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169話 決着

【ぬっ! ぐっ! なん、なんだ貴様は!!】


 サラダトナスは屈辱を覚えていた。

 サラダトナスが攻撃を放とうと剣を引き、払おうとするとその柄をユキムラの槍が弾く。

 突きを打つために引き絞り、突きだそうとする前に槍の穂先で剣先を押し込まれる。

 何かをしようとすればことごとく、その初動の入りを完璧にユキムラが妨害してくる。

 距離を取ろうとしてもピッタリと一定の距離を付かず離れず、全身を把握されているかのように付きまとわれる。

 あまりユキムラの動きに集中していると、他のメンバーからの攻撃が来る。

 周囲からの攻撃を受けようとする動きさえ、初動を妨害してくるのだから質が悪い。


「あれ、やられる側は心が折れてくるのよねー……」


「もう、どーにでもしてくれっって気持ちになりますよね……師匠は無表情でずっと続けるし……」


「でも、あの支配されているって感じ嫌いじゃないです……」


「えっ?」「えっ?」「えっ?」



【仕方ない……主の力、今使わせていただく!】


 超高速の世界。

 今まではこの世界で動くものはただ唯一自分のみであった。

 しかし、今は違う。

 ぴったりと自分の動きに合わせてくる者がいる。


(馬鹿な!? なぜ全く同じタイミングで!!)


 サラダトナスはほんの少しでよかった、一瞬でもユキムラの対応が遅れればそれでズレた時間を利用して距離を取るなりして仕切り直したかった。

 しかし、サラダトナスが能力を発現するのとまったく同時にユキムラも対応してくる。

 剣撃の隙間、予備動作の間、どんなタイミングで使用してもピッタリとついてくる。


 明鏡止水。


 極限まで集中したユキムラは、動きや直感も含めた物もあるが勘のような第六感的な超能力を発揮して相手の動きを完全に把握しているのだ。

 しかも、ユキムラ自身は攻撃はしない。

 延々と相手の行動阻害だけを行い続ける。

 他のメンバーが少しづつ少しづつサラダトナスの体へダメージを蓄積させていく。

 この現状がどれだけ精神的に辛いものか、何も出来ない。

 文字通り何にも、何をしても対応される。

 まるで相手に操られるかのように動いてしまう。

 少しづつそれでも確実に自分の死が近づいてくる。

 足元がゆっくりゆっくりと砂に沈んでいく、そんな状況だ……


 ユキムラ以外の白狼隊のメンバーも繰り返されるスキル発動にだんだんと学習していく。

 僅かな敵のズレのようなものを察知してすぐに自身もスキルを発動する。

 ユキムラのお陰で今後この時間操作をしてくる敵に対抗する、絶好のトレーニングを積むことが出来ていた。


【こ、こんな事があるかぁ!!】


 焦りと怒りと恐怖が入り交じった状態で大振りの雑な攻撃、予想と異なり妨害されずにその攻撃を『放って』しまう。

 ユキムラは流れるようにその攻撃を受け、そしてクリティカルがサラダトナスの体に吸い込まれる。

 槍の穂先が黄金の鎧などそこに存在し無いかのように吸い込まれ通り過ぎていく。


【……ゴボァっ!……何だ……これは……】


 目の前には最初から変わらないユキムラの姿。

 腹部からごっそりと何かが失われた感覚がする。

 あまりの鋭さに自分が傷つけられたのがわからない。

 今、何が起きたのかわからない。

 相手に対して行われたことを自分の身をもって知ることになる。

 認識できない攻撃による恐怖。

 ユキムラだけではなかった。

 自分と相対する敵、白狼隊の全員に対して魔神より与えられた無敵の力が通用しない。

 第二皇子の間者などをゴミのようにおもちゃのように引き裂いた力が、全くの無力。

 今まで自分がしてきたように、逆に自らが傷つけられていく。


【これが、来訪者……女神たちの切り札か……勝てぬなら、私のすることは一つ。

 この事態を主へと伝えることだけ!】


 覚悟を決めなければならなかった、『最期』の手段が取れなくなる前に。


「無駄ですよ。この結界は破れない」


【ああ、そのようだな。普通の方法ではな】


「それに、何も……させない……!」


 サラダトナスはユキムラの眼差しに間違いなく恐怖していた。

 透き通っているが輝きがなく、静かに、どこまでも静かな瞳。

 その瞳に見つめられると全ての行動を見透かされる。

 眼の前にいる来訪者は自分よりも上位の存在、主達と並ぶ存在なのではないか? 

 そういう気持ちにさせられてしまう。


【これがあのお方の使徒を名乗らせてもらったサラダトナスの覚悟だ!!】


 ユキムラに背を向け、黒剣を腹へと突き立てる。

 自分の身体を目隠しに不可視の一撃を放つ、もちろんそれだけではユキムラには届かない。

 対峙していたサラダトナスが皮肉にも一番それを理解していた。


【喰らえ】


 その呟きと同時に黒剣が一瞬の内にサラダトナスの肉体を食らいつくし吸収してしまった。

 自らの生命エネルギー全てを喰らわせて放つ最期の一撃だ。


 ユキムラの突き出した槍の穂先が、黒剣の切っ先と触れた瞬間。


 莫大なエネルギーが、天上の結界のただ一点の突破を目指して、くだけちる黒剣から射出される。 

 ユキムラも黒剣の意思を理解しなんとか槍で妨害を試みるも、サラダトナスの生命をも利用したその一撃は防ぐことを許さず、突き出した槍を蒸発させる。

 何重層モノ結界を打ち破りエネルギー体は遥か彼方へと飛んで行ってしまう……


「逃したか……」


 ユキムラが悔しそうに呟く。

 破られた結界が周囲の大気を振動させている。

 

「レン、ソーカ現状の把握を、ヴァリィ・タロは俺と一緒に周囲の警戒を……

 すまない、逃したみたいだ」


「師匠……」


「すぐに現状を把握いたします」


 残党はいない、周囲から敵の気配はない。

 この帝国の危機は排除したのだ。


「ワン!」


 タロが吠えると首から下げていた時計が光りだす。

 見知った女神が姿を現す。

 アルテスとクロノス、それにロームだ。


【とりあえずはご苦労様、この地の脅威は一時取り除けたわ】


 アルテスは少し疲労が抜けたような顔をしている。人も増えたからね。良かったね。


【じゃが、つぎの手がすでに動き出してしまった……】


【白狼隊のみなさん、また時を遡りテンゲン、フィリポネア、ケラリスに迫る魔王の軍勢に対抗して欲しい。期間はそれぞれ3年です】


 西の群島国家フィリポネア共和国、中央の独自の文化を持つテンゲン国、そして東のケラリス神国。

 この3国は南に位置する魔王が治める魔国マジカポイントからの同時侵略を受ける手はずになってしまっている。

 すでに魔神の使徒によってその計画はこの時間軸では進行しすぎている。

 それに対抗するためにまたクロノスの奇跡に頼るしか無い。


【私の時計の箱、その中に持っていくもの入れて。そしたら送る】


 いち早く準備を行っていく。


「そう言えばそれ以外の道具とか、以前の王都の道具ってどうなるのですか?」


【大丈夫、時の旅が終われば全て統合される。

 各地で謎の来訪者の大活躍で世界の危機に抵抗する。そういう事になる】


【ユキムラはわかるでしょ?】


 ユキムラはVOのイベントのことを思い出す。

 時空の旅が終えれば時間の統合が起きて、いろいろと辻褄が合うようになっている。

 

「あと、敵である魔神は……みなさんのお知り合いなのですか?」


 ユキムラは自分の思うことをぶつける。

 ロームは顔をしかめ少し迷いを見せる。


【それに関してはすまぬが答えられぬ、時が来れば自ずと分かる。

 それではいいな。クロノスちゃん送っちゃって!】


 一転してデレーっとした表情でクロノスに話しかける。

 クロノスは時を渡る準備をしていく。


 ユキムラは少し思い当たる節があった。

 この世界を我が物にしようとしている魔神に、それでもとりあえず今はイベントを進めていくことが最善だ。

 なにか、いまのユキムラにその魔神への対策ができるわけではないので……。


【ではフィリポネア共和国。魔王侵攻の3年前に、ご武運を】


 まばゆい光に包まれ、白狼隊は再び時の旅へと旅立っていく。

ユキムラのガチタイマンは怖い……

PvPでは相手が根負けするまで続きます……


明日も17時投稿を目指しています!

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