第四十一章 DEAD OR DEAD
待ち望む事は何もない。通らねばならぬ道なだけ。
目の前にフォルテ、蕾斗、あかね、レジェンダの四人が現れた事にたいして驚くそぶりもない。
「一人足りんようだが?」
ルバートが会いたかったのは羽竜のみ。
待ち望んではいないのだから来ないのなら来なくてもよい。
どのみちフラグメントはヴァルゼ・アークから奪うつもりだ。
「ルバート、貴方に用はない。フランジャーを返してほしい。」
「ハハハ。何をたわけた事を。フォルテ、貴様は罪人だ。まして不死鳥王たるこの私にフランジャーを返せとは…………笑わせる。」
「権力に目が眩んだとは思わんが、今のお前からは悪意さえ感じる。スタッカートの死といい、不死鳥界に一体何が?」
フォルテとルバートの会話にレジェンダが割って入る。
「ジョルジュ…………魔導書に一番近くいながら何も知らぬと言う。いい加減真実を語ったらどうだ?」
「真実?」
「とぼけるな。フラグメントを全て集めた後、どこへ行けば魔導書はある?貴様らを殺す前に聞いておかねばな。」
「残念だが、それは私にもわからん。」
「わからん?馬鹿にしてるのか?魔導書の番人は貴様だろう?わからないわけがない!さあ答えろ!ジョルジュ!」
「…………何と言われても知らぬものは知らぬ。私はただ、オノリウス様より魔導書は私の心と共にあるとしか言われていない。それはフラグメントが揃った時にわかる事だと解釈しているが……」
「つまりお前ならその在りかを知っているという事だな?」
「………………かも知れん。オノリウス様の言葉にどんな意味があろうと、貴様にフラグメントは渡せない。」
「渡せない……?フフ……誰も何も言わなかったが、貴様らも持っているのか…………フラグメント。」
自分がとんだピエロだった事に気付く。
おそらくオクターヴもタセットも知っていたのだろう。
例外なくライト・ハンドも。
言わなかった理由は?簡単な事。スタッカート亡き後一番支持を得られるのは自分しかいなかった。
引きずり出された舞台のカラクリが明らかになる。
それももうどうでもいいが。
ルバート自身不死鳥族の未来など考えてはいない。
今はただフラグメントを集めるのみ。
幾重にも鍵を掛けられたインフィニティ・ドライブ…………………その正体を掴む事だけが今の自分の望み。
他に何もいらない。
「これも運命というやつか。ヴァルゼ・アークが必死になるわけだ。」
玉座から立ち上がりローブを脱ぎ捨てるとレジェンダに魔法をかける。
「ぬあっ……!」
「苦しいか、ジョルジュ?少しの間だから我慢してもらおう。なあに、虫けらを退治するまでだ。すぐに済む。」
「僕達は虫けらなんかじゃない!!」
ルバートの言葉を無視出来ずに蕾斗が反応を示す。
「気にしないでくれ、独り言だ。」
「蕾斗!挑発にのっちゃダメだ!」
いきり立つ蕾斗をフォルテが制す。目的はルバートと戦う事じゃない。隙を突いて逃げる事を優先しなくてはならない。
「ルバート、頼むからフランジャーを返して。僕の大切な友達なんだ、貴方ならわかってくれるはず。」
「くどい!お前にとってフランジャーが大切な友人なのは知っている。だが私は今不死鳥王。立場というものがある。不死鳥族の象徴であるフランジャーを手放すわけがなかろう?例え正統な王位継承者であっても、渡すわけにはいかん。」
「分からず屋!昔のルバートはもっと優しく、常に弱い者を守ってくれたじゃないか!」
「無駄だよ、あいつはフォルテの言う事になんて耳を貸さないよ。」
戦いを回避しようなんて蕾斗の頭にはない。
「吉澤さん、行くよ!」
「うん。力を合わせればなんとかなるよね!」
蕾斗はオノリウスの指輪を、あかねはミクソリデアンソードを構える。
「蕾斗!あかね!止すんだ!ルバートは不死鳥族の中でも………」
「聞き飽きたよ。誰が一番強いかなんて関係ないだろ?『友達』を助けるんだ、相手が神でも抗ってやる!羽竜君ならきっとそう言うよ。」
「フォルテ君、私達を信じて!」
あかねまでやる気になっている。
もう止められない。
「…………わかった。僕も戦う!もう自分の為に友達が傷つくのはごめんだからね!」
蕾斗達に応えるように忍ばせていた短剣を抜き取る。
そのフォルテの姿がルバートにはかつての自分に見えた。
「愚かな…………ならば友の為に…………死ぬがよい!」
不死鳥王との戦いが始まる。
「不死鳥族も口ほどにもなかったですね。もっとも、私も不死鳥族の一人ですが。」
薄紫の髪が闇に映える。
ライト・ハンドがただ一人、不死鳥界を見下ろすように空に佇む。
「トランスミグレーションの使い手達が不死鳥王を倒してくれれば、私の法則は破られ新たな法則を私自身の手で築ける。最悪は直接私が不死鳥王を殺せばいい。」
筋書きがあるのか、なるべく羽竜達に不死鳥王を倒して欲しいらしい。
「ヴァルゼ・アークは天使を破り、既に法則を変えている。本来なら不死鳥界に来る必要はなかったはずだが………………まさかこれも運命だと言うのか………?」
レリウーリアの目的がリスティを殺す為だけだったとはさすがに思い付かない。
「フフフ………まあいいでしょう。この戦いが終わる時、真の戦いが始まるのですから。楽しみにしてますよ、ヴァルゼ・アーク…………そして、トランスミグレーションの使い手。」