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老舗MMO(人生)が終わって俺の人生がはじまった件  作者: 穴の空いた靴下
フィリポネア共和国編 フィリポネア王都
221/342

221話 超成長

「はい、終了。後ろで見ていてください」


「なっ……!?」


 本日の初戦開始8分でラナイ、アウト。

 現在海底神殿ダンジョンに侵入して5日目。

 これでも最長記録だ。


「い、いい加減にしてくだされ! まだ儂は何もしておらん!」


「ラナイさんの実力で3体目を引き付ければ防具だよりの戦闘になるとあれ程言っているのに、大量に巻き込む大技を放っておいてまだ言いますか? 昨日言いましたよね、範囲攻撃を打つ時はきちんとヘイトを管理するか、数が確実に減るように使えと。自分が持てる敵の数以上に抱えないでください。もしそれをするのであれば防御に徹してください。そうすれば相手をする人数が減った他の人が殲滅して駆けつけます。別に大技を使わなくてもラナイさんは攻撃力あるんですから、きっちり一対一の条件を作って各個撃破してくれることから始めてください。今から私が斧で立ち回るのでよく見てくださいラナイさんの特色を活かす立ち回りでやってみますから」


 ラナイも全く成長していないわけではなく、やっと名前を呼んでもらえるようになった。

 ラナイが何を言おうが、同じ武器で見事な立ち回りをするユキムラの戦闘を見せつけられて、夜の勉強時間にはきちんとユキムラの話しを聞いている。

 今までの天上天下唯我独尊な戦闘スタイルはなかなか抜けないが、それでも変化はしている。

 ユキムラも戦闘スタイルを変える大変さは十分理解しているが、今後起こるであろう厳しい戦いにおいてラナイの戦闘方法では犬死になることは間違いない。

 皆と力を合わせて強敵と対峙する戦い方を知ってもらわないといけない。

 フィリポネア王、カイは素直にユキムラの助言を聞き、今ではほぼ問題なく白狼隊と肩を並べて戦闘をこなすことが可能なレベルまで達していた。


「あ、ラナイさんお疲れ様です。今日も……その……長かったですね……」


 夜のキャンプ、ラナイは食後にはユキムラの個人レッスンを受けるのが通例になっていた。

 レンはお茶とお茶請けを差し出す。


「ああ……すまないなレンくん」


 連日のダメ出しにはじめの唯我独尊なラナイはなりを潜めている。


「なかなか、変えられなくてなぁ……」


「最初に比べるとだいぶ周りを見るっていう意識が出ていますし、成長してますよ!」


「そう、成長だけはしてしまう。肉体ははちきれんばかりだ……

 それを爆発させたくなってしまうんじゃ……」


 肩をすぼめて寂しそうにお茶をのむラナイは肉体は若々しくパンプアップしているが、老け込んだような印象すら覚えてしまう。


「分かります……どんどん成長して、自分がどんな力を持っているかワクワクしちゃうんですよね」


 レンにも覚えがあった。自分が信じられないほどいろんなことが出来るようになっていて、それでも師匠がいたからいいつけを献身的に守り続けた。

 ラナイはそうではないのだ。


「ちょっと師匠と話してきますね。ゆっくりしてくださいね」


「ああ、いつもすまない……」


 レンはユキムラの部屋をノックする。

 中からどうぞーという気の抜けた返事がする。

 

「何かあったー?」


 いつもと変わらないユキムラがいる。あの指導中のユキムラは妙に丁寧で冷たくて少し苦手だった。


「師匠、ラナイさんのことでちょっと……」


「ああ、そうだね。明日言おうと思ったけど……」


 もしかしてクビ宣告なのではないかとレンは身構える。


「ラナイさんに自由に立ち回って貰おう。

 たぶんレベルが上がりすぎて試したい鬱憤が溜まっているだろうから、ガス抜きしないとね!」


「……はい! そしたらすぐに伝えてもいいですか!?」


「ああ、いいよー。だからレン明日はよろしくねー」


「はい! 頑張ります!!」


 レンは、この人が師匠でほんとに良かった。

 改めてそう思う。

 お茶を飲んでいたラナイにそのことを伝えると、ほんとにいいのか!? と何とも言えない笑顔で絞り出すようにかたじけないと肩を震わせていた。

 ラナイさん自身もギリギリだったのかもしれない、偶然かわかってこのタイミングなのかはレンには分からないが、それでもこういうところに気を回せるのがユキムラの尊敬できる点だった。


 翌日はラナイとカイの二人、持てる力のすべてをぶつけていいというユキムラの指示の下、自身の成長を噛み締めながら大暴れしていた。

 今までの自分とは別の生き物がそこにいる。

 そう思ってしまうほど動く自分の体、見たこともないような威力の技を自分が放っている喜び。

 今まで抑えていた分反動のように大爆発した。


「大技を放っても疲れもしない、装備のせいもあるが、自分自身の底が見えない……」


「身体が軽い、思った通りに身体が動く! なんと素晴らしい世界なんだ!!」


 同時に気がつく、自らが力をもって改めて白狼隊の凄さを感じることも出来た。

 そして、ラナイは思い知る。白狼隊の全員がどれだけ戦場全体を見渡して把握しているかを。

 ユキムラが口を酸っぱくして言っていることのほんとうの意味を初めて正確に理解できた。


 この日を境に二人の動きは劇的に変化する。

 白狼隊とパーティとしての動きが取れるようになり、ダンジョン攻略のスピードは段違いに加速するのであった。


「基礎は何より大事」


 ユキムラの座右の銘。

 その重要性は誰一人疑うことはなくなっていた。

 

明日も17時に投稿いたします。

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