第四十六章 不死鳥王伝説 後編
懐かしい夢を見た。まだ幼い自分と友が語り合う夢。
大きくなったら………誰もがまだ見ぬ未来へ大きな希望を抱く。
だがそれは本当につかの間の夢でしかないのだろう。
現実というのはどうにも融通が効かない。
いつだって簡単に努力を無駄にされてしまう。
友は言った。いつまでも親友でいようと。
私は言った。いつまでも君の味方でいようと。
願いは虚しく、現実に汚された。
あの頃が懐かしい。純粋で光に包まれた毎日を送っていた。
友よ、もし生まれ変わるなんて事が出来るのなら、次もどうか親友でいてほしい。
どこかで狂ってしまった歯車をもう一度回すのだ。
友よ、もし許されるのなら、生まれ変わるまでまた一緒にいてほしい。
君となら自分の犯した罪も笑い飛ばせるだろうから。
トランスミグレーションはその力を解放してルバートを貫いていた。
「…………い……いつの間に…………?」
居眠りをしていたのだろうか?
確か羽竜と剣を交えたばかりだったはずなのに………。
「最後の最後にミスをしたな。まさかとは思ったけど、犠牲の柩を使っていたのか。犠牲の柩で手に入れた力には時間制限がある。俺が知っているのは七日だったけど、手にする力の強さによっては大幅に短縮されるみたいだな。」
「そんな……………こんなところで………潰えるのか………私の野望が………」
膝を着き肩で息をしている。
つかの間の神が命を絶つ瞬間が間近なのだろう。
「……………。」
惨めな姿を晒す不死鳥族の長にかける言葉は何もない。
目がうつろい、血を吐く。
「もういい。もう不死鳥族は終わったのだ。ご苦労だった、ルバート。」
「おお……スタッカート……」
ルバートの前にスタッカートが現れ話かける。
「兄さん……逝きましょう、私達と共に天国へ。」
「トレモロ………お前も迎えに来てくれたのか………」
温かい二人の笑顔に連れられてこの世を去る。
「行こう、ルバート。争いのない世界へ。」
親友の言葉がルバートを浄化する。
その一部始終、羽竜にも見えていた。
「トランスミグレーションの使い手………羽竜よ、不死鳥族はお前によって救われたのかもしれん。礼を言う。ありがとう。」
羽竜はスタッカートを始めて見たが、彼が不死鳥王であったのだと感じた。
そしてスタッカート、ルバート、トレモロが消えて行くのをただ黙って見ていた。
「………終わったな。」
蕾斗とあかねをそっと起こして戦いが終わった事を告げる。
もちろんレジェンダにも。
傍らには無惨にももう話す事もないフランジャーとフォルテが横たわる。
「フォルテ…………仇は取ったからな。」
涙を流す力も残っていない。
いや、悲しすぎる結末に生体反応が着いていけないだけなのかもしれない。
沈黙が『二人』を弔う行為となる。
短い付き合いでも確かに絆は生まれていた。
きっとまた会える。根拠なんていらない。
例えそれが千年後でも一万年後であっても…………。
気がつくと夜明けが近づいていた。
「不死鳥界にも太陽があるのね…………」
あかねの言葉の意味は単純ではないけれど、深く考えるのはやめた。
全員が外を眺めていると、突然地震が起きる。
「これは………!」
羽竜には何が起きようとしているのか一発でわかった。
「羽竜、蕾斗、あかね、帰るぞ……地上へ。」
レジェンダがいつも通り三人を指揮する。
「悪魔達に破壊されるんだね、ここも。」
空気が重く感じるのは天界が破壊された時と同じ重力レンズによるものだと蕾斗にもはっきりとわかった。
フォルテとフランジャーを葬る時間もなく、羽竜達は最後の別れを告げるとレジェンダの魔力を頼りに地上へと戻る。
不死鳥王伝説が幕を閉じた。
「どうやら目黒羽竜の勝ちみたいね。」
遠くに見える不死鳥城を眺めながら、バルムングは重力レンズの仕掛けを完了する。
「どこまで強くなるのかしら?」
「彼はどこまでも強くなりますよ。」
独り言のつもりが、思わぬ返事に心臓が止まりそうになる。
「誰!?」
「驚かせてしまったようですね。私はライト・ハンド、最後の不死鳥族でしょう。」
「ライト・ハンド!!」
ヴァルゼ・アークが探していた人物が何故か自分の目の前にいる。
バルムングに不安がよぎる。
「何か用?」
ロストソウルを具現化して戦闘体勢をとる。
ライト・ハンドが不気味に笑った。
「ええ。貴女の持っているフラグメントを頂きに来たのです。」