第三十二章 死神に嫌われた男
「あ〜〜もうっ!!うっとうしい!!!」
サタンが城の中で大声を出す。
周りに誰かいるわけではない。
ただ一人で叫んでいる。
「いい加減にしてよ!」
幅広い廊下のど真ん中でまた叫ぶ。何度見渡しても誰もいない。
「……………出て来なさい!」
我慢が頂点に達しサタンを苛立たせてる元凶を呼び出す。
「魔王サタンと言えばもっと心の広い悪魔だったが、女になるとその尊厳もなくなるみたいだな?」
サタンが来た廊下の向こうから銀色の鎧を来た戦士が歩いて来る。
「やっぱりあんただったのね……………サマエル。」
「また派手に暴れてるみたいだな、レリウーリアは。」
「目黒羽竜を助けたのはあんたでしょ?」
以前、羽竜がオクターヴに殺されかけていた時助けた人物はサマエルだったらしい。
「助けた?別に助けたつもりはない。羽竜には借りがある、あいつを倒すのは俺だ。他の誰にも殺らせはせん。」
「強気じゃない?あんたもライト・ハンドって奴に天界から救われた口かしら?」
「ライト・ハンド?知らんな。俺はあの日天界と共に滅びる覚悟だった。ところが突然頭上に現れた空間の渦に呑まれ、気がついたら不死鳥界にいただけだ。」
「どうだか………リスティと共謀してなんかやらかそうとしてたんじゃないの?」
「リスティ?奴も助かったのか?」
どうやらサマエルは嘘は言ってないらしい。
リスティの名を聞いて驚いているようだ。
「ええ。そのライト・ハンドって奴が助けたみたいだけど、残念な事に私達に殺されてしまいました。かわいそうにねぇ………」
かわいそうなどとこれっぽっちも思っていない。
「フン、リスティが生きようが死のうが俺には関係ない。今の俺は羽竜しか頭にないからな。」
「目黒羽竜に気を使うのも結構だけど、貴方が生きている事は総帥にとってはあまり上手くないみたいだから消されるわよ?」
ここでサマエルを消しても構わないのだが、やるべき事もあるしとりあえず警告だけしておく。
「フフ……なんでもかんでもヴァルゼ・アークの名を出せばおとなしくなると思うな。」
「どういう意味?」
「どうせ一度は死ぬ運命だった身だ、今更怯えるものなど何も無い。」
かつては同族だった二人。知らぬ仲でもないがここまで堂々としたサマエルは初めて見る。
「そ、なら何も言う事はないわ。消えて!」
サタンが嫌悪感をあらわにする。
「言われなくても消えるさ。」
サタンに背を向け片手を振りながら闇の中に消えて行った。
「死神にすら嫌われるなんて………死を司る天使とは思えないわね。」
サマエルが消えた闇に向かって皮肉を投げる。
「………………殺っちゃった方がよかったかな?」