第二十九章 more than beat
目黒羽竜………トランスミグレーションの使い手。トランスミグレーションがどれほど特別な剣かは私は知らない。
ただ、私達のロストソウル同様にダイダロスがオノリウスの為に造った剣。
輪廻転生の意味を持つその剣にヴァルゼ・アーク様はこだわる。
ヴァルゼ・アーク様のロストソウル、絶対支配もトランスミグレーションに退けをとらない威力を秘めているのに。
そして今、目黒羽竜が私の前で不死鳥族の戦士と戦っている。
彼との戦いはまだ許可されていない。
いつになれば彼と決着をつけるのだろう?
その前に誰かに倒されてしまったらどうするのだろう?
それとも、彼が負けない事を知っているのだろうか?
ヴァルゼ・アーク様はまだ何も語ろうとはしない。
「噂通りの強さだな、羽竜。」
「こんなんで感心されても嬉しくないね。」
言うだけあって、アルペジオの強さは本物だ。
まだこちらの様子を伺っているのがわかる。
「そうか、ならもっと楽しませてくれよ!!」
アルペジオの槍が大地を裂くように衝撃波を繰り出す。
「やらせるかっ!!!」
羽竜も対抗してトランスミグレーションを振り下ろし衝撃波をぶつけ合う。
「力には力を………か……」
アルペジオは高くジャンプして次の攻撃へ移る。
それに対して羽竜には数メートルも高くジャンプする能力まではない。
トランスミグレーションを地面から垂直に振り上げ赤い光の柱を作り上げアルペジオを攻撃する。
「何っ!?」
鋭い刃物のようにアルペジオの槍を真っ二つに切り落とす。
「まだまだっ!!!」
失墜したアルペジオに体当たりをかます。
「ぐおっ!」
トランスミグレーションばかりに気を取られ不意を突かれた形で喰らってしまう。
「クク………原始的な技で来たもんだ。予測出来なかったぞ。」
攻撃を喰らっても楽しそうに話かけてくる。
戦闘そのものが生き甲斐なのかもしれない。
原則他の種族と交流をもたない彼らの中には、羽竜のような特別な力を持つ者は好奇心をくすぐるいい刺激物だと言える。
「原始的な技で悪かったな。もう少し楽しませてやりたいところだけど時間がない。次で決めさせてもらう。」
軽口などではなく羽竜は本気だ。アルペジオに時間を使っている暇はない。
「これはまた急な申し出だな。
まだまだ死ぬつもりはないのだが。」
アルペジオのこの余裕が命取りとなる。
どこの世界でもそうだが、若く活きがいいだけだと格下に見られる。しかし時にそれは都合がよくなる。
羽竜の実力は噂であったとしても知っているはずだ。それでも羽竜を格下に見たアルペジオは命のやり取りをしている事を忘れていた。
「行くぞ!アルペジオ!」
トランスミグレーションは既に羽竜の意志をチャージ完了している。
狙うはアルペジオただ一人。
オクターヴよりも強いと言えど、その実力を発揮する事なくアルペジオは終わる事になる。
「うおおおおっ!!!!喰らえっ!!破邪顕正!!!!」
両手で持ったトランスミグレーションを左下から右上に振り上げる。
猛スピードで赤い光の刃が不死鳥界の大地を駆ける。
「一つ覚えの技を!!」
躊躇わず自前の槍を失したアルペジオはオーラで防御壁を作り対抗し羽竜の技を受ける。
「!!?」
数秒耐え凌いだところで破邪顕正が防御壁を砕きアルペジオの身体を切り裂いた。
「…………そ……そんな………バ……バカな………」
時既に遅し。羽竜の完全勝利に第一戦は終わる。
「………………楽勝過ぎて言葉も出ないぜ。」
アルペジオの身体は浄化され消える。
一息ついて蕾斗達の後を追う。
「忙しいみたいね。」
「新井!」
姿を現したのはナヘマーとして覚醒した新井結衣。
「なんだよ、宣戦布告通り戦いに来たのか?だったら悪いけど今は無理だ。」
レリウーリアが来ていたのだから結衣がいるのは当然だ。
だがこの対面は嬉しくない。
同級生と剣を交えたいと、羽竜は思っていないからだ。
「お互い様ね、私も今忙しいの。宣戦布告しといてなんだけど戦うつもりはないわ。」
学校でも人気のある結衣も、本性は悪魔。黒く冷たいオーラが漂う。
「邪魔するなよ?」
「邪魔?何で私が?どうぞお好きになさって。」
ぷいとそっぽ向きあっちに行けと手首を振る。
「何か言いたいんじゃなかったのか?」
突然現れたのだからそう思うのも無理はない。
「………貴方を監視するのが私の仕事だから。私としては目黒君、貴方の持つフラグメントを今すぐにでも奪いたいのよ。でも総帥からまだ許可が下りないからしばらくおあずけね。」
覚醒したからかどうかは知らないが、以前よりも殺気が強くなった気がする。
そう思うと油断は出来ない。
「めでたい奴だ。男一人に振り回されやがって。」
自分でもよくわからないが悪態をついてしまう。
「言葉には気をつけてね、目黒君。私は総帥の望む事なら何でもするわ。別に振り回されてるわけじゃないのよ。何も知らない貴方に言われる筋合いは無いわ。」
「ヴァルゼ・アークの目的も知らされてないのによくそんな事を口に出来るな?」
「喧嘩売ってんの?」
結衣がロストソウルを羽竜に向ける。
「許可下りてないんじゃなかったのか?」
「時と場合によるわね、総帥をバカにするのは許さないわ。」
「…………フン。俺は用事があるから先に行く。監視するなら好きにしろよ。」
鼻を鳴らして今度こそ蕾斗達を追って行く。
その羽竜の後ろ姿に怒りが込み上げて来る。
「何も知らないくせに、勝手な事を…………」
結衣は羽竜に嫉妬していた。ヴァルゼ・アークがやたらと羽竜を気にかけるからだ。
真意はわからない。羽竜の言う通りめでたいのかもしれない。
それでもいい。悪魔としての服従であっても女としての愛であっても、ヴァルゼ・アークを求め彼の手足になる事で彼女は満たされる。
レリウーリアという組織はそういう女性達で成り立っているのだ。
いつか羽竜の首を取って、ヴァルゼ・アークの寵愛を受けよう。
歪んだ少女はそう心に誓うのだった。