第三十九章 道化感情
「遅かったな、ヴァルゼ・アーク………」
玉座に毅然と腰を下ろしヴァルゼ・アークを迎える。
「ルバート………何故お前が………?」
「何故?貴様がそれを言うか?全てを知っているのはお前だけではないという事だ。」
「…………どこで知った?」
「バウンス王の日記よ。一万年前、我々不死鳥族はバウンス王に導かれ戦いに行く途中だった。戦う相手の名前すら聞かされず、ただバウンス王の導くままに旅をしていた。その時、貴様が現れたのだ。確か貴様はバウンス王に退き返すように言っていた。ところがバウンス王はそれを拒み貴様と一対一の戦いをした。結果は貴様の勝ちだった。我々は不死鳥界へ退き返す事となり、以後あの出兵がなんだったのかは息子のスタッカートですら知らずにいたのだ。」
「スタッカートは日記の存在を知らなかったのか?」
「多分……な。スタッカートが死んだ今となっては知る術はない。」
「………で、バウンス王の日記を見つけ、それを読んだ。感想を聞かせてもらおうか?」
真っ赤な瞳がルバートの視線を捕らえる。
「……………絶望だな。もし日記に記されている事が事実なら、何もかもが儚い。」
「ルバート、『もし』ではない。事実なのだ。」
「だろうな…………貴様が人間に自らの記憶と力を託してまでインフィニティ・ドライブを欲しがるんだ、妄想なんかではないのだろう。」
「………………お前も求めるはインフィニティ・ドライブか?」
「そうだ。しかしインフィニティ・ドライブがどこにあるのか、魔導書を手にした者にしかわからない。だから私はフラグメントを全て集めて魔導書を得る!」
「………お互い道化で終わるやもしれん。それでもインフィニティ・ドライブを目指すか?」
「愚問だな。」
「フッ…………あの日のお前とはまるで別人だな。絶望を感じて鬼と化したか………」
「魔帝ヴァルゼ・アーク……………貴様も私と同じはずだ。」
「………………………。」
魔帝から受け継ぎし記憶と力。絶望を感じたあの瞬間から生まれ変わったと思っていたが…………ルバート同様に自分も鬼になってしまったのだろうか?
答えは見つからない。
「で、どうするのだ?私と戦うか?バウンス王と戦ったように………」
「……………いや、お前を倒すのは俺の役目じゃない。」
「なら誰が私を倒す?」
「羽竜だ。」
「羽竜…………トランスミグレーションの使い手か………」
「俺は羽竜がお前を倒した時点で不死鳥界を破壊する。あの月を落としてな。」
見つめる先にある月が不死鳥界破壊の時限爆弾になる。
「ハハハハ!面白い、魔帝ともあろうお方が随分と人間を買ってるみたいだな?なら賭けをしよう、私が羽竜に勝ったら貴様の持っているフラグメントを全てもらう。羽竜が勝った時は今貴様が言った通りにすればいい。もっとも羽竜がここまで来れたらの話だが。」
「…………いいだろう。羽竜は必ず来る。せいぜい『人間』に恐怖するがいい。」
ヴァルゼ・アークの言葉の含みはわからないが、いかにトランスミグレーションの使い手とはいえ、まだ未熟な羽竜に負けるとはルバートは思っていない。
「見物させてもらうぞ、不死鳥王よ。」
漆黒のマントを翻しその場からヴァルゼ・アークが立ち去る。
「…………私は負けん。誰にも………ヴァルゼ・アーク、貴様にもな。」
羽竜は必ずルバートの元へ来る。これは決まっている事なのだ。それを知るのはヴァルゼ・アークただ一人。
「……………全てを知っているだと?フン、ルバートよお前は何もわかっていない。やはりお前は不死鳥王には相応しくない。翼をもがれ地に墜ちるがいい………」
ヴァルゼ・アークの後ろで金色に輝く月。
その運命さえ彼の手の中にある。