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第二十章 アイデンティティ

「シュミハザ、どうやら無事みたいね。」


疲れきって立つ気もしなかったところへシュミハザが来た。


「ナヘマー………もう覚醒したのですか?」


今までとは違う容姿のナヘマーを見て、覚醒した事がわかる。


「うん。なんとかね。それでも危うく負けるところだったけど。貴女は?」


「残念ながら覚醒には至らなかったのです。同じく危うかったのですけど。」


覚醒してもそんなにすぐ、力を使いこなせるわけがない。溢れるオーラには驚いたが、まずはその力に慣れる事が先決のようだ。

もし、これがヴァルゼ・アークと出会った時にリミットをかけられずいきなり身体の中に入って来てたら、力の強さに負けて消滅していただろう。


「藤木蕾斗も吉澤あかねもケリはついたみたいです。」


シュミハザがマスクを取り遠くで疲れ果てた二人のオーラを感じ取る。


「後は目黒君だけね………」


肝心の羽竜に勝ってもらわなければ話にならない。最悪は羽竜が拒んでも助けに入らねばならない。

その為にも少しでも体力を回復させておく必要があった。


「………………結衣さん。」


「え?な、なあに?」


突然、本名で呼ばれ何事かとシュミハザに耳を傾ける。


「結衣さんはヴァルゼ・アーク様を愛しているのですか?」


「何よ、いきなり。当たり前でしょ!貴女も愛してるんでしょ?」


シュミハザが頭を下にもたれYesのサインを見せる。


「何が聞きたいの?」


シュミハザの様子を気にかけて優しく声をかける。

シュミハザ(南川景子)はレリウーリアの中で最年少だ。その次に若いのは結衣。互いに一人っ子だったから姉妹のように思っている。

だからこういう雰囲気には敏感になってしまう。


「そ、その………ヴァルゼ・アーク様は何故私には……あ、あの………その………口づけをしてくれなかったのでしょうか…………?」


恥ずかしさを全面に出しながら質問する。


「それは私に聞かれても…………でも悪い意味は無いと思うわ。」


シュミハザの言っている事は恋愛間の口づけではない。

彼女達の封じられていた能力を解放………つまりリミット解除を行うのに、ヴァルゼ・アークは接吻という手段を使ったのだ。

ヴァルゼ・アークの口から流れ込む刺激があって、それでいて熱く心地よい魔力は今でも身体の中を駆け巡りっている。

 仲矢由利を除く十二人にそうやって解除したのに、何故かシュミハザにだけは口ではなく額に口づけをしたのだ。

彼女にはそれが腑に落ちない。

理由を聞く間もなく戦いに来てしまったし、戻ってから改めて聞くのもスマートじゃない。

ジレンマがずっとシュミハザを支配している。


「考え過ぎよ、気持ちはわかるけどヴァルゼ・アーク様は貴女だけ仲間外れにするようなそんな卑劣な男性じゃないわ。気になるなら直接聞いたら?」


「………それはスマートではないのです。」


まだ十四歳のシュミハザには拷問にも近い仕打ちだ。

聞きたいけど聞けない。

聞いてしまうのは子供だという事にならないだろうか?

悪魔と言えど所詮は女。

幼いと言えど女なのだ。


「意地っ張りね。それなら由利姉様に聞いてみたら?那奈お姉様はダメよ!ああ見えて案外口が軽いんだから!」


思い当たる節を思い出して少し腹を立てる。


「今は我慢します。額でも嬉しかったですから………」


額に残るヴァルゼ・アークの温もりがシュミハザを女にしたようだった。

















ルバートを襲った悲劇は一度成らず二度までも彼を苦しめた。親友のスタッカートまで失ってしまったのだ。


「申し訳ありません。止めたのですが、どうしても一人で行くと…………」


白々しいタセットの態度などルバートが知るはずもない。


「バカな男だ………いつもそうだった、何でも一人で片付けようとする。そんなに俺は頼りなかったか?スタッカート……」


トレモロの件で責めはしたものの、ルバートの心は複雑だった。


「ルバート様、こんな時に何ですが……王が不在というのは非常にまずい事態だと思われます。」


「……………確かにそうだな。民の混乱だけで済む時ではないか。スタッカートが召集した兵士達の士気まで下がってしまっては不死鳥界の今後に関わってくる。」


「そこで提案なんですが、ルバート様に不死鳥王に即位して頂こうかと………」


「私が………?」


「これはもう各宰相にはすでに承認済みです。後はルバート様次第と……………」


「しかし、スタッカートの亡き後正統な王位継承者はフォルテのはずだ。フォルテはスタッカートとは腹違いの兄弟。私が王位継承するのは筋違いだ。」


これだから欲も野望もない奴は嫌いだ。家臣達が納得済みだと言っているのに冴えない返事しか返して来ない。

それにそんな話をされても困るオーラを出している。

かと言ってフォルテ以外の者を推薦すれば、確実に批難否定をしてくるのは見え見えだ。

タセットが一番嫌うタイプだ。


「お言葉ではありますがルバート様、フォルテ様はまだ幼いですし、何よりもフランジャーを連れ去るという大罪を犯してたままです。正統とはおっしゃいますが、誰一人賛成はしませぬぞ?」


「しかし……………………」


「心配は要りませんよ。」


タイミングを見計らうようにライト・ハンドが部屋の中へ入って来る。


「ライト・ハンドか。心配は要らぬとはどういう意味だ?」


「暫定的で構わないのです。不死鳥界全体がスタッカート様の死を受け入れ、情勢が落ち着くまでルバート様に王位に就いてもらえれば問題はありません。ルバート様はスタッカート様の信頼を一番厚く受けていたお方、誰も文句は言いません。どうかご決断を。我々も及ばずながら全力でサポートさせていただきます。」


「…………………わかった。一時的でいいと言うのならお前達の言う通りにしよう。」


けっして乗り気ではないが、不死鳥界の混乱は避けねばならない。

今自分が出来る事はスタッカートの死を無駄にしない事。

ルバートにはスタッカートの死が、トレモロと同じ理由が告げられていた。

原因の全ては人間界にあると。


「それでは早速即位式の準備を致します。明日の正午には開会したいと思いますのでよろしくお願いします。」


ルバートの気が変わる前に事を進めなければならない。

ライト・ハンドがタセットに目で合図を送り部屋を出ていく。


「私が………不死鳥王に……?」


望まぬ展開が間髪入れずルバートをがんじがらめにしていく。


「妹と友の死を悲しむ暇すらないのか………………」


運命か宿命か…………狂い出した何もかも。


 どうにもならない神の悪戯に、今は身を任せるしかなかった。


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