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第七章 ジョルジュ・シャリアン

「アシュタロトを返してもらいに来たわ。」


任務遂行の為、謎の気配の持ち主の正体が不死鳥族であった事を伝えに一度は瞬間移動で日本へ行くつもりだったがローサを見殺しに出来ずエジプトのスフィンクスの前に戻って来た。


「バルムング………なんで……」


だいぶ手酷くやられていたようで白い肌が血で赤く染まっている。


「あんたに死なれたら喧嘩相手いなくなるからね。」


他の悪魔達とは違ったロストソウル、うねるような爪が左右に三本具現化する。


「バカよ………」


嬉し涙が溢れてくる。おおよそ悪魔というカテゴリの中に嬉し涙などは無いものだろう。

それでも涙の向こうに見えるバルムングが頼もしい。


「フフ………悪魔の絆か………果たしてその行動が正しかったかどうか、すぐにわかる。」


オクターウ゛の余裕を見てバルムングが唾を吐く。


「嫌いなのよ、ああでもないこうでもないってウンチク語る男。戦士なら力で勝負なさい。」


「貴様もこの女と同じ目に合わせてやる。覚悟しろ!」


アシュタロトの血で濡れたケツァールを構えて飛び掛かって来た。

ケツァールが空を切る。

ギリギリのラインでオクターウ゛の攻撃をかわす。

オクターウ゛を引っ掻くようにロストソウルの残像が縦に線を引く。

接近戦でしか威力を発しない武器だが、剣や槍なんかと違って格闘術を知ってる者ならばこれほど心強い武器は他にない。


「考えようによってはその武器は最強かもしれんな。」


オクターウ゛もバルムングのロストソウルのポテンシャルを見抜いている。

剣は接近戦というよりは近距離と中距離の合間といったところだろう。間合いがなければ剣はその性能を引き出せない。

バルムングのロストソウルは相手の懐にいても十分に使える。


「一つ聞いていいかしら?」


「………なんだ?」


「不死鳥族が何しにこっちに来たのか気になってね……。他の種族に干渉しないのが貴方達の掟じゃなかった?」


「フン……何を聞きたいかと思えば。人探しだよ。」


「人探し?」


「不死鳥族の象徴である不死鳥を盗んだクソガキが人間界に逃げ込んだんでな、そいつを探してるわけさ。」


「そう……。それなら貴方と戦う理由はなさそうね。アシュタロトを返してくれるのならヴァルゼ・アーク様に協力をしてもらえるよう頼んであげてもよくてよ?」


本音ではない。本当ならこんな手は使いたくない。しかしオクターウ゛の強さは尋常じゃない。アシュタロトと二人生きて帰るにはそれしか方法がなかった。幸い互いが戦う理由はどこにも見当たらない。

交換条件なら呑むだろうとバルムングの苦肉の策だった。


「どう?地上は意外と広いわよ?」


「………………。」


何かを考えるように黙り込む。

確かにバルムングの言う通りヴァルゼ・アークに協力を要請したほうが無難だろう。

ただし、それは目的が『人探し』だけの話なら…に限る。


「どう?ヴァルゼ・アーク様を敵にまわすのは本心じゃないでしょう?」


「せっかくだが………」


そう言いかけていきなりケツァールで切りつけてくる。

太刀筋の速さに対応が遅れ、胸を斬りつけられてしまう。


「がはぁっ…………」


「せっかくだがお断りしよう。綺麗な女性のお誘いを断るのは忍びないが、自分の仕事は自分一人でやり遂げたい質でね。」


胸を抑えても血が止まらない。


「バルムング…………」


バルムングを助けようとアシュタロトが動こうとするが、自身の傷も深く治癒能力が追い付かない。


「ハァ………ハァ………」


「綺麗な女性とはいえ悪魔に変わりはない。気をつけなくてはな。」


緩む口元が憎たらしい。


「だいたい不死鳥族が悪魔などに協力を求めると思うか?」


オクターウ゛の目がキツくバルムングを睨む。


「残念ね…………だったら……いくとこまでいくしか………ないわね………」


意識も絶え絶えになりながらロストソウルを突き出す。

残る自分の力を振り絞り僅かな可能性に全てを賭ける。


「よくやるよ………感心するねぇ……」


オクターウ゛にしてみれば退屈そのものでしかない。

そろそろ飽きてきたのか、バルムングの頚椎をケツァールの柄で殴る。


「うっ……!」


鈍い痛みがバルムングの身体を押さえ付ける。


「もういいだろう?貴様らの健闘は讃えるよ。手も足もでなかったがな。ククク………」


必死に立ち上がろうとするバルムングの背中を蹴り、それを防ぐ。


「冥土の土産にいい事を教えてやろう。俺がここに来たのは人探しだと言ったが、それだけじゃない。」


「!?」


「魔導書があるだろう?そいつも探しに来たんだよ。なんでもフラグメントとかいう石が八つないと手に入れられないらしいが。」


「な……なんでそれを……?」


不死鳥族が知るはずのない単語にアシュタロトが驚く。


「ハハ……!別にどうでもいいじゃないか。それともう一つ、不死鳥王は…………」


「久しぶりだな、オクターウ゛。」


砂埃が巻き上がり、中から誰か現れる。


「誰だ!?」


空中をふわふわと浮きながら現れたマントの人物に見覚えはない。


「レジェンダ……!」


予期せぬ人物の登場にアシュタロトが一瞬痛みを忘れてしまう。


「こいつは………幽霊?久しぶりとか言ったな、幽霊に知り合いはいないが?」


「ちょうど八百年くらい前か………不死鳥族に会ったのは。」


「八百年前?…………………………………………。」


記憶を目一杯辿るが、オクターウ゛の記憶に幽霊と会った思い出などカケラもない。


「お前に剣を教えたやったはずだが?」


「………そうか、貴様ジョルジュ………ジョルジュ・シャリアンだな?」


ようやく思い出した。オクターウ゛に限らず不死鳥族は前にも述べたが、他の種族と交流を持たない。だから八百年前とはいえ他種族の者と会う事などない。だから一度でも会えばすぐわかる。幽霊でなければの話だが。


「思い出したか……それよりも彼女からその足をどけてやれ。」


バルムングの背中を踏み付けてる様が気に入らない。

こういったところを見るに、レジェンダは肉体こそ無いので言葉から表情を読み取るしかない。

こういう状況でも敵であるバルムングを気遣える心は紳士である事の表れだろう。


「幽霊になってまで何をしてるんだ?」


オクターウ゛様子がおかしい事にアシュタロトが気付く。

余裕が無くなっている。


「幽霊ではない。霊体だ。」


「たいして変わらんじゃないか。」


「ヒヨッコが……生意気な口をきくようになったか……」


ずっと不思議に思っていたがどうやらこの二人、立場はレジェンダの方が上のようだ。


「スタッカートは元気か?」


「フン、馴れ馴れしく不死鳥王を呼び捨てか?心配せずともそのうち会えるかもしれんぞ?」


「妙な事を。何の用があって人間の世界に来る?」


「どうせわかる事だから教えてやる。さっきこの悪魔のお嬢さんにも教えるつもりだったが、不死鳥王は人間界を破壊するおつもりだ。」


「何ですって!?」


「………………。」


声を上げ驚くアシュタロトに対してレジェンダは反応を見せない。


「ククク………驚いて声も出ないか?ジョルジュ、人間が罪深い生き物であると知ってるだろう?その罪の精算の日が来るんだよ。我々不死鳥族によってな。」


堪え切れず高笑いをしてしまう。何がおかしくて笑うのか?

それは地上に暮らす全人類に説明をしても誰一人理解は出来ない。

不死鳥族の寿命は人間の比ではない。人間がその人生を終わらせる時間さえ瞬く間の事。

住む場所を追われた恨みはかつての人間ではなくその子孫に向けられた。

彼ら不死鳥族にとっては原因となった人間だろうと子孫だろうと人間そのものが憎いのだ。

そして、何も知らずただ審判の日を待つしかない人間達がオクターウ゛にはおかしくてたまらないのだろう。


「ジョルジュよ、再会に免じてこの場は退こう。ほんの少し延命したに過ぎないがな。」


そう言うとオクターウ゛の頭上に穴が開く。


「そうそう、オノリウスの魔導書…………どこに在るかわからないか?」


「何故お前がオノリウスの魔導書を知ってる?」


「なあに、不死鳥族はなんでもお見通しなのさ。で、どうなんだ?知ってるのか?」


「………………さあな。」


レジェンダの様子からおそらく知っているのだと確信を持つ。

だが敢えて追求はしない。


「ならしかたない。自分で探すよ。また会おう、悪魔のお嬢さん……それとエアナイト、ジョルジュ・シャリアン。」


頭上の穴に飛び込みどこかへ去って行った。


「バルムング……!!」


アシュタロトが身体を引きずり意識のないバルムングの元へ行く。


「バルムング!バルムング!」


自分の傷も忘れバルムングの無事を確かめる。


「待て。」


ふわりとアシュタロトの横にレジェンダが来る。


「レジェンダ……?」


「私の魔力をお前とバルムングに注ぐ、そうすれば傷口くらいは防げる。」


レジェンダの目の前に魔力が集束する。

集束された魔力がアシュタロトとバルムングへ注がれ二人の傷口が見る見る消える。

元より加速再生能力という力を持つ悪魔。レジェンダほどの魔力の持ち主の魔力なら、僅かな量で能力を活性させる事が出来る。


「これで大丈夫だ。」


「あ…ありがとう。」


なんだか奇妙な空気が漂うがとりあえず礼を言う。


「ところでなんであんたがここに?」


「……お前達のオーラはどこにいてもわかるからな。もちろんオクターウ゛のオーラもな。」


「それだけ?」


「それだけだ。」


他に理由がありそうなものだが、叩いても何も出てこなさそうなのでこれ以上の会話を挫折する。


「ま…まあいいわ。命を助けてもらったんだもんね。このお礼は必ず返すわ。それと総帥にもちゃんと伝えておくから。」


バルムングを抱え上げ全長五メートルはある翼を広げる。


「それじゃ、レジェンダ………ジョルジュってのが本名みたいだけどそっちのほうがいい?」


「好きに呼べばいい。」


やっぱり聞かなきゃよかったと自分を責める。


「じゃ……じゃあね。また……」


「待て。」


レジェンダが間髪入れずアシュタロトを制止するので嫌な予感がする。


「な、何?」


「……恥を忍んでお前に頼みがある。」


マントを羽織り、付属のフードを被っているだけの『霊体』。助けてもらって感謝はしてるが、何せ何を考えてるかわからない生き物だ。

アシュタロトの脳裏にはあまりいい予想はない。


「まさか…………身体が目的じゃないでしょうね!?ダ……ダメよ!!!無理無理無理無理!!」


こんな時由利や千明辺りならクールに断るのだろうが、アシュタロトには出来ない話である。

ブンブン首を横に振る事で否定の念を送るしかない。

もっともそれもレジェンダの一言で終わる。


「………何を言ってる?私はただヴァルゼ・アークに会わせてほしいと頼むつもりだったのだが?」


「え?」


反射的に顔が赤くなる。


「あ………あははははは。あ、な〜んだ、そうだったの?か、勘違いしないでね、変な意味で言ったんじゃないからね!あんたが幽霊だから肉体をよこせとか言うのかと思っただけなんだから!」


先走って空回りした自分の過ちを必死に隠す。


「それよりヴァルゼ・アークに会わせてくれるのか?くれないのか?」


−………こいつ……!!−


「わかったわ。一緒に来なさい。」


全く相手にされてないので少しムカつく。


「頼んではみるけど会ってくれるるかどうかは保障出来ないからね!」


翼を羽ばたかせて飛び立つ。

レジェンダもそれに続く。


−どうやら私の勘違いはバレてないみたいね。よかったぁ…………−


「アシュタロト………」


「は、はい?」


「若いから仕方のない事かもしれんが変な方へ気を回し過ぎじゃないか?少し気を引き締めた方がいい。」


……………バレてた。


「うるさいわね。黙ってついて来なさい。瞬間移動するわよ!」


「加えておくが、お前は私の好みではない。」


グサッとアシュタロトの胸に言葉の剣が突き刺さる。

この時アシュタロトは心に誓う。


−絶っっっっっ対いつか殺す!!−


瞬間移動を発動させ日本へ戻った。














「兄さん?」


ドアを開けるとどこかに出掛ける仕度をしていた。


「トレモロか。どうした?」


仕度と言っても着飾っているわけではない。いわゆる旅仕度だ。


「どうしたって………兄さんこそどちらへ?」


何も聞いてないトレモロは不安を抱いてしまう。


「人間界へ行ってくる。」


「人間界へ?人間界へ行ってどうなさるおつもりですか?」


「闇十字軍に会って来ようと思う。


「悪魔の事ですか?お止めください!悪魔になんの用があって!?」


「騒ぐな。」


「だって…………」


「いいかトレモロ、スタッカートは本気だ。あいつを止められるのはヴァルゼ・アークくらいだろう。天使を全滅、果てはメタトロンまで倒した男だ。聞けば傍らには人間もいたそうじゃないか。トランスミグレーションの使い手とかいう。そして、その使い手を育てているのはジョルジュ・シャリアンだと聞いた。」


「ジョルジュ・シャリアン…………あのジョルジュ様が生きておられるのですか?」


「ああ。なんとしてもスタッカートを止めねばならん。今のスタッカートに私達の声は届かんからな。人間界への出陣も間近だ。彼らに会って知恵を借り、策を練っておかねば手遅れになる。」


仕度を終え、部屋を出ようとする。


「ですが………」


「お前はスタッカートを見張っていてくれ、トレモロ。恋人の監視なんてやりたくないとは思うが………」


ルバートの心中を察して表情を和らげる。


「いいえ、私もスタッカートの気持ちが汚れて行くのがわかります。彼には人間界の環境のように汚れてほしくありません。その役目、喜んでお受けします。」


「済まないな。」


優しく微笑んでトレモロの不安を解消させる。


「では行ってくる。」


「お気を付けて………」


ルバートが部屋を出て廊下を歩いて行く。

その背中をずっと眺めてただ無事を祈るトレモロ。


運命は皮肉にも二度と二人を会わせる事はなかった……………


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