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第五章 宣戦布告

「ビーッ、ビーッ、ビーッ」


「うるせーなあ、おいフォルテ!この鳥なんとかしろよ!」


帰宅してからレジェンダの姿はなく、フランジャーがかれこれ一時間ほどわめいている。


「ビーッ、ビーッ、ビーッ」


「このくそ鳥!焼鳥にして食っちまうぞ!」


一日をフォルテに振り回され疲れきってるところに甲高い声でわめかれては、とてもじゃないが耐え切れない。


「羽竜!何してんだよ!」


あまりにうるさいので鳥カゴにバスタオルをぐるぐる巻いて騒音を和らげようとしていた。


「どわっ!!」


羽竜の愚行を見るなり突き飛ばしてフランジャーを助ける。


「かわいそうに……大丈夫かい、フランジャー?」


「ビーッ、ビーッ、ビーッ」


「どうしたんだよ?餌ならさっきあげたじゃないか……?」


フォルテにも思い当たる節がない。普段はおとなしいフランジャーが今日に限って鳴き止まない。


「なんとかしろよ!うるさくてかなわねーよ!」


いい加減腹も立ってくる。


「なんとかって………お前?怯えてるのかい?」


小刻みに震えてるフランジャーの身体に気付く。


「ビーッ、ビーッ、ビーッ」


「近所迷惑になるから早く鳴き止ませろよ。ハンバーガー買ってやるからさ!」


耳を塞いでソファーにうずくまる。


「まさか…………!」


「ビーッ、ビーッ、ビーッ」


「だあーーっ!!うるせーー!!」


「来てるんだね?」


フランジャーが鳴いているのは何か危険を知らせている事にようやく気付いた。


「おい!フォルテ!」


「羽竜!!今すぐここから逃げよう!!」


「な……何?」


「フランジャーは僕達に危険を教えてくれてるんだ!」


羽竜もフォルテの顔が真剣なのを見て冷静さを取り戻す。


「危険って………不死鳥族の追っ手か?」


「多分…。もう近くまで来てるよ!」


「くっ………レジェンダの野郎どこに行きやがった!アイツがいないとトランスミグレーションが………」


「ダメだ羽竜!フランジャーがこんなに怯えるなんて、ディエッサーなんかよりもっと強い奴だよ!」


心配するなと言ってやりたいところだが、フォルテの怯えぶりに言葉が消えていく。


「わかった、とにかく蕾斗と吉澤にも連絡する。それから………」


羽竜に嫌な予感が走る。


「ビーッ、ビーッ、ビーッ」


フランジャーの鳴き声が警報音に聞こえてくる。そしてその警報音はすぐ近くにいる敵を警戒し始める。


「来やがった………!!」


「羽竜………!!」


鳥カゴを抱きしめ羽竜に手を引かれて家を出る。

どうしていいかわからないが、とりあえず走り続ける。

どこまでもどこまでも走る。

街中の公園まで来てフォルテが立ち止まって羽竜の手を振りほどく。


「羽竜!どこに行くの!?」


「わかんねぇよ!でもとにかく逃げないと……!」


「逃げないとどうなるんだ?」


ギクリとする。二人がそっと振り返るとそこには燃えるような真紅の鎧を纏った男がいる。


「オ……オクターウ゛!!」


「見つけたぞフォルテ。手間取らせやがって。」


オクターウ゛が不敵な笑みを浮かべて近付いて来る。


「誰だお前!?」


羽竜がフォルテの前に出て庇う。


「それは俺の台詞だろう……。死にたくなければ下がっていろ。」


オクターウ゛の脅しに屈服する事なくファイティングポーズをとる。


「羽竜、オクターウ゛は不死鳥族の戦士長だ。ディエッサーとは格が違う。」


「うるせぇ!黙ってろ!逃げようにも逃げられなくなっちまったんだ、戦うしかないだろう!」


「ほう、もしかしてお前か……ディエッサー達を負かしたのは。」


「だったらどうなんだ!」


「ディエッサーとて不死鳥族の戦士。それを負かしたとなれば好奇心も騒ぐ。」


静かにケツァールを抜く。


「さあ、お前も剣を取れ。不死鳥族戦士長オクターウ゛が相手をしてやる。」


ケツァールが妖しく光る。


「……お前なんかに剣を取るまでもない!」


「なんだと?」


「羽竜!」


「俺の拳だけで充分だ!」


強がりに違いはないが、一瞬オクターウ゛が怯む。


「言ったな?面白い。名を聞こう。」


「羽竜だ。」


「羽竜か。覚えておこう。不死鳥族に素手で挑む勇敢な少年よ。」


抜いたケツァールを鞘に戻す。


「来いよ、羽竜。お前の挑戦受けてやる。」


オクターウ゛が羽竜同様ファイティングポーズをとる。


「…………っ!!」


勢いよく走りだしオクターウ゛へ向かって行く。

右のストレートを突き出す。

それを読んでいたようにオクターウ゛がかわす。

続けて左、右のワンツーを見舞うがそれもかわされる。


「やるな。人間にしておくにはもったいない。」


全くの余裕だが皮肉ってるわけではない。鋭さのある羽竜の攻撃に感心を覚える。


「まだ始まったばかりだぜ!」


ステップを踏みオクターウ゛の様子を伺う。

実際オクターウ゛のオーラは羽竜を飲み込んでいた。

様子を見たところで結果は出ている。

それでもあがかねばならない。

フォルテとフランジャーを守る為。

取っていた距離を一気に詰める。

左のジャブで自分の距離を作る。

オクターウ゛はまだ攻撃してこない。

そして、一か八かオクターウ゛の懐に入り真紅の鎧にパンチを打ち込む。

左、右、左、左また右…………全身の筋肉がはち切れそうになるほど休まず連打する。


「うおおおっ!!!」


渾身の右ストレートが羽竜の体重を乗せてオクターウ゛の胸を突く。


「フフ………普通の人間ならとっくに死んでるな。いいパンチだ。しかし……」


オクターウ゛の右肩が動いたのがわかる。来るとわかった拳を思いきり腹で受け止める。


「がはっ………!」


下からの攻撃に身体が浮く。

浮いた身体に力が入らない。

受け身をとれず地面に落ちる。


「ぐっ…………」


「羽竜!!」


「動くなっ!」


羽竜に駆け寄ろうとするフォルテにいつの間にか抜いていたケツァールを突き付ける。


「まさか俺の鎧を破壊する気だったのか?見上げた根性だよ。拳で破壊される程度なら鎧とは呼べんだろう。」


「くそ………」


「もう少し楽しめるかと期待したんだがな……」


立ち上がろうとする羽竜の真上にケツァールをかざす。


「まあ、こんなものだろう。」


羽竜と目が合う。たった一撃だったが身体の自由を奪うには十分だった。

羽竜の意識が遠ざかる。


「フォルテ………逃げろ………」


最後までフォルテを案じ意識を失う。


「目覚める事はあるまい。さらばだ………!」


かざしたケツァールを振り下ろす。

思わずフォルテが目を閉じる。

何も考えられない。きっと目を開ければ羽竜の無惨な姿がある。そう考えたら目を開けられない。


「フ………また邪魔者か……今日はやけにいろんな奴に会う。」


「首を跳ねられたくなかったらその剣を仕舞え。」


オクターウ゛が誰かと会話してる。

恐る恐るフォルテが目を開ける。

見ればオクターウ゛の喉元に刃が突き付けられている。

刃はオクターウ゛の後ろから伸びている。


「聞こえなかったのか?」


刃の主の声だろうか?随分と低い声でオクターウ゛に警告している。


「………わかったよ、仕舞えばいいんだろう?」


ケツァールは羽竜の直前で止まっていた。それを見てフォルテは胸を撫で下ろす。

オクターウ゛がケツァールを鞘に戻す…………と見せ掛けて刃の主に攻撃する。


「姿を見せろ!」


闇の中にいる刃の主は姿を見せる気配がない。


「不死鳥族がこんなところで何をしている?」


公園の街灯が自分の寿命を知らせるように点滅を繰り返している。


「どこのどいつかは知らないが、邪魔をするつもりなら容赦はせんぞ?」


オクターウ゛も刃の主に警告する。


「フ……そんな鎧でどうするつもりだ?」


「何?鎧だと?」


その瞬間ミシミシと音を立て真紅の鎧から破片が落ちる。


「こ……これは!!」


最後に羽竜がパンチを見舞った箇所から八方に亀裂が広がって行く。


「バカな……!!」


予想していなかった出来事に驚きを隠せない。


「拳程度で破壊されるようでは鎧とは呼べんな。」


寿命の来ていた街灯が消えて辺りが薄暗くなる。


「今日のところはおとなしく帰れ。見逃してやる……」


「ハハハハッ!わかったぞ………神に戦いを挑んだ愚かな人間とは羽竜の事か。フフ……ディエッサーでは歯が立たないわけだ。」


ケツァールを鞘におさめ刃の主とフォルテに背を向ける。


「フォルテ、今日はおとなしく退き上げるが次は覚悟しておけよ。」


闇に姿を隠している刃の主に視線を送り、ニヤリと笑みを浮かべてどこかへ消えていった。


「羽竜!!」


フォルテが気を失って倒れている羽竜に駆け寄る。

よもや死んではいないだろうが身体が浮く程の拳を喰らったのだ、内臓が破裂している可能性だってある。


「羽竜!しっかりして!」


「ほっとけ。あの程度で死ぬような奴じゃない。」


刃の主がフォルテに声をかけてきた。

闇の中で時折月の光が反射している。

彼も鎧らしきものを纏っているのがわかる。


「貴方は………?」


名前を聞かれたが、何も答えずその場を去る。


「あの……!ありがとうございました!!」


礼儀正しく頭を下げて助けてもらった礼を言う。


「………勘違いするな。別に助けたつもりはない。そいつに死んでもらっては困るだけだ。」


そう言い残すと気配が消えた。

 そして、園内で一番の大木の上から事の成り行きを一部始終見ていた者が一人。


「私の出番はなかったみたいね。それにしても、あの男………………」


 サタンはフォルテが羽竜を背負い、鳥カゴを抱えて小さな身体で必死に歩き出したのを確認する。


「頑張ってね、ボク。」


小さな背中に微笑みかけたが気付くはずもない。

フォルテの姿が視界から消えるのを見届けて、翼を大きく広げ夜空へ飛んで行った。


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