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老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件  作者: 穴の空いた靴下
フィリポネア共和国編 フィリポネア王都
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224話 試運転

 ラナイとカイは驚愕していた。

 このダンジョンに入って数え切れないほどの強敵と戦ってきた。

 白狼隊は強かった。それでも共に戦いを経て成長した。

 そこに一切の迷いも不遜もなく言える。成長した。

 入った時の身体とは全くの別次元に成長した。


 それだけに、今目の前で繰り広げられている戦闘が信じられなかった。


 槍と刀がぶつかる衝撃で地面が裂け、空を切り裂く。

 槍と棍が激しくぶつかり合う衝撃波で自分たちを護る結界がビリビリと震える。

 見たこともないような高次元の魔法を槍が引き裂き、盾で凌いでいる。そんなことが可能なのか? 目の前で見ていても信じられない。

  文字通り目にも留まらぬ速度で空を駆け、四方八方から襲いかかる獣。その攻撃を凄まじい槍の弾幕で凌ぐ。

 そんな強大な破壊力を秘めた槍の目前に、迷いなく踏み込み肉薄する無手の戦士。


 今までの戦いで見た白狼隊はあくまで二人の常識の中で戦っていた。

 今は違う。これが白狼隊の全力なのだ。


【すげーなオイ!! 怖くねーのかよ!】


「一撃、いや、触れるだけでも『もってかれる』だろうね」


 ザッパルは耳を疑った。

 その致命の一撃を最も近距離でさばき続けるユキムラが発する言葉とは思えなかった。

 それほど、まるで日常のつぶやきのように静かな発言だったのだ。


【他の奴らもぶっ飛んでるが、お前は別格だな!!

 ユキムラだったな! 名前覚えたぜ!!】


 ザッパルという名の魔人も規格外だった。

 ユキムラ、ソーカ、ヴァリィ、タロ、レンを全て相手取り多少の損傷はしているものの、いつ何時致命的な一撃が飛んで来るかわからない。白狼隊は一部の油断も出来ない。

 サナダ街を滅ぼした時のサラダトナスや、帝国で対峙したサラダトナスよりも遥かに強者に思われた。


「サラダトナスよりも上位の魔人なのか貴方は」


 ユキムラの問いかけにニヤリと笑う。


【ハッハー、あいつは口ばっかりで鍛錬を怠ってたからあんな結果になったんだよ!

 おもしれー奴だったし、見事な最期だったがな。

 俺はさぁ、戦うのが大好きなんだよ! 

 しっかし、今回の実験は失敗だな、こんな身体じゃ戦いを楽しめねぇ……】


 喋りながらも攻勢が緩むことは無い、力と速度によって巨大なエネルギーの質力を纏った槍が白狼隊に止まることなく襲いかかる。

 攻撃の大半をユキムラがそらし弾いてなお一斉の攻勢に出ることを許さない。

 恐るべき技量だと認めざるを得ない。


「十分強いと思うんだけど……」


【確かに出せる力も動きもあんまり変わんねーけどさぁ!

 やっぱ、得物が違うのは大変なんだぜ!

 あとは、何と言っても痛みがねぇ! 

 ……これがいけねぇ、オメェらの攻撃が感じらんねぇのはいただけねぇんだよ!!】


「!?」


 ゾクリと背筋を恐ろしい気配が疾走る。

 『この攻撃を受けてはいけない』

 直感でしかない、勘だ。しかし、この勘は膨大な戦闘経験の裏付けから来る瞬時の判断。

 ユキムラはやっと肉薄できた優位を捨て放たれる一撃を全力で回避する。


【な? そういうのは食らうと痛ぇって感覚があるからわかる。

 そういうヒリヒリしたもんがわかんねぇ……】


 一旦距離を開け、お互いに一呼吸する。

 

【あーあ、せっかくこんな極上の戦いなのに、おしーなー……

 水指すようで悪いけどこの身体、もう少しやりあってると止まるな。

 すげぇよお前ら、ほんとに、あーーーーー!!!

 楽しい!! 楽しみだ!! お前らと対峙できる日が!!

 つまみ食いはこんなもんにして、今日はお終いだ。

 また、絶対逢おうな。頼むぜほんとに】


 ニカッっと笑う石像。

 すでに顔つきはザッパルという魔人の顔つきに近くなっているんだろう。

 ギラギラとした目、炎のようにぶっとい眉、大声を発するでかい口、人懐っこさを感じさせる濃い顔が満面の笑顔を見せる。

 三叉の槍を天にかざす。


【またな】


 涼やかな挨拶と同時に凄まじい豪雷が直上へと放たれる。

 この地へザッパルが現れたときと同じように空間が引き裂かれ、その隙間に豪雷が吸い込まれていく。


「な、なにが……」


 バリバリと空気の震えが収まると嘘のような静寂がその場を支配する。

 ハァハァと乱れた白狼隊達の呼吸以外なんの音もしない。

 槍を天にかざした石像がサラサラと砂状に崩れていき、戦いの終わりを告げる。

 嵐のように現れて、嵐のように去っていった。

 勝利感なんて一ミリもなかった。敗北感にも似た虚無感が白狼隊を支配していた。


「ザッパルか……実体はもっと強いんだろうな……」


「魔法が効かないのはあの石像のせいなのかザッパルという人の力量なのか……」


「両方だろうね。あんな魔法の避けかた俺も知らない。無茶苦茶だけど、恐ろしいね」


「あれで槍使いじゃないとか、冗談であってほしいわぁ……」


「ユキムラさん以外であそこまで完封されるなんて……」


「いやー、皆の助力がなかったら危なかったよ。ほんとにありがとう……」


 ユキムラが大きく息を吐く。

 腕がしびれ始めていることに気がつく、アレ以上の長期戦になっていたら、影響が隠せなかったかもしれない。

 状況の変化についていけなかったが、どうやら戦闘は終わったことに気がついたラナイとカイが走って寄ってくる。


「な、なんだったんださっきのは!?」


「とんでもない戦いだったな!」


 すこし興奮している。

 とりあえず白狼隊の消耗は想像以上だったのでその場で緊急メンテナンスを行う。

 崩れ去った像の砂からは魔力的な物が根こそぎ消滅していて、いわゆるエネルギー切れだろうとユキムラ達は分析した。

 あのまま戦っていたら、この仮初の肉体は動けなくなってしまう。

 その前に白狼隊のことや、『実験』と呼ばれたものの成果を報告しに行く。

 脳筋に見えるが、ザッパルの行動は高い知性を感じさせた。

 ユキムラは敵が少しづつ自分たちに迫ってきていることをヒリヒリと肌で感じていた。


「そういえば師匠、たぶんですけど……

 さっきの相手、魔力を『喰う』のかもしれません」


「そうなの? どうしてそう思うの?」


「魔法を構築する時に普段より消費する魔石魔力が多すぎるんです」


 ユキムラはVOの感覚で使用するので気がつけなかった変化、ユキムラにとって閉鎖空間での大気中の魔力は大規模戦闘になるほど満たされるものではあっても枯渇するものではない。

 周囲の調査の結果、アレだけの高出力な戦いの後にも関わらず、周囲の魔力濃度が極端に薄くなっていることがわかった。


「魔人は魔力を喰う、か……

 ありがとうレン、俺だったら気がつけなかった」


「良かったです。間違っていたらどうしようかと……」


「いや、間違ってたら間違ってたでなんの問題もないさ。

 ただ、やつと限られた空間で戦う時に、なんらかの対策がいるんだろうね……」


 いくつもの問題点がでてきた。

 とりあえず最奥と思われる扉の向こうにいる女神を救出しないといけない。

 ユキムラはまとまらない考えを抱えながら最後の扉を開く。








明日も17時に投稿いたします。

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