第四十五章 目黒羽竜
目に飛び込んで来たのはちょっと予想とは違った後継だった。蕾斗とあかねは倒れているし、レジェンダは……恐らく魔法なのだろうが電流のようなものに囲まれて身動きが取れないようだ。
そして悪魔達がいる。初めて見る悪魔もいるが、今更改めて名乗らずとも向こうはこっちを知っているだろう。
見たところ、悪魔も不死鳥王と戦っていたのだとわかる。
利害関係が一致するなら話は早い。
「遅いわよ………ハー君………焦らし過ぎ!」
ボロボロのベルフェゴールからの精一杯の激励になる。
「…………蕾斗………吉澤……………」
大切な友人達が無造作に転がる姿に静かな怒りが目を覚ます。
「ようやく来たか、待ちくたびれたぞ。」
ルバートを無視して蕾斗とあかねの身体を壁際まで運ぶ。
「は………羽竜……君……ごめん、フォルテが……」
「喋るな、蕾斗。」
フォルテのオーラを感じなくなった事で死んだ事を知っているようだ。
フォルテを救えなかった事に蕾斗が涙を流し無言の悔しさを羽竜に伝える。
「………吉澤、大丈夫か?」
「………羽竜君…………私………」
「また泣く。心配するな、フォルテの仇は取ってやる。すぐに終わるよ。」
あかねの頭をくしゃくしゃと乱暴に撫でてやる。
今はそれが、痛いほどの優しさであるとわかる。
「羽竜…………」
「…………あんたは?」
「私は不死鳥神オブリガード。お前の知っているフランジャーだ。死んだフォルテの肉体を借りて存在している。」
「神様でも勝てないのか……」
「すまん。フォルテを………」
神様らしくないオブリガードの言葉にどこか親近感が湧く。
「レジェンダまで………」
肉体がないレジェンダは外観からはダメージを計る事は出来ない。
だから余計に心配になる。
「目黒羽竜君、ここは貴方に任せるわ。貴方が勝つ事、今日だけは祈っててあげるわ。」
リリスがアシュタロトとサタンに退却の合図をする。
「ルバート、輪廻の坊やは強いわよ。」
何もせずに退却するのが釈然としないので、サタンが置き土産に皮肉を置いて行く。
悪魔達が羽竜を見て各々笑顔のエールを送る。
シュミハザを除いて。
そして瞬間移動で立ち去った。
「お前が不死鳥王か……?」
「そうだ。私が不死鳥王ルバート…………」
言い切る前にいきなり羽竜に殴られ、玉座まで吹っ飛ぶ。
「ぐはっ!」
見えなかった。羽竜との間合いは決して近くはなかったはず。
「い、今のは………!!」
頭が混乱している。殴られたのはわかったが、いつの間に飛んで来たのか………。
「許さねぇ…………こんなにムカついたのは初めてだ………」
身体中の血液が沸騰していく。
「許さない……だと?人間如き虫けらが!誰に口を聞いてるかわからせてやるっ!!」
ルバートがその手に握る剣は、スタッカートの形見の剣・カワソワリー。
不死鳥王の証の剣を振り上げ切っ先に魔力を収束、プラス怒りを込めて羽竜に放つ。
もちろん遠慮などかけらもない。
「うおおおおおおっ!!!!」
全身に力を入れてオーラを解放する。
誰に習ったわけでもなく、羽竜の本能がそうさせている。
ぶつかり合う二人の怒りが大きく破裂して辺りに熱風を巻き起こす。
「バカなっ……!不死鳥神さえ凌ぐ私の魔法を打ち消しただと!?」
「な〜んだ、思ったよりたいしたことないじゃないか。」
「小僧……!」
怒りが怒りを超えて新たな怒りになる事はないが、羽竜の皮肉はルバートに十分な威力を発揮する。
「怒ったのか?フン………言っとくけど、俺はもっと………怒ってるんだよっ!!!!!」
振り抜いたトランスミグレーションから紅い真空波が飛び出す。
真空波は避けたが有り余るパワーの風圧でルバートの頬に傷をつける。
「なんという力だ………とても人間とは思えない………」
オブリガードも羽竜が戦う姿を何度か見たが、怒りという原動は彼を更に強くする。
「言うだけの事はあるな。名前は確か羽竜とか聞いたが……?」
「ああ。あんたはルバート………だったな。」
「フッ………ヴァルゼ・アークが肩入れをしたくなるわけだ。いいだろう、輪廻の炎を断ち切り私の法則を変えてやる!!」
ルバートの気迫が鬼気迫る。
右手に強く握りしめたトランスミグレーションが羽竜の力に呼応して紅く、眩しいほどに光を放ち始めた。
「何を言ってるかわかんねーけど、あの世でフォルテに謝って来いっ!!!」
斬激の嵐を起こして城の中を飛び回る。
互いに一歩も退く事もなく、命を削り合う。
この光景にオブリガードは疑念を抱かずにいられない。
「人間…………じゃないのか?いや、彼から感じるオーラは人間のもの。トランスミグレーションはあくまでも武器に過ぎない。なら……ならあの強さは……?」
フォルテを失い、蕾斗達を傷つけられた怒りが後押しをしているとしても、神であるオブリガードが勝てないルバートを圧倒する強さは人間を既に超えていた。
「ヴァルゼ・アーク様、目黒羽竜が何者なのかそろそろ教えていただけませんか?」
重力レンズはまだ発動するには時間がかかる。
ジャッジメンテスはかねてからの疑問をヴァルゼ・アークに問う。
「どうした?急に。」
「不死鳥王の城からこんなに離れていても感じる目黒羽竜のオーラに自分なりの説明がつきません。」
出し惜しみするつもりはないが、ヴァルゼ・アークもまだ羽竜が何者か確信に至っていない。
「……………これは推測の域を出ない話だが、羽竜はおそらく『終焉の源』だ。」
「終焉の源……………あの、時代の終わりに必ず現れるという………?」
「かつてこの地上に人間が降り、神、天使、不死鳥族を追い出した。そして秩序無く地上を支配したあげく、地球の環境に適応出来ずに絶滅の危機に陥る。神、天使、不死鳥族がそれぞれ創った自分達の世界は地上が生命力で溢れなければ存在し得ない。そこで神は土から独自の人間を生む。泥人形と呼ばれた人間と秩序無き人間の配合種なら地球の環境に適応し地上を維持していけると考えたからだ。だがその時、秩序無き人間の一部がそれに反対してどこかへ消えて行った。純粋な秩序無き人間は絶滅したと思われていたが、それ以来地上が腐敗する度時代を終わらす為に現れる者………秩序無き人間の末裔、それが終焉の源だ。」
「でも過去に現れたのは二度だけ。それもずっとずっと昔。」
「神話に過ぎないがな。」
神々や悪魔の間に語り継がれる神話。そこに書かれている終焉の源が羽竜であるという。
ジャッジメンテスには俄かに信じ難い話だ。
「トランスミグレーションやイグジスト、ロストソウルを創造したダイダロスも秩序無き人間であったのではと思っている。」
「ダイダロスがですか?」
「ああ。これだけの武器を創れる者は神にすらいない。千年前、あの戦火の中にあった地上に終焉の源が現れなかったのはおかしい。疑い無く時代の終わりだったはずだ。しかし考え方を変えれば、ダイダロスが創造した武器により戦いが終わり、地上は新たな時代を迎えたとも考えられる。」
話を聞いているうちに、ヴァルゼ・アークはひょっとして終焉の源にこだわっているのではと思う。
羽竜を特別視する理由は多分そこにある。
「仮に目黒羽竜が終焉の源だとして、総帥はどうなさるおつもりなのでしょうか?」
「………俺の目的に終焉の源は必要不可欠だとだけ言っておこう。いずれ全てを話すまでこの事はお前だけの胸に留めておいてくれ。」
「はい、わかりました。」
「重力レンズの方、任せたぞ。俺はもう一人会いたい奴がいる。」
それだけ言うとジャッジメンテスの返事も聞かずにどこかへ消えて行った。
「総帥………………私達はどこまでも貴方について行きます。」