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第十八章 未完の願い

「君が魔導を使う者か………」


「僕の名前は藤木蕾斗。君は?」


戦士と言うにはまだ若い少年。フォルテと同じくらいの歳だろう。


「私はフィル。不死鳥族の戦士だ。」


幼い顔立ちには似合わないしっかりした口調で話す。


「悪いけど、手加減は出来ないからね。」


いつになくクールに話す蕾斗がいる。


「是非そうしてもらいたい。でなければ弱い者虐めになってしまうからな。」


フィルも細剣を抜き戦う意思をあらわにする。


「さあ、来たまえ蕾斗とやら。いかに君が魔導を使えても、我々不死鳥族には勝てない事を思い知らせてやる。」


「ちょっとだけ羽竜君の気持ちわかるかも、自分より年下に偉そうにされると頭にくる。」


「見た目は若くとも私は二千年は生きている。人生の経験が違う。」


「聞く耳ないよ!フレイムスター!!!」


以前より威力を数段増した炎の魔法がまるで生きてるように突進する。


「火の鳥を象徴とする不死鳥族に炎の魔法とは!片腹痛い!!」


怯む事なく炎に向かっていく。

細剣で炎を切り裂き蕾斗の前に瞬時に現れ躊躇いもなく心臓を突く。


「…………っ!!!」


上半身を限界まで反り返しフィルの細剣をかわす。

その瞬間にフィルの手首を掴み魔法を放つ。


「サンダーズライナー!!」


蕾斗の手を伝導体として超電流がフィルを襲う。


「ぐっ………!!!!」


超電流がフィルの身体に触れ、危険を感知して蕾斗に頭突きを喰らわせて離れる。


「痛って〜……」


よもや剣を扱う者が喧嘩殺法で来るのには全くの予想外だった。

額を摩りながら一応フィルを警戒するが、フィルも一瞬とはいっても超電流を受けて右手を動かせないでいる。


「やるじゃないか、後一秒でも喰らってたら感電死してたかもしれない……」


「そうしてもらった方が僕的にはよかったけど。」


一定の距離を保ちながら二人がじりじりと横に移動する。

フィルからすれば蕾斗の魔法の威力を知ってしまった以上策も無しに近寄るには勇気がいる。

また、蕾斗にしてみれば格闘術を身につけているかもしれないフィルには絶対に近寄れない。

格闘技は苦手分野。魔法のみで攻めるしかない。


「行くよ!!サンダーズライナー!!!」


とにかく攻撃の一手に限る。

武器を持たない蕾斗には考えたところで他に方法などないのだから。


「させるかっ!!」


サンダーズライナーにフィルが自分のオーラをぶつける。

しかしそれだけで蕾斗の魔法を防ぐのは難しい。

すぐに素早い動きで蕾斗に近付く。

魔法を撃った状態での蕾斗は隙だらけだ。

斬るならそこを狙うしかない。


「はあぁっっ!!!」


フィルの刃が蕾斗の腹部から胸元に赤く線を引く。


「やらせないっ!!」


咄嗟に身を引き深手は負わずに済む。

そのまままたフィルの腕を掴もうとするが、今度はフィルの回し蹴りを側頭部に受けてしまう。


「ぐわっ……!!」


「二度も同じ手は喰わないよ。」


武器を持たない蕾斗の攻撃のバリエーションはたかが知れている。

魔法自体も種類は無いと踏んだフィルはこの機会を逃さない。

蕾斗の腹に拳をねじり込み、声もなく喘いでいるところを膝で鼻を蹴る。

まだまだ攻撃を止めない。

鼻から血を流し戦意を失った蕾斗を体重を乗せて殴り付ける。


「うおおおっ!!!」


雄叫びを上げ倒れた蕾斗の顔面を足で踏み付ける。


「はぁ……はぁ………もう魔法を撃つ余力もないだろ……?」


攻撃の間息を止めていたのか肩で呼吸を始める。


「くっ………」


元々流血するような生活とは縁の無い蕾斗には拷問にも匹敵する攻撃だった。


「たった数分だったけど、久々に手に汗を握れたよ。」


細剣が蕾斗に向けられる。


「魔導を見てみたい気もするけど、君は危険な臭いがする。残念だけど、さよならだ。」


若いよりも幼いフィルが、己の興味好奇心を抑え任務を遂行しようとする辺りが彼の実直な性格を表している。


「そんなに………見てみたいのなら………遠慮なんてしなくて………いいよ!!」


「!!!」


踏み付けられていたフィルの足を力いっぱい両手で押し上げ、身体を転がしてフィルから逃れる。


「まだやる気かい?」


「見たいんだろ?魔導……」


蕾斗と接触する限り、打たれ強いとは思えない。

フィルも手加減なんかはしていない。


「………そんなに言うのなら見せてもらおうか?」


「正直攻撃に魔導を使うのは初めてだから今のうち謝っておくよ、殺したらごめん。」


蕾斗がレジェンダからもらったオノリウスの指輪を突き出す。


「僕には僕の大義がある!だから負けるわけにはいかない!」


オノリウスの指輪が妖しく光る。

すると啖氷空界に包まれた空間が大きな振動とともにうねり始めた。


「フン………何を始めるのかは知らないが、子供騙しだな。」


「何を始めるかって?こういう事を始めるのさ!!!」


うねりをあげていた空間が止まる。次の瞬間、空間の中が強い圧縮を受けて歪み、肉体に過度の負担…………重力がのしかかる。

もちろんフィルにだけ。


「ぬううっ………」


フィルの体型を見る限りでは体重は六十前後。この時点で五倍の重力を受けているとすればフィルの体重は三百キロまで増えている計算になる。少しずつ増える重力はフィルを押し潰すまで続く。

まだ不慣れな魔導での攻撃は、重力に視点がおかれた。

空間に魔導を注ぎ、フィルの周りだけに重力を集中させてその中にフィルを閉じ込める。


「ぐぐっ…………な………」


何か喋りたくても口を開けるのさえ困難になる。


「降参するなら助けてあげるよ?」


蕾斗の声が聞こえたかどうかはわからないが、フィルに降参する気配は感じられない。


「バ………バカに………するな……」


魔導を使いこなせていない蕾斗は、短時間しか魔導を使えない。

一度は勢いの増した重力も、次第に衰えて来た。

身動きの取れる事を確認すると、蕾斗に向かって細剣を投げる。

細剣は蕾斗の心臓にまっしぐらに飛んで行くが、所詮付け焼き刃の攻撃。

あっさりとかわし、細剣は凍りついた木に刺さる。


「いかに魔導を使えても、持続出来ないのでは話にならないじゃないか。」


強気に見えるフィルの態度も、蕾斗には今の自分と変わらない状態であるとしか思えない。

現に、フィルの身体は過度の重力による負担によって身体中の骨にひびが入っいた。


「持続出来なくても充分手応えはあったと思ってるよ。武器を投げたのは失敗だったんじゃない?今の君に負ける気はしないよ、フィル。」


「言うね…………でも私も君に負ける気はしない。慣れてない魔導で魔力も尽きたんじゃないのか?どんなに優れた能力も、短時間が勝負ではもろ刃の剣も同様。期待外れだよ……」


互いに脂汗を滲ませる。


「フィル、君は魔導と魔法の違いをしってるかい?」


「魔導と魔法の違い?」


「魔法ってのは自然界にて起こり得る現象を故意に起こす技。魔導は簡単に言えば有り得ない現象を起こす技ってところかな。」


「どっちにしてももう使えないのなら同じだろう?」


「出来るなら僕は誰も傷つけたくないんだ。フィルが退いてくれるのなら助かるんだけど………」


「なめるな!誰も傷つけたくないだって?ふざけた奴だ。大義があるとか言っておいて結局、和平交渉とは………貴様にだけは絶対に負けん!!」


「フィル…………」


勝ち負けを考えるのなら、蕾斗も負けるわけにはいかない。

でも戦わずに済む方法があるのなら模索したい。

切実な胸の内をわかってもらえる事に僅かなコインを賭けてみた。

結果は予想通り、僅かなコインで大勝ち出来る確率なんて計算する必要もなかった。


「わかったよフィル。なら、今の僕の全てを見せるよ。お望み通り魔導で君を………撃つ!!」


「悪あがきを…………いいだろう、受けて立とう。」


力なんて二人共残っていない。

蕾斗も魔導と言っても、もう既に限界だ。

フィルも策を練るほど力はない。


「行くよっ!!行雲流水!!!」


オノリウスの指輪を突き上げる。

蕾斗の頭上に炎、冷気、雷の魔法が融合する。融合した魔法は強力なエネルギー体となる。

更にそこに魔導を注ぎ込む。

するとエネルギー体は収縮を始めてビー玉程までの大きさになる。


「いっけぇ−−−−−−っっ!!!」


ビー玉程のエネルギー体は猛スピードで啖氷空界の中を駆け抜けてフィルを襲う。


「!!」


ビー玉程の大きさでも、秘めたエネルギーは計り知れない。

残る全神経を注いで必死に行雲流水をかわす。

かわされた行雲流水は大きな円を描いて再びフィルを追跡する。


「戻って来ただって!?」


空気抵抗を無視するような速さを見せつけ、フィルにぶつかる。


「こ…これは……!?」


エネルギー体が何の違和感もなく身体に浸透して行く。


「まだ未完の魔導だけど…………君の命を奪うには充分だよ、フィル。だから降参してほしい。」


握り締めた右の拳のオノリウスの指輪が炎を思わせるような光を放っている。


「フッ………虚仮威し(こけおどし)だ。忘れるな!貴様ら人間に未来は無い!死ねっ!蕾斗!!」


残るオーラが全身を炎で包む。

炎が翼となり高く舞い上がる。


「ウイング・ドロップ!!」


自分自身の身体を武器として蕾斗に急降下する。


「どうして……どうして戦いを望むんだ……」


誰一人傷つけたくない。蕾斗の願いは叶わなかった。


「行雲流水・滅!!!」


蕾斗の掛け声でフィルに浸透したエネルギー体がフィルの身体に熱と冷気、超電流が駆け巡る


「な………。うわああああああっっ−−−−−−−−っ!!!!!!!」


そして爆発する。


「さよなら、フィル……」


オノリウスの指輪が光を封じていき、蕾斗のオーラと魔力も尽きて見る影もなく消滅したフィルを想い涙する。


「どんなに優れた能力も所詮、人殺しの道具にしかならないのか……?」


 人を超えた能力……魔導。蕾斗にとってこれから先それは救いの力となるのか、それとも破滅の力となるのか、この時の蕾斗にはまだわからなかった…………


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