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第三十六章 50%&50%

やけに長い階段だった。これでは地下どころか地中深くまで来たのではないだろうか?

ところどころ蝋燭が行く先を照らしている。

それでもこれを管理するのは結構な労力だろう。


「見えた!」


ようやく目標の明かりが見えた。蕾斗の声が地下いっぱいに広がる。


「すごい………」


蕾斗が目を丸くするのも無理はない。なぜなら、『地中』深くに広がっているのは水晶で出来た空間。綺麗に建築されたその空間は、とても牢獄には思えない。

いや、もしかしたら牢獄ではないのかもと疑いを持ってしまう。


「レジェンダ、ここは……」


「なんとも言えん。フォルテがここにいるかどうかは不確定だ。とりあえず探してみるしかあるまい。」


レジェンダも確信が持てないでいる。


「でもなんでこんな造りになってるんだろう?意味があるのかな?」


「おそらくここは不死鳥を次元の狭間に送る場所だろう。」


「次元の狭間?確か羽竜君がヴァルゼ・アークに聞かされた話に出て来たところだよね?」


「そうだ。一万年に一度、次元の狭間に棲息するミドガルズオルムが寿命を延ばす為に若返ろうと脱皮を試みるという。ただミドガルズオルムはとてつもなく巨大な身体をしている為に自分では脱皮不可能らしい。それゆえに脱皮する時、不死鳥を呼び自身の身を不死鳥の炎で焼き若返る………つまり生まれ変わるのだとオノリウス様から聞いた事がある。」


「解空時刻はその時にミドガルズオルムが流す涙なんでしょ?」


「そういう事だ。私も聞いた話でしか知らないからな、本当かどうか…………」


「でも不死鳥は五百年しか生きられないんだよね?長寿命の不死鳥族とは不釣り合いに思うんだけど?」


「不死鳥は五百年しか生きられないわけではない。魔力を維持する為に五百年経つと祭壇の炎へ飛び込み、灰になってそこから雛鳥として魔力を増幅させて生まれ変わるのだ。」


「ミドガルズオルムの為に?」


「多分な。」


「…………腑に落ちないな、そうまでしてミドガルズオルムに尽くす意味は何?レジェンダは知ってるんだろ?」


「繰り返し話す事になるが、地上を人間に奪われた不死鳥族は不死鳥界を創造するにあたって、地上の時間を利用して存在させている。しかしその恩恵はミドガルズオルムによってもたらされている。簡単に言えばミドガルズオルムは時間の管理人だ。」


「う〜〜ん…………知れば知るほど複雑な話だなあ…………」


頭のいい蕾斗でも想像の域を超えた話では理解不能だ。


「結局ミドガルズオルムって何なの?」


「古い書物によれば巨大な蛇らしい。ミドガルズオルムがいる事によって時間の概念が保たれているようだが、私も詳しくはわからん。そういう事はヴァルゼ・アークの方が詳しいだろう。」


書物があり、解空時刻が存在するという事は実際にミドガルズオルムを見た者がいるのだと推測出来る。


「まあ難しい話は今度ゆっくり聞かせてよ。それより今はフォルテだよ!」


自分から聞いたくせに勝手な事を言う。


「フォルテ−−−!!!!いるなら返事してよ−−−−−!!」


声を大にする蕾斗とは反対に、レジェンダは黙々とあちこち見て回る。


「!!見てよ、レジェンダ!!あそこ!!」


何かを発見した蕾斗の先には水晶で出来たまさしく牢獄が見える。その中にはフォルテがいる。


「フォルテ!!」


一目散にフォルテを目指す。

レジェンダも何も言わないが、蕾斗に続いてフォルテに向かう。

牢獄でうずくまっているフォルテが心配だ。


「フォルテ!ねえ!フォルテ!聞こえてる!!?」


牢獄の柵を揺らす仕草をするが天井と床と一体化しているので、どちらかというと蕾斗の身体の方が揺れてしまう。

そんな事はお構い無しに喉の奥が切れそうになるくらいまだ声を張り上げる。


「…………………………………………………………?」


「フォルテ!!」


重そうに顔を上げる。どうやら生きているらしい。


「…………蕾斗………蕾斗!?」


「よかった、無事だったんだ!」


「どうして?どうして蕾斗がここにいるの?」


「お前を助けに来たのだ。」


「レジェンダまで…………」


蕾斗に変わってレジェンダが説明する。説明といっても一言だが、それで十分。


「もしかして羽竜とあかねも?」


キョロキョロと牢獄の外を見渡す。


「うん。僕達をここに来させる為に不死鳥族の戦士と戦ってる。」


「なんで来たんだよ!?」


下を向きフォルテが意外な言葉で怒鳴る。

驚いたのは蕾斗だけじゃない。レジェンダも思わぬフォルテの言葉に驚いた。


「なんでって………決まってるじゃないか、フォルテを助けに………」


「余計なお世話だよ!!」


「フォルテ……………?」


「不死鳥族の戦士はみんな強いんだ………オクターヴより強い奴だっていっぱいいるんだ…………僕なんかの為に戦って死んだらどうするんだよ!!」


床が一滴、また一滴と濡れる。

強く切ない想いがフォルテの胸を叩く。


「僕は不死鳥族の象徴のフェニックスを盗んだんだ、罪人なんだよ。だから助ける価値なんて…………」


「いい加減にしろ!」


「!!!」


レジェンダが怒鳴る声なんて初めて聞いた。

難しい話や昔話なんかはよく喋るが、それでも感情を剥き出しになんてした事は一度もない。

蕾斗にはレジェンダが別人に見える。


「フォルテ、蕾斗も羽竜もあかねも、みんなお前が好きなんだ。友達だと思うからこそ命を賭けてまで助けに来たんだ。お前だって死ぬのは本望ではないだろう?どうして素直にありがとうと言えぬ?不死鳥族の掟など我々には関係ない。手を伸ばせ、牢獄ここから出よう。」


いいところ持ってかれたと思ったが、レジェンダ意外な一面も見れたので良しとした。


「決まりだね!早く行こう!羽竜君達が心配だし!」


「でもどうやってここから僕を出すのさ?」


「フォルテ、レジェンダ、ちょっと下がってて。」


何をするかはご周知の通り。

魔法をぶっ放してビクともしない柵を壊す気だ。


「行くよ、行雲流水!!」


フォルテに被害がないように力は抑える。それでも威力は絶大だ。


−なんて奴だ………いつの間にこんな魔力を身につけたのだ………?−


羽竜に引けを取らない強さだ。

レジェンダは確信する、羽竜、蕾斗、あかねはこのまま成長を続ければレリウーリアを超える戦士となると。

だが不安もある。まだ若い彼らは抑制してくれるものが無い。

例えるならレリウーリアでいうヴァルゼ・アークのような存在。レリウーリアの面々とて元はただの人間。突如として想像を超える力、人間からすれば神にでもなったかのような力は時として人の心に巣くうナイトメアとなる。

きっと彼女達も暴走しかけた事はあったはずだ。

ヴァルゼ・アークという存在がそれを管理、抑制している。

羽竜達が自らの力に溺れなければいいが…………レジェンダはその役目を自分がしなければと思うのだった。

 考え事をしていると大きな音が鳴り、牢獄が丸裸になった事を伝える。


「さあ、早く!」


迷いはない。蕾斗達と共に生きる道を模索してみる価値はある。掟は破ったが、悪い事は何もしていない。フランジャーを助けようとしただけだ。


「うん。」


手を伸ばした蕾斗に応える。

柵が失くなってしまえばそこに牢獄があったなどとは思わない。

瓦礫と化した柵を乗り越えあの長い階段に向かって走る。


「蕾斗!!!」


レジェンダが異変に気付いて叫ぶ。蕾斗も異変に気付いたらしくフォルテをかばって瞬間的に数メートル離れた場所に移動する。同時に蕾斗達がいた場所に炎の塊が飛んで来て爆炎を上げる。


「瞬間移動で回避とは…………洒落た事をするもんだ。」


不死鳥族独特の紅い鎧とは違った紅のローブを纏った痩せ型の男が現れる。


「兄者がその気なら今ので終わってたんじゃねぇの?」


こちらも痩せ型だがやたら長身の男が青いローブを纏って現れる。


「虚無………でなければなりません。」


黄色いローブの背の小さい男が蕾斗の頭上に現れる。


「パターン………だよね。」


厳しい面持ちを蕾斗が浮かべる。


「幻魔三兄弟!!」


フォルテが敵の名を呼ぶ。


「フォルテ様、またお逃げになるおつもりですか?」


紅いローブの男が丁寧な口調でフォルテを皮肉る。


「ドリアン…………」


「残念ながら処刑命令が下ったよ。」


青いローブの男は雑な言葉遣いをする。


「フリージアン………」


「兄者達は事を焦り過ぎる。」


黄色いローブの男は寡黙な印象を植え付ける。雰囲気はレジェンダに似ている。


「イオニアン………」


「炎の使い手長男のドリアン、冷気の使い手次男のフリージアン、そして雷の使い手三男イオニアン………厄介な奴らが現れたな。」


わかりやすくレジェンダが説明する。


「レジェンダ、フォルテを連れて羽竜君達と合流して!」


「一人で戦うというなら賛成しかねる。」


「大丈夫だよ、そんなに心配なら羽竜君達と合流したら応援に来てよ。」


羽竜やあかね同様に意志は強いようだ。

言い聞かせても無駄だろう。


「………呆れた奴らだ。」


言葉とは裏腹で感心していた。

若いというのはこういう事なのだろう。


「フォルテ、行くぞ。ここは一先ず蕾斗に任せよう。」


「でも三対一じゃ………」


「大丈夫だ。」


フォルテの心配を余所にレジェンダは蕾斗に任すつもりだ。


「行って!!」


蕾斗の背中が頼もしい。


「死なないで!!」


言葉を預けたまま羽竜達の元へ急ぐ。


「行かせねーよ!」


フリージアンがフォルテに氷の魔法で足止めを企む。


「させるかあっ!!」


言うが早いか魔導の壁でフリージアンの攻撃を防ぐ。


「我ら幻魔三兄弟をたった一人で相手するというのか………」


ドリアンが不快感をあらわにする。


「勝てるものか!いいじゃねぇか、俺らが勝つのは決まってんだ!肉片一つ残してやるものか!!」


フリージアンは血気盛んに宣戦布告する。


「………勝ち戦も悪くない。」


イオニアンも勝った気でいる。

幻魔三兄弟はトライアングルのフォーメーションを取り、蕾斗を真ん中に抑える。


「人間に勝ち目はない。覚悟しろ、人間の少年!」


ドリアンの掛け声でフリージアンとイオニアンがかまえを取る。


「違うね、50%&50%(フィフティフィフティ)さ。」


死に至るような不利な状況であっても、戦々恐々に陥るほど弱い蕾斗はもういない。


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