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第二十二章 揺り篭

残るフラグメントは三つ。

出来るなら全て探し出したい。オクターヴ達との戦闘の後時間ひもを辿ってフラグメントを一つはすんなり見つけられた。

それも自分達の住む街から少しだけ遠い山の中で。

その後また時間ひもを辿ってフラグメントを探しに来たのだが、満月が雲に隠れて解空時刻が機能しなくなった。


「多分この近くにはあると思うんだけど…………」


余程、力を使ったのか蕾斗からいつもの元気はない。


「光ってるからこんな暗闇なら簡単に見つけられるはずなんだけど……」


あかねも疲れているらしい。言葉に歯切れの良さを感じられない。


「それにしても、空間の全てがあんな三角錐の空間の組み合わせだったなんて………驚いたぜ。」


羽竜は時間と空間の『カタチ』に驚きを隠せない。もちろん蕾斗もあかねもフォルテも同じ気持ちだ。

レジェンダも例外ではない。

長い時間を過ごしているレジェンダですら初めて知った事だ。


「でもヴァルゼ・アークはどうして敵だって言いながらも僕達を助けてくれるんだろう?」


「さあな。聞いても明確な答えは返って来ないし、考えるだけ無駄だろ。」


蕾斗の疑問は羽竜も何度も考えたが、結局いつも答えは見つからない。

だからもう考えるのはやめた。

いずれ羽竜達が持つフラグメントを奪いに来る。

その時に奪われないように最大の努力をするだけだ。

まあ、努力だけでどうにかなる相手ではないが。


「そうよ、考えるだけ無駄よ。」


「誰だ!?」


木の上から女性の声がして羽竜が叫ぶ。


「久しぶりね、ハー君、ライ君、あかねちゃん。」


「ち、千明さん!!」


あかねが喜びにも近い声をあげる。


「あれ?今日はみんなで千明さんの出演してるドラマ見るんじゃ………………?」


「そうねぇ、今頃みんな見てくれてるんじゃないかしら?あかねちゃんにも見てもらいたいな。今回の役は珍しく力入れたから。クスクス……。」


久しぶりに聞いた。千明のあのクスクスと妖艶な雰囲気で笑う声を。

それにしても珍しく力を入れたなどと言う辺り、普段は手を抜いているのだろうか?

もっともそんな話より、千明に会えた事が嬉しいから気にもならない。

彼女もレリウーリアの一人だが、どこか親近感が沸いて来る。

演技ではない。………と願いたい。


「どうしたんですか?」


さすがに人気女優を目の前にすると蕾斗もテンションが上がる。


「フラグメント、一つくらいは私達も欲しくて。一応私達も集めてるから。忘れないでね!」


妙に色っぽいウインクをして来る。

年頃の羽竜と蕾斗にはかなり快進的だ。

恰好も全身黒で決めているものの、真っ白い肌が余計際立ち、素足が痛いくらい眩しい。

戦闘の疲れを癒すには充分過ぎるくらいだ。


「あった!!」


フォルテが右手を高く上げてフラグメントを見つけた事をアピールする。


「あらあら、残念ねぇ………先を越されちゃった。後二つ……もう見つけてたりするのかしら?」


「え、ええ、まあ………これで今日は二つ目です。」


別に悪がる事など何もないのだけれど、なんだか申し訳ない気持ちになる。

毎度の事だが、レリウーリアのメンバーと会話すると必ず調子を崩す。いや崩される。

心理学でも学んでいるのかと疑いたくなるのも無理もない。


「やるじゃない!それでこそハー君!解空時刻をあげただけあるわ!総帥もさぞ満足するに違いないわよ!」


「いや………別に褒められるような事は何も………なあ?」


無駄に褒められるとリアクションに困る。

羽竜が蕾斗とあかねに同意を求めて照れを回避する。

蕾斗とあかねも顔を見合わせて対応に追われる。


「謙遜は無しよ。本当にそう思ってるんだから…………」


「羽竜!あったよ!ほら!」


場の空気を壊す声が千明の言葉を遮る。フォルテだ。


「あ…………誰?」


「こんばんは。貴方が不死鳥族の居候さん?フォルテ君って聞いてるけど………」


これまた羽竜達より若い少年に興味が惹かれる。


「うん。そうだよ。そしてコイツがフランジャー。」


警戒心ゼロの態度に気を良くしたらしくしゃがみ込んでフォルテ目線になる。

千明なりの誠意なのだろう。出来る限り相手の目線で会話をしたいという。


「ふぅん……不死鳥にも名前があるのねぇ。それに、火の鳥って代名詞があるくらいだから燃えてるのかと思ったんだけど………真っ白なんだ。お世辞にもフェニックスとは呼べないわねぇ………クスクス。」


大分ご機嫌がよろしいようで目が生き生きしている。


「お姉さん、名前は?」


「あら、ごめんね。まだ自己紹介してなかったわね。私の名前は妃山千明。闇十字軍レリウーリアの一人、ベルフェゴールよ。ち・な・み・に、職業は女優をしてるわ。」


「レリウーリア……………悪魔……なの?」


警戒心ゼロだったフォルテの表情が曇る。


「心配しないで、取って食べたりしないから。クスクス。」


すうっと手を伸ばしてフォルテの頬を指で撫でる。


「それで…………これから貴方どうするの?このまま逃げ続けるのは無理じゃない?私達もいつも助けてあげられるとは限らないのよ?」


綺麗で穏やかで……それでいて母親のようにフォルテに語りかける。

でも千明のフォルテを見つめる目は、紛れも無い悪魔の目だ。


「千明さん、フォルテは………」


フォルテの事情を説明してもわかってはもらえないだろうが、どこか責め立てるようにも聞き取れた言葉に羽竜がフォローを入れようとする。


「悪いけど、ハー君は黙ってもらえるかしら?」


全くこちらを見ずに黙らせられる。

そのあからさまに冷たくない口調と、あからさまに悪意のある言葉に何も言えなくなる。


「フォルテ君、貴方は何がしたいのかしらねぇ………そのフェニックスは不死鳥族の象徴。貴方、象徴の意味わかる?主に抽象的な事を具体的に形にした物を言うの。要するに、不死鳥族の誇り、文化、魂を代弁するのがフェニックスなのよ。きっと天地がひっくり返っても不死鳥王は取り返しに来るでしょうねぇ………」


何が言いたいのだろう?誰もがそう思った。

今不死鳥族と戦ってる理由の一つがそれだと千明にもわかってるはず。わざわざ口にして説教なんてらしくない。


「でも不死鳥王はフランジャーを殺そうとしたんだ。黙って見てるわけにはいかなかった………」


自分の仕出かした事は重々承知している。

しかしそれとこれとは話が違うと言わざるを得ない。


「もちろん不死鳥王がこの地上を狙ってる理由も知ってるわ。不死鳥界の時間を元に戻す為に魔導書を探す為。そしてインフィニティ・ドライブで不死鳥界と地上を一つにおさめる。あまりに稚拙で受け入れ難い話ね。私が言いたい事……わかる?」


フォルテは首を横に振る。


「責任を果たしなさい。この意味、わからないようならフェニックスを殺そうとした不死鳥王と貴方………何も変わらないわねぇ…………クスクス。」


厳しい言葉の裏で優しく微笑む。

その矛盾が余計に意味深な印象を受ける。


「ベルフェゴール、そう思うのは勝手だがそれならヴァルゼ・アークはどうなんだ?魔導書を求めてるにしてはそこに真剣さは感じられない。お前達を使って我々を助けはするが敵だと言う。ならば奴の責任はどこにある?フォルテを責める事など出来ぬではないか?」


ずっと黙って聞いていたレジェンダが口を開く。

我慢出来なくなったみたいだった。ヴァルゼ・アークの真意がわからない事への苛立ちかもしれない。


「別に責める気はないわ。」


レジェンダが要らぬ事を言ったせいで千明が機嫌を損ねる。


「ま、用は済んだから………帰るわ。」


鎧を纏わない状態で羽根が現れる。

その姿は悪魔とは違いまるで妖精を思わせる。

青く輝く蝶のような羽根がそれを深く印象付ける。


「じゃあね、ハー君、ライ君、あかねちゃん。また会いましょう。」


ふわりと軽く宙に浮く。


「あっ、そうそう。レジェンダ、総帥を愚弄する事は許さないわ。今日は見逃してあげるけど……気をつけなさい、次は殺すわよ。」


キッと睨みつけて仲間の元へ帰って行った。


「フォルテ君、気にしないで。千明さん悪魔だけど、本当は優しい人なの。」


あかねがフォルテを気遣って声をかけるが、以前相談に乗ってもらってるだけに千明の事を悪くは言えない。


「うん。僕は大丈夫だよ。」


微妙な笑顔が千明に言われた事を気にかけていると悟らせてしまう。


「でも千明さん何が言いたかったんだろ?」


蕾斗が首を捻る。


「さあね。それより今日はもう帰ろうぜ、明日は実力テストで学校に行かないといけないだろ。」


進学校に通う三人には当たり前の行事なのだが、まさか羽竜が言い出すとは思わなかったので蕾斗もあかねも笑ってしまう。


「何が可笑しいんだよ!蕾斗、一年も登校だぞ!」


「わかってるよ。まあ今回は捨ててるけどね。勉強全然してないし。」


「私も。軽く教科書読んで終わりかな。」


こんな時に勉強の話が救いになるとは思いもしなかった。


「残りのフラグメントはどうする?」


返って来る答えは予測出来たが、レジェンダがあえて聞いておく。


「二つは見つけたし、これで合わせて三つ。とりあえずは充分だろ。解空時刻も機能しなくなったし、探すにも探せないよ。」


羽竜が打ち切りを宣言する。

それに反対する者は誰もいない。


「じゃあ早く帰ろう。」


蕾斗がレジェンダを急かす。

今夜蕾斗が使った魔力は膨大だ。帰りもレジェンダを頼るしかない。


「わかった。帰りは瞬間移動で帰れる。睡眠時間は取れる。明日はせいぜい点数を稼いで来る事だ。」


嫌みで言ってるのか心配してくれてるのか。

 五人はレジェンダの瞬間移動で自分達の街へと戻った。

あれほど退屈で嫌いだった日常が、揺り篭のように優しく気持ち良く揺れる。


まだ探し出されてないフラグメントはあと一つ。

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