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第三十七章 魂を売る時

「後戻りは出来ません。それでも望みますか?」


「お前にはわかるまい、負けた事で意地になってるわけじゃないんだよ、どんな手段を用いても勝ちたい………ただそれだけだ。」


オクターヴの胸の傷は羽竜への闘争心を掻き立てる。


「…………わかりました。そこまで言うのなら禁断の力を与えましょう。」


猶予はない。レリウーリアまでが攻めて来た今、戦士長としての務めを全うしなくてはならない。

しかし今のままでは勝利を手にするのは難しい。

そう思いライト・ハンドの元へ来たのだ。

ライト・ハンドは知っていた。変身という能力を超える力を。


「念のためもう一度言っておきますが、この魔法を使えば貴方は無敵になれるでしょう。ただし一時間という短い時間だけ。それを過ぎれば過度のストレスで貴方は…………ジ・エンド、死んでしまう。」


「勝っても負けても果てるのか…………」


死ぬ事に抵抗はない。自分の命を賭けてでも羽竜に勝ちたい。

他種族と交流を持たない不死鳥族の血が、他種族に勝つ為なら命も惜しくないと告げている。


「発動条件は特にありません。オクターヴ様の意思でいつでも発動出来ます。」


オクターヴの想いなどライト・ハンドには関係ない。

覚悟を決めるオクターヴを冷ややかに見つめる。

 禁断などと言ったが、別に古い時代の魔法というわけでもない。ライト・ハンド個人が作り上げた魔法なのだから。

興味があるのは羽竜の強さ。

トランスミグレーションは使い手の心の強さが反映されると聞いた……………………いや、知っているのだ。ライト・ハンドはトランスミグレーションがどんな武器なのかよく知っている。

刀匠ダイダロス。彼が作った武器が戦乱を加速させているようにも思える。


「では始めましょう、オクターヴ様の勝利を誘う魔法を………」

















幻魔三兄弟………個々の能力はやはり魔導の力を持つ蕾斗には及ばない。

その事は当人達も身を持って感じれた。


「兄者、思ったより手強いぜ………奴……」


フリージアンが蕾斗の力に危機を感じる。


「焦るなフリージアン、力はあれども経験はあらず。蕾斗とかいう小僧の魔力はとてつもないものを秘めてはいるが、使い方をまだ理解していないようだ。そのうち魔力も尽きる。それまで凌げばいい。」


物事というのは実に効率よく、かつ合理的に進む事を望む。

ドリアンもまたそういう感覚の持ち主だ。

俗に言われる目には目を………というのは案外背水に立たされた時の策。

タイミングを間違えれば他の道を見失う。


「それぞれが一つの属性の魔法しか使えないってのは致命的なんじゃない?」


三人を一人で相手する自分への過信が始まる。

蕾斗の魔力は経験の差など軽く越えてしまう。彼自身も気付いている。でもそれは『力』に限られる。経験が重要とされるのは、そこから生まれる情報に価値があるからだ。

そしてその情報は経験した者だけにしか解けない難解なクロスワード。導かれるのは確率、確信、確定の三つの武器だ。

経験を積むには犠牲となるものも少なくない。

戦いをリードしていると思い込む蕾斗は解くに値するクロスワードすら手に入れてなかった。


「ハァ……ハァ……ちょこまかちょこまか目敏い奴らだ……」


「どうした?もう限界か?」


ドリアンの予想通り蕾斗はかなり疲労している。


「何を!まだまだ!行雲流水!!」


それぞれの属性に一回一回対応している余裕はない。


「何度も何度も同じ技が通じるかっ!!」


魔法を放つだけで精一杯の蕾斗の隙をついてフリージアンが氷の魔法をぶつけにいく。

魔力を上げてフリージアンの魔法ごと飲み込もうとする。


「バカめ!イオニアン、今だ!」


蕾斗の注意力がフリージアンに向いてる隙を突く。


「終わりだ、蕾斗!」


イオニアンの稲妻が蕾斗の脇腹をかすめる。


「ぐあっ!」


かすめたとは言っても傷は深く、滴る血が這うように身体を降りていく。


「くく……若さ故か……」


苦痛に顔を歪める蕾斗にドリアンが吐き捨てる。


「……………無様だと思っているのなら、大間違いだ…………僕の命と引き換えても………勝利はもらう!!」


「命と引き換えの勝利などなんの価値もあるまい。」


イオニアンの言う事は確かだ。生き残ってこそ勝利と言える。

死んでしまっては何にもならない。


「魔導の力を持つと聞いてたがたいしたことはなさそうだな。宝の持ち腐れか。」


フリージアンが蕾斗の後方を固める。


「残念だったな、死ね!」


ドリアンの合図でフリージアンとイオニアンが魔法を作り蕾斗に一斉に浴びせようとする。


「……………かかったな!」


「何!?」


出血は酷い………なのにニヤリと笑い意気込む蕾斗にドリアンが嫌な汗を流す。


「魔導の力………見せてやる!!」


床に両手をついて魔力を注ぐ。


「しまった!!フリージアン!イオニアン!逃げろ!!」


蕾斗の魔力が水晶で造られた空間に浸透する。すると水晶がゼリー状に変化してフリージアンとイオニアンを飲み込む。


「あ……兄者………!!」


「こんな事は有り得ん!!」


フリージアンもイオニアンも自分の置かれた状況が信じられないでいる。


「あんたらが一カ所に集まる方法を考えてたんだ。言ったじゃないか、勝率は50%&50%だって。」


ゼリー状に変化した水晶が元へ戻り、フリージアンとイオニアンは氷に閉じ込められたように動かない。

絶命した………ドリアンはいち早く危機を悟り難を逃れたが、弟達は蕾斗の策にハマッてしまった。


「魔導って結構使いづらいんだよね、だから一瞬が勝負なんだ…………」


「肉を斬らせて骨を断つ………人間のことわざだったな………」


蕾斗の魔力も体力も尽きかけていたのに………物体の性質を根底から変えてしまうほどの力が魔導にはあった。

魔力の多少に左右されない事が証明されたというところだろう。


「ハァ…ハァ……」


それでも蕾斗の体力奪われている。


「…………我が弟達を倒した事は称賛しよう。伝説の魔導も素晴らしい………だが所詮は付け焼き刃の戦略よ。安易に自己犠牲の策など使わぬ事だな。」


「…………くっ……これまでか…………」


戦い方を知らない蕾斗にしては十分な戦いだった。

しかしドリアンの言う通り自己犠牲の策は成功率99.9999%でも許されない。求める答えは100%でなければならない。


「敵討ちなどと綺麗事は言わん。お前の勇気を称えてせめて苦しまずに殺してやろう。」


ドリアンが頭上に直径5メートルはあるだろう火炎球を造る。


「さらばだ!!!」


「羽竜君………後は頼んだよ…………」


火炎球の熱がすぐそこまで来ている。

目をつむり最期を覚悟する。


「ドミナント・セブンス・スケール!!!」


「破邪!!顕正!!!」


聞き慣れた声が両脇から聞こえ、瞼を開けて声の主を確認する。いや、確認など必要はない。

誰の声かは決まっている。

蕾斗に安心が生まれた。


「羽竜君!吉澤さん!」


「大丈夫?蕾斗君!」


「間に合ったな!!」


トランスミグレーションとミクソリデアンソードが火炎球を打ち消す。


「よかった………死ぬかと思った………ハハ……」


「カッコつけすぎなんだよ!」


力強い羽竜の笑顔がなんだか懐かしく感じる。


「ぬっ……仲間が来たか!!」


「ドリアン、貴様の負けだ!!」


レジェンダとフォルテが駆け付ける。


「ジョルジュ・シャリアン!!」


「ドリアン、我々はフォルテを助けに来ただけだ、お前達と争う気はない。おとなしく引き下がれ。」


「引き下がれだと?フッ………バカバカしい。このままおめおめと引き下がれるかっ!!」


ドリアンの身体が炎に包まれる。


「気をつけて!あれは不死鳥族の禁断の術、自分の身体を爆弾にして相手を倒す術だ!」


フォルテが危険信号を出す。


「自爆する気か!!」


羽竜がトランスミグレーションにオーラを溜めてドリアンを迎え撃つ。


「貴様ら全員道連れだっ!!!!!!!」


自己犠牲は100%でなければその意味がない。僅かな計算の狂いも許されない。


「悪いけどよ、俺達はまだ……………死にたくねーーーっっっ!!!!」


トランスミグレーションから放たれる真紅の光が炎の鬼と化したドリアンを斬り裂く。


「ぐわああああああっっ−−−−−−−−−−−っ!!!!!!」


炎は呆気なく消えて行く……。


「やったな!」


羽竜が勝利を確認する。


「蕾斗!!」


フォルテが誰よりも先に蕾斗に駆け寄る。


「ちゃんと合流出来たんだね。」


「うん。蕾斗が身体を張ってくれたおかげでね!」


「心配かけやがって!」


羽竜が乱暴に蕾斗の首に手を回して愛情表現をする。


「いててて…………痛いよ羽竜君……」


「あっ、悪い悪い……」


蕾斗が怪我をしていた事をすっかり忘れていた。


「何にしてもよく頑張った。」


レジェンダも手放しで蕾斗を称える。


「よし、フォルテも無事救出出来たし帰ろうか!」


目的は達成された。羽竜が蕾斗を抱えて歩き出す。


「待って!」


フォルテが先行する羽竜達を呼び止める。


「どうしたの?」


代表してあかねがフォルテに聞く。


「………フランジャーも…………フランジャーも助けてくれないか?僕にとっては友達なんだ!だから………頼む!!」


フォルテ自身この頼みは避けるべきか悩んでいた。今なら人間界まですんなりと引き返せるが、フランジャーを助けるとなるとまた羽竜達を危険に晒す事になる。

羽竜達が互いに顔を見合わせて意思を確認する。


「………しょうがねぇなあ……お前の友達は俺達の友達でもあるしな!」


「羽竜…………」


「僕も羽竜君と同じ気持ちだよ。傷はレジェンダに塞いでもらえば大丈夫だしね!」


「蕾斗…………」


「フランジャーとも知らない仲じゃないし、見捨てて行くわけにはいかないよね!」


「あかね…………」


「どこまでも人のいい奴らだ。ま、そこがお前達のいいところでもあるが………いいだろう、乗り掛かった船だフランジャーも連れて帰ろう。」


「レジェンダ………みんな、ありがとう!」


涙を浮かべて羽竜達の手を握る。


「泣く奴があるかよ!行くぞ、もう『一人』の友達を助けに!!」


目指すは不死鳥王のいる最上階………。


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