第三十八章 レリウーリア、その象徴
「出て来なさい。いるのはわかっているのよ。」
羽竜達が去った地下でナヘマーが隠れてる気配を呼び出す。
「ナヘマー、甘やかしてはダメです。」
シュミハザがロストソウルで隠れてる気配の主を捕まえる。
「ぎゃっ!」
引きずられながら醜態を晒すのはタセットだった。
「まだ爺さんがいたのね、リスティだけで十分なのに………」
ナヘマーがうんざりする。
「ひっ……助けてくれ!!頼む!!そうだ、なんでも聞いてくれ、なんでも答えるから!!」
「………見苦しいのです。」
シュミハザがロストソウルに力を入れて締め上げる。
「ぐおおっ…………い、痛い!痛い!!」
「はぁ………うるさいジジイね。悪いんだけど、ヴァルゼ・アーク様から命乞いに答える必要はないって言われてるから。」
ナヘマーが自身のロストソウルをタセットの首に押し付ける。
「た、頼む…………不死鳥族の秘密でもなんでも………ヴァルゼ・アークに言われたからと言っても時と場合にもよるじゃないか!!」
「時と場合によらないのよ、ヴァルゼ・アーク様はレリウーリアの象徴であるお方。黒と言われれば黒と言わなければならないのよ。」
少女であるはずのナヘマーの目に憂いはない。
「リスティ殿は………リスティ殿はどうしたのだ!?」
「死んだわ。もちろん私達が殺したんだけどね。」
「そ………そんな………」
「どうせ老い先短いんだし、そんなに嘆く必要ないんじゃない?」
怯えるタセットをからかい楽しむ姿はまさに悪魔だろう。
遊んでいるナヘマーに痺れを切らしてシュミハザが変わりにタセットを殺そうとする。
「ナヘマーが殺らないのなら私が殺りますけど、いいのですか?」
「わかったわかった。早く片付けるわ。大体部下が死ぬのを黙って見てたなんて、信じられないわ。」
ナヘマーの短剣のロストソウル、オリハルコンがタセットの首にざっくりと入る。
「がはっ…………ぐへっ………」
喉と口から大量に血を吐き浄化されていく。
「哀れね。」
浄化されていくタセットをナヘマーが横目で『見送る』。
浄化されてしまえば冥界には行けないだろうけど。
「目黒羽竜達も気付かないなんて呆れてしまうのです。」
何故か羽竜達の尻拭いをしているようで不満が残ってしまう。
「どうする?あれも消して行こうか?」
ナヘマーがオリハルコンの先で指すのは、水晶の中で生き絶えたフリージアンとイオニアン。
「もちろんです。確実に消さなければ任務完遂とは言えないのです。」
そう言ってシュミハザがデスティニーチェーンで水晶で出来た壁にぶち当てフリージアンを消す。
「じゃあ私は黄色い方ね。」
残ったイオニアンのところまで瞬間移動して胸にオリハルコンを刺す。
「それにしても魔導の力…………まさか壁を液体にしちゃうなんて…………藤木蕾斗が未熟だと言っても侮れないわ。」
羽竜達が駆け付けなければ助けるつもりでいた。
まさかあんな事が魔導で出来るとは思ってもみなかった。
もし蕾斗が魔導を使い熟せたらどんな事が出来るのだろう。
ナヘマーの心には不安が過ぎる。
力をつけていない今、蕾斗を倒さなければレリウーリアにとって強大な壁となって立ち塞がるのではないか?
ヴァルゼ・アークが羽竜達を生かす意味がわからない。
敵を討つのに自分達の負担を軽くしたいのなら、悪いが羽竜達ではその逆だ。
自分一人でも羽竜達からフラグメントを奪える自信はあるし、真剣勝負をすれば負ける事はまずない。
それなのに生かしておけとはどういう事か?
「どうしました、ナヘマー?」
ボーっと考え込むナヘマーに怪訝に声をかける。
「え?ううん、なんでもない。さ、行きましょ!任務遂行!遂行!」
気を取り直してフランジャーを救出に向かった羽竜達を追う。
いつヴァルゼ・アークから命令が下ってもいいように、羽竜の首を狙って………………。
城内の不死鳥族達は戦士、召し使い問わず死体が転がっている。確かロストソウルで殺されると魂共々浄化されると聞いていた。
間違いなく悪魔に殺られた仲間達の亡きがらは浄化されない悪魔達の意図を教えてくれている。
「我々に対する挑戦状ならもう十分なはずだ………!」
憤りを覚える。悪魔が来たのはほんの数時間前。それまではこの亡きがら達はまだ生きていた。
本来なら人間界にこちらから攻める予定だった。
どこで狂ってしまったのか……。
「…………不死鳥界はどうなってしまうんだ………」
男は戦争の残酷さを思い知り打ち沈む。
「な〜にブルーになってんの?」
「誰だ!?」
わざわざ問う必要もなかった。この場にはふさわしくない明るい声が神経を逆なでする。
「くすくす……男の人が絶望感に浸る姿ってゾクゾクしちゃうのよねぇ。」
死体の転がる部屋の窓際にもたれる女の顔が地上で言うところの月に照らされる。
「悪魔か!」
「そうよ。私はベルフェゴール、レリウーリアの一人よ。それよりどう?この死体の数わざと浄化させないでみたの。感じちゃうのよねぇ…………悲鳴…………絶叫…………どんな音楽より私を虜にするの。くすくす。これもヴァルゼ・アーク様が私に力を与えて下さったおかげ、感謝しなくては………」」
胸に手を当てヴァルゼ・アークを想う。
「ふざけるなっ!快楽の為に我が同胞を殺したのかっ!?」
「他に理由があって?」
「殺人鬼め…………!!」
堪らず剣を取る。
「くすくす…………何言ってんの?貴方達だって人間界を死体の山にするつもりだったじゃない。同じ穴のムジナでしょ?自分達だけ被害者面するのはやめてちょうだい。」
「一緒にするな!我々は地上をもう一度自然豊かな世界にする為に戦っているのだ、快楽の為に殺戮をしようとしたわけではない!」
「あらあら、何が違うのかしら?貴方達と私達。どんな事情があれど殺戮は殺戮。被害を受ける側には同じ事よ?」
「黙れ!地上は元々神、天使、不死鳥族のものだったではないか!そこへ人間が現れ我々から奪ったに過ぎぬ!!」
「くすくす……ほんと………………うるっさい男ね!!大体名前くらい名乗りなさいよ!!」
快楽の余韻も男のがなり声で台なしだ。
「私の名はトリル、裁きの戦士隊副隊長だ。」
「な〜にが裁きの戦士よ、教えておいてあげるわ、この世の理を裁く事が赦されるのは私達レリウーリアが総帥のヴァルゼ・アーク様だけよ!!」
ロストソウル、ブルーノイズを具現する。
「ヴァルゼ・アーク……ヴァルゼ・アーク……奴がどれだけ偉いというのだ!思い上がりも甚だしいわ!!!」
「思い上がり?それは貴方達でしょ、自然だの種族の未来だのと……ウザイのよ!!」
互いに睨み合い、罵り合いに痺れを切らして剣を交える。
ひたすら突きまくるベルフェゴールのブルーノイズを凌ぎ、適度に攻撃をしてはまた防御に入る。
「カウンター狙ってるの?私はそんなに甘くないわよ!!」
言うだけあって嵐のような突きだ。
「この程度!!」
まだベルフェゴールに余力がある事を知り、自分も力の底を読ませるわけにはいかない。
集中力を欠けば串刺しになる、かと言って間合いを取ろうとすれば一気に畳み掛けられるだろう。
同胞の無念を晴らしたい。
戦士であるならいざ知らず、召し使いまで殺したのだ………快楽の為に。
「あ〜ら、なんて怖い顔かしら………くすくす………素敵よ、まるで悪魔みたい。」
トリルには屈辱的な皮肉だ。
「どうやらこのままでは旗色悪くなりそうだ、本気で行かせてもらう!」
全身に力を入れオーラに包まれる。
「………………へぇ。」
トリルがその姿を変えて行き、増幅するオーラにベルフェゴールが感心する。
「…………死ぬ覚悟は出来てるか?…………ベルフェゴール。」
炎の翼がフェニックスを思わせ髪が真っ白い羽根になる。
「片腹痛いわ、リミット解除ってわけね。面白いわ。私もリミット解除したのよ。見せてあげるわ、本気を………。」
静かに目を閉じて精神を落ち着かせ、ベルフェゴールの身体が無機質な変化を遂げた。
「いらっしゃい……遊んであげるわ……くすくす。」
「気に入らんな、お前達悪魔はいつもそうだ!どこまでも他種族を馬鹿にする!」
「うるさいわねっ!来ないならこっちから行くわよ!!」
トリルの話に付き合う気は毛頭ない。
互いの増幅したオーラが激しくぶつかり合う。
残像が途絶える様子がないベルフェゴールの動きに翻弄され、攻撃が全て後手に回るトリル。
強さ的には互角のはず。それでも素早いベルフェゴールについて行けてない。
「くっ………なんて速さだ!」
「神を始めとして貴方達も勘違いしてるみたいだけどさ、オーラの大きい小さいで優劣は決まらないのよ。」
「なら何で決まる?オーラは個人の能力を表す。そこに優劣が無いのなら勝負は何で決まるというのだ?戯言もほどほどにするのだな!」
主導権をベルフェゴールに握らせるわけにはいかない。
そう思って剣を絶え間無く振る。
しかし怒れば怒るほど焦りが生じベルフェゴールに決定打を打てない。
「何故だ!!何故なんだ!!」
「むさ苦しい男ねぇ…………気が変わったわ、もう遊んであ〜げない。」
両腕を横に広げすうっと宙に浮く。
「貴方の弱い弱い仲間ごと消してあげるわ。」
「ベルフェゴール………!!!!不死鳥族裁きの戦士を舐めるなあっ!!!!」
ベルフェゴールの挑発に乗っかり剣を振り上げ突進する。
「退屈な男…………」
ベルフェゴールのオーラが渦を巻き始める。
「死ねええっ!!!ベルフェゴール!!!!」
「百鬼夜行!!!」
渦を巻いたベルフェゴールのオーラがトリルを飲み込む。
「なっ…………こ、これは!!?」
ベルフェゴールのオーラから逃れようと必死であがくものの、冥界の亡者に捕まったかの如くはい上がる事はもはや不可能。
「バイバイ…………ボウヤ……くすくす。」
軽く手を振り別れの挨拶を済ます。
「うわぁぁあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
百鬼夜行はトリルとその仲間の亡きがらの消滅をもって終了する。
「トリル………勝負が何で決まるか教えてあげるわ、勝負はね………………運で決まるのよ!」
舌をペロっと出して誰もいない空間を見つめる。
「くすくす…………一人言はヤバイわね。」
全くの余裕をもって勝利を収めたベルフェゴール。
月光に妖艶な肢体を晒し、しばし自分の強さに酔いしれるのだった。