第六章 人間の業
誰かはわからないが助けてもらったのはありがたかった。
天使との戦いでそこそこ腕に自信はついていたが、その鼻っ柱もなんなく折られてしまった。
「せめてトランスミグレーションがあれば………」
「不死鳥族ってそんなに強いの?」
「強いっていうか………うまく言えないけど戦闘慣れしてる感じはあったな。」
「でも不死鳥族って何の為に戦士なんか育成するんだろ?」
蕾斗がフォルテを見るがあまりいい顔はしていない。
「ねぇフォルテ、僕達の事信じられない?」
正直言うと蕾斗もそろそろ痺れを切らしつつあった。
フォルテがフランジャーを盗み出して追われているのはわかるし、仕組みはともかくこの世界での環境汚染が不死鳥界に影響を及ぼしている為不死鳥王が人間界を破壊しようとしているのもわかる。
でも何か足りない。
それが何かがわからないのが気持ち悪い。
レジェンダも今日は姿を見せていない。
きっとレジェンダも何か知っている。
「ううん。羽竜も蕾斗もあかねもレジェンダもいい人だし、好きだ。こうやって僕を助けてくれてるし。」
「なら質問に答えてくれないかな?不死鳥族は他の種族と交流も干渉もしないのに、戦士が存在するのはどうしてなの?」
口調はいつも通りの口調だが、どこか真に迫る感がありフォルテも覚悟を決める。
「………羽竜達の住むこの世界は、元々僕達不死鳥族のものなんだ。」
「いっ!?」
「今なんて!?」
出て来た言葉に羽竜と蕾斗が耳を疑う。
「羽竜達が地球と呼んでるこの世界、昔不死鳥族が暮らしていたんだよ。」
「共存してたって事?」
蕾斗の問いに何故か悲しげに首を横に振る。
「違うよ。君達は元々地球にはいなかったんだ。」
「何の事だか全然わかんねー………………」
「そこから先は私が話そう。」
「レジェンダ!!」
いつの間にかレジェンダが部屋にいた。いつもならツッコミを入れてるが、今はそんな気になれない。
「どこ行ってたんだよ。」
恨めしく羽竜に責められる。
「………すまない。」
「レジェンダは知ってるんだね?」
見透かしていたように蕾斗がレジェンダを真っ直ぐ見る。
「また千年前の話か?」
刺のある口調で羽竜が言う。
「もっともっと昔の話になる。その前にフォルテ、これを話せばお前の事も羽竜達にばれてしまうがいいのだな?」
「いいよ。」
覚悟を決めて力強く頷く。
それを確認してレジェンダが閉ざされていた真実を語り始めた。
「地球が誕生してから生物は様々な進化をして来た。進化の行き着いた先は人間ではなく不死鳥そのものだ。不死鳥族は不死鳥が生存する過程で都合のいい形として変異したもの。まあ見た目は人間となんら変わらんが。」
「人間と何が違うんだよ。」
「羽竜、天使やメタトロンと会ってわかったと思うが彼らも人の形をしていただろう?生物は進化の過程で知恵を持つと必ず人の形を取る。お前達が知識として持っている猿人が人間になったわけではない。猿人も知恵を持った生物の進化なのだ。」
たまにお喋りになると想像を超える話が飛び出す。
一体どこまで何を知っているのか………。
「話を戻すが、不死鳥族の存在がこの地上に生まれこの世界は楽園そのものだったという。その頃は神も天使も不死鳥族と交流を持ち三つの種族は互いに認めあって共存出来ていた。ところがある日遠く宇宙の彼方から人間と呼ばれる者達がやって来て、この世界を占領し始めた。」
「占領って………人間にそんな力ないだろ?」
「その頃の人間達は神をも脅かす力を持っていた。三つの種族が束になっても勝てなかったのだ。それも当たり前、楽園で暮らしている者達が武力を持つに至るわけがない。あっという間に人間達に追いやられ、神は神界へ、天使は天界へ、不死鳥族は不死鳥界を創造して各々地上から離れていった。そして人間の歴史が始まる…………」
信じられない話だ。歴史云々よりも、人間に神、天使、不死鳥族の三種族を追いやる力があっただなんて。羽竜も蕾斗も次元の違う話にただ呆然とする。
「人間は地上に自分達の世界を築こうとしたが、どういうわけか環境に適応出来ずその数を減らしていった。それを知った神は一気に人間を片付けようとするが、腐敗した地上を見て人間達に地上を譲ってしまう。そして足りなくなった人類を補う為に新たな『人間』を創る。その混血が『今の』人間になる。」
「待ってよレジェンダ、いくら地上が腐敗したからって何も自分達から地上を奪った人間達になんで協力するのさ?神様ならまた腐敗した地上を創り直せるんじゃないの?」
蕾斗の言うのはもっともだ。レジェンダの話を聞く分には神が地上を奪った人間達を助けたように聞こえる。
「神々も天使も不死鳥族も自分達が創り出した世界で生きて行く事を決めていたのだ。しかし、自分達の世界を存在させておくには地球そのものに活力を与えていなければならない。つまり、地上で知恵を持つ者が主となって歴史を築いて行く事で活力が生まれるのだ。だから既に主となっていた人間を消すわけにはいかなかった。」
「でも、不死鳥王は人間界を破壊するつもりなんだろ?それって自分達の世界を潰すのも同じじゃないの?」
「それには僕が答えるよ、蕾斗。」
ずっと沈黙を守っていたフォルテが口を開く。
「羽竜達も知ってると思うけど、インフィニティ・ドライブっていう力を不死鳥王は探してるんだ。」
「不死鳥族まで知ってるのか……」
どうやらどこまで行っても無限を操る力から逃れられないらしい。
「フォルテ、そっから先は言わなくてもいいよ。おおよそわかるから。それよりお前の事がばれるとかって言ってたけど………何の事だ?」
「…………僕達不死鳥族は過去の時間の種族なんだよ、羽竜。」
「過去?」
「不死鳥界を創りそこに住み始めてから僕達の時間は止まってるんだ。正確には成長もするし、寿命もあるから限りなく止まっている状態に近いって言ったほうが早いかな。天使も同じだよ。だから君達から見たら寿命が長く感じられるんだ。人間の寿命はせいぜい百年。天使は約二万年、不死鳥族は軽く十万年は生きていられる。もちろんこれは地上での時間の概念での年数だけど。」
「十万年って……………」
蕾斗が言葉を失くす。
よく人間は小動物や昆虫の寿命を哀れむが、彼らからすれば人間の寿命など話にもならない。
人間は視野が狭い。自分達の常識でしか物事を見れない。理解出来ない事象に遭遇するとただ有り得ないと呟くだけ。物事の本質を正確に理解することに欠けている。
「なんとなくわかってきたよ、不死鳥族は過去に人間に追いやられた経験から他の種族を信用しなくなり、自衛目的の為に戦士を育成してきた。そして、地上と縁を切ってからもまた人間によって苦しめられてる。だから人間界を破壊する。でも人間界を破壊すれば不死鳥界も共倒れになるから、オノリウスの魔導書を手に入れてそれを防ぐ。インフィニティ・ドライブにそれだけの力がある事を知ってるんだ、きっと。」
さすがに蕾斗は理解するのが早い。
「フォルテ、どうして不死鳥王はインフィニティ・ドライブの事を知ってるんだ?もっと昔に知っていたなら何も今になって探す必要はないだろ?」
羽竜も段々理解出来てきているようだ。
「僕がこの世界に来る前に不死鳥界に変な奴が来たんだ。」
「変な奴?」
変な奴と言われてもイメージしにくい。羽竜の中での変な奴はレジェンダをイメージしてしまう。
「うん。背の小さい元気なおじいさんなんだけど、なんかいろいろ物知りで不死鳥王に気に入られたみたい。」
「その人がインフィニティ・ドライブを知ってたの?」
「うん。」
蕾斗が思考は張り巡らす。
「まさか…………?」
思考の先に一人の人物がいる。
「レジェンダ、そのおじいさんってもしかして………」
「リスティか!」
蕾斗の疑問を羽竜が払拭する。
「有り得んな。」
しかしレジェンダはすんなり否定してしまう。
「よく考えてみろ、リスティは天界崩壊の日にエデンの巻き添えになったはずだ。生きているわけがない。星と星が衝突して生存しているなど……」
「でもオノリウスの魔導書の事も知ってる奴なんて悪魔か俺達か天使くらいだったんじゃないか!不死鳥族が最近知ったとなるとやっぱり……」
「……………………。」
羽竜は自分の予想が的を得ていると信じ切っている。
レジェンダも可能性を思慮している。
「仮にリスティだとしても、あまり意味はない。奴には何も出来んだろうからな。せいぜい不死鳥王のご機嫌をとって生かしてもらっているのが関の山だろう。ミカエルにそうしていたようにな。」
かつての兄弟弟子だからこそリスティの性格が手に取るようにわかる。
「どうしようか羽竜君?」
「………どうするも何も、あのオクターウ゛って野郎をぶっ飛ばさないと気が済まない!!って言いたいところだけど、まずはフラグメントが先だ。満月の夜を待って解空時刻がちゃんとフラグメントの在りかを示してくれるのか確認しないとな。」
「へぇ〜大人になったじゃん。」
「なんだとっ!」
茶化されて蕾斗にじゃれつく。
「フラグメントって何?」
「なんだよフォルテ、フラグメント知らないのか?」
じゃれつく手を止めてフォルテに質問を返すが、フォルテはそっと頷いた。
「いいか?インフィニティ・ドライブを手に入れるにはオノリウスの魔導書が必要だ。そしてオノリウスの魔導書は封印されている。その封印を解く鍵が…………なんだっけ?」
前にレジェンダから説明を受けていたが忘れてしまい蕾斗の顔を見る。
やれやれと溜め息をついて教えてやる。
「マスターレジェンド……」
「そう!そのマスターレジェンドがなければ封印は解けない。そしてそのマスターレジェンドを手に入れにくく砕いたらしいんだ。そのカケラをフラグメントと呼ぶ!」
エヘンと胸を反り満足そうな表情をする。
「そんなものがあったなんて………」
「不死鳥王もそれくらいは知っているんじゃないの?」
「多分………知っていると思う。」
フォルテもよくわかってないようだ。
「いずれにせよここはオクターウ゛とかいう奴に知られているのだろう?だとしたらここにはいないほうがいい。」
レジェンダの提案はもっともだが他に行くところなんてない。
「でもどこに行けば……………」
羽竜が頭を捻るが現実的に手段がない。
「…………わかった。私に少し思い当たりがある。相談してみよう。だから何も言わず待っていろ。」
意外な発言だった。自分達の他にレジェンダに知り合いがいるのだろうか?間違いなく相談してみると言った。
誰に?
霊体だけあってまさか霊能者って事はないと思うが…………。
「レジェンダがそう言うなら……任せるけど……」
奇々怪々なレジェンダだが頼りにはなる。今は信じてみるしかなかった。蕾斗が羽竜を見ると羽竜も納得したようだ。
「罪深きは人間かそれとも………」
それとも………レジェンダがその後に何を言おうとしたのか誰もわからなかった。
罪深きが人間でないとしたなら、一体何が罪深いのか………夜は何も教えてはくれない………