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167話 罠

 ホテルのロイヤルスイートに第二皇子ライガーが入ると第一皇子であるファウストは苛立ち落ち着きが無いように体を揺すっていた。その側には顔色の悪い一人の男が立っている。

 この男がゴルビ、最近ファウストにつきまとう商人だとリンガーが気がつく。

 そっとライガーへサインを送る。

 ライガーは態度・表情へ出すこと無く自然に挨拶を切り出す。有能な男だった。


「久しぶりですね兄上。随分と落ち着きがない、それにひどい顔色ですよ……?」


「ふん、久しぶりに逢った兄に随分な口の利き方だな。

 最近少しチヤホヤされているからなにか勘違いをしているのじゃないか!?」


 苛立たしさを隠すこなくファウストはライガーに当たり散らす。


「これは手厳しい。私としては弟として兄の体調を気遣っただけなのですが……なぁリンガー?」


「そうですよ、兄上。一度医者にでもかかられたほうが良い、本当にひどい顔色だ……」


「くそ、兄弟揃って、いや、お前は女だったな! 誇り高きゲッタルヘルンの皇位継承者に女が連なること自体許せんのだ……」


 ブツブツとつぶやいてしまう。まともな会話もできない。これは噂通りゴルビから怪しい薬を与えられている影響だろう……


「ところで兄上そちらの御仁はどなたかな?」


 問われるとわざとらしく腰を低くゴルビが前に出る。


「これはこれはライガー様、お初にお目にかかります。私ゴルビと申します。

 いやなに、ファウスト様に懇意にさせていただいているしがない商人でございます」


 態度こそ揉み手に擦りてだが、その声からは敬意の欠片もなく卑しく相手に媚びる様子だけが伝わり、ライガーは態度には表さないが不快感が体を蝕んでいた。


「ほほう、そなたがゴルビ殿か。噂は聞いている。なぁリンガー?」


「おお、私などの名を知っていただけているとは光栄の極みでございます」


「奴隷売買、違法薬物の流通、武器の密輸、それにどこのものとも知らぬ私兵を集めておるようだな」


 リンガーの突き放すような報告で室内の空気が変わる。


「リンガー様、何のことかわかりませんが、私のようなチンケな、一商人にそのようなだいそれたことは……」


「おお、そうか。スマヌな女神から聞いたからすっかり真実だと思ったぞ」


 リンガーが懐から鏡を取り出す。

 変身系魔道具の正体を看破する魔道具、真実の鏡だ。

 自身が変身しているリンガーに同時に与えられたものだ。

 鏡に照らされたゴルビはローブを纏った老人へ姿を変える。


「ほう、皇子が集う場に変装しておいでとはいい趣味だなゴルビ。貴様何者だ?」


「な、ゴルビ……貴様……」


 ファウストもうろたえている。やはりファウストはゴルビの正体は知らないようだ。


【ククククク……やはりこんな馬鹿は放っておいて貴方を始末しておくべきでしたよライガー皇子】


 ゴルビの姿が消える。

 実際には超高速でライガーに襲いかかっている。

 リンガーでも認識しても動き出せないほどの高速、しかし、これも想定内だった。

 超高速時間の中でゴルビの剣を受ける盾、そしてゴルビに突き出される杖が腹部にめり込む。

 同時にゴルビの姿がその場から、『本当に』消えた。


「ユキムラ殿!!」


「大丈夫、成功しました。この礼は必ず。すぐに行きますまた、あとで!」


 突然その場に現れたユキムラはすぐに自分も転移をする。戦いの場へと。


 安全策はいくつも用意されていた。比較的素直にゴルビが反応してくれたために比較的スマートに対応できていた。部屋全体に設置された魔道具によって最初にライガーが席についた時点ですでにユキムラへと変わっていた。

 この部屋には大量の魔道具が設置されており、場合によっては区画ごとに区切って隔離、転移できるようにもしてあった。

 今回は直接攻撃からの転移という方法が取れたので部屋への影響も皆無だった。


「後は彼らに任せるしか無いな、さて、兄上。貴方には治療を施さないといけませんね……」


 室内に医師や看護師、神官、魔道士などが入ってくる。

 ファウストはすでにゴルビの変化で心が負荷過剰になっているように大人しかった……



【ぐぅ!? こ、ここは!?】


 ゴルビが突然の転移に混乱している。今までホテルの一室に居て今まさに邪魔者を排除した。

 そう確信していたが、実際には腹部の鈍痛とともに草原に放り出された。


「上手くいったみたいですね師匠は……」


 ゴルビは周囲を見渡すと男が二人、女が一人、犬が一匹居ることに気がつく。

 そしてすぐにもう一人の男が現れる。自分がここに誘い込まれたことは明白だ。


「さて、ゴルビ……お前の思惑通りにファウストにクーデターを起こして王国を攻め落とすというシナリオは崩れたぞ」


【な、何故そこまで正確にこちらの策が漏れている?】


「そうだな、俺が来訪者だからだな」


 ユキムラがそう言い放った瞬間ゴルビは本来の姿へと変化しながらユキムラに切りかかっていた。

 黄金の騎士。未来にサナダ街を滅ぼし、ユキムラ達を殺した騎士だ。

 その高速の剣はユキムラには届かない、ヴァリィの棍が叩き落とし、そしてソーカが切りつけている。

 すでに白狼隊は超高速戦闘を完全に自分たちの物にしていた。


【女神の眷属だとして、なぜ追いつける……この力を持つものはいないと、あのお方はおっしゃっていたが……】


「ズルをするのは良いが、いつまでも調子に乗られては困る。今度は……負けない!」


 リベンジの時だ!

 

明日も17時投稿を頑張ります!

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