理にはとても敵わない。

 最高のうなぎを食べるために、ぐっと我慢してこの日まで下調べだけに徹している。

 屋台みたいな出店もあって、比較的安価な蒲焼き的なお店の匂いにも必死に我慢していたのだ。

 ソーカも悟りに近い域に突入しており、全ては今日この一瞬のためと我慢の時を過ごしている。

 

「師匠、挨拶的な物をお願いします」


 皆の手にグラスが行き渡り一斉にユキムラへと視線が集まる。

 流石に最近はこういう挨拶にも慣れてきているユキムラだった。


「えー、皆さんの協力でテンゲン和国最後のダンジョンである龍の巣までの道路の敷設。

 それに白狼隊の拠点の完成にいたりました。

 皆の協力に心からの感謝を、そして、今後のダンジョン攻略に向けてより一層の尽力を期待しております。

 今日は、ささやかながら食事と飲み物をたっぷり用意しました。

 心ゆくまで楽しんでください。

 乾杯!」

 

「かんぱーい!」


 地元テンゲンの料理を中心にユキムラとレンが用意した今まで旅してきた各国の料理がテーブル狭しと並んでいる。

 ユキムラ達も隊士達もみな楽しそうに食事を楽しんでいる。

 それでもやはり大人気はうなぎだ。

 タレ焼き、白焼き、キモ串焼きに肝吸い。

 日本での楽しみ方は一通り揃っている。


「ユキムラさーん! 凄いですようなぎ! 美味しすぎます!」


 ルールとして一品受け取ったら最後尾に並ぶようにしているので、ソーカはさっきから屋台が並ぶエリアをぐるぐると周回している。楽しそうで何よりである。


「白焼きにわさびが日本酒と相性抜群ね~、ユキムラちゃんはタレ派ね」


「僕このキモは苦手でした……」


「キモは好き嫌い出るかもね、俺はやっぱりタレを白米と一緒に食べるのが最高だね!」


「師匠の言っていた卵焼きに入れたのも美味しかったですね!」


「テンゲン和国の屋台は楽しいのが多くてついつい飲み過ぎちゃうわぁー」


 屋台は焼き鳥や、にぎり鮨など様々なお店に依頼をして出店してもらっている。

 日本っぽい文化のテンゲンは祭りのときなどはたくさんの屋台が並ぶそうだ。


 最初の一時間ほどはユキムラ達と隊士だけで水入らずの時間、そしてそこから一般の方々にも門戸を開いた。

 引越しの挨拶も兼ねていたが、ギルド長や懇意にしてもらっている政治家の方々は最初から参加してもらっている。

 一般の方々は壁に囲まれた呪われた地の内部が、数日での変貌に驚くしか無かった。

 さらにそこに広がる美しい日本庭園風の景色と、木の魅力を全面に感じる和風建築に心を奪われるのに時間は必要としなかった。

 すぐに会場は祭りの雰囲気に包まれていく。

 日本庭園や和風建築は非常に受けがよく、高官の人間の何名かはユキムラに自宅の建築を依頼するほどだった。

 さらに日本庭園風の市民の憩いの場として作りたいなんていう依頼まで言い出す始末だ。

 こういった依頼はユキムラのもとで建築系スキルを鍛えた隊士達がこなしていく、サナダ商店建築部門である。


「いやー、ユキムラ殿! 素晴らしい新居ですな!」


 ライコは素晴らしい景色に、素晴らしい食事、そして絶品の酒にすっかり酔いしれていた。


「ライコさん、どうですかお酒の方は?」


「いやー、私も結構飲む方ですが、ここの酒は誠に旨い!

 景色に食事、そして酒! 控えめに言っても最高ですな!」


「もうすぐ夕方になりますが、夜もいい感じになる工夫してますからゆっくり楽しんでくださいね」


「おっと、それを聞いていは酔いつぶれるわけにはいけませんな!」


 お酒による酔いには解毒魔法が効く。威力をコントロールすれば酩酊せずに気持ちよく成れる。

 さすがギルドマスターを務めるライコは簡単な回復魔法に解毒魔法も嗜む。

 相変わらず上機嫌ではあるものの少し冷静さを取り戻している。


「そう言えば、他の街のギルド長達が皆羨んでましたよ。俺も訓練受けたいーって。

 あ、それに通信設備、本当に感謝いたします。

 こんな長距離の魔導通信なんて王族でもなければ使えません。

 ギルド間の連絡が密に取れればさらに冒険者のバックアップに注力できます。

 本当にありがとう」


 真面目なギルドマスターとしての表情で深々と礼をするライコ。

 こういった生真面目で気持ちのいいところがユキムラに気に入られる要因だ。


「そう言ってもらえるとこちらとしても嬉しいです」


 ユキムラはライコと杯を交わす。


「おお、ライコ殿こちらにいらしたか。それにユキムラ殿、本日はこのような素敵な会にお招きいただき

感謝する」


 二人の会話に参加してきたガッシリとした体型の男はこのテンゲン和国の軍事を司る部門の副長をしている……


「師匠、こちらがテンゲン和国帝都配属部隊『桜花』、副長ソーシさんです」


 いつの間にかユキムラの隣にレンが控えている。

 レンが繋いだパイプの中でも大物に当たる政治家だ。

 

「ソーシ様は武人として異例の出世をなさってますが、文官としても非常に優れた方で、実質テンゲンの軍部を支えている柱と言われています」


「ハッハッハ! 隊長のカリスマで持ってる部隊をつなぎとめる小間使いですよ私は!」


 あっけらかんと笑うその笑顔、目が細く表情が読み取りにくいが嫌味な感じはしない。


「細目キャラは有能ってのはVOの鉄則だからな」


 ユキムラは誰にも聞こえない小さな声でつぶやく。

 新たな人物の登場。同時に庭園がライトアップされていく。

 地中に仕組まれた魔道具が美しく庭園を照らしていく。

 無骨な街灯を並べるのではなく、間接的な照明で庭園全体に昼と異なる魅力を彩っていく。

 こうして、祭りは夜の部へと移行していくのであった。

明日も17時に投稿いたします。

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