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第十七章 ナイトコール

「助けてくれるんでしょうね?」


「自信を持て。あかねなら出来る。」


答えになってない。確信のあるレジェンダの言葉も、あかねには無責任にしか思えない。


「君が私の相手か。かわいいお嬢さんだ。いや、失敬。少し下品だった。」


不死鳥族の若い戦士はどちらかと言うと戦士というより、貴族のような高貴のいい印象を受ける。


「私の名はオルタード。不死鳥族戦士団副隊長を務めている。」


実に礼儀正しい態度にかしこまってしまう。


「私は吉澤あかね。あの……エアナイトです。」


名前を言うだけでは悪い気がして自分の能力も伝える。


「エアナイト……君が?」


そう言うとレジェンダを物有り気な顔で見る。


「オルタード、余計な詮索はするな。あかねは何も知らない。」


「ジョルジュ・シャリアン………心配は無用だ。女性の秘密を暴くような趣味はもっていない。それよりあかね嬢、君に聞きたい事がある。」


「え?え?私ですか?」


「君が戦う理由を聞きたい。」


「理由………ですか?私は………貴方達から地上を守りたいだけです。」


ストレートで素直な理由だった。

「そうか。…………なら、一度だけ君にチャンスをやろう。今すぐこの戦いから身を退く事だ。私は君を殺したくない。」


「オルタード…………」


レジェンダにはオルタードの心がわかっているようだ。そっとオルタードの名を口にしてあかねの前に出る。


「疑問を感じているのなら何故スタッカートに直接ぶつけない?」


「疑問?どういう事なの?」


話の見えないあかねがレジェンダに問う。


「私は………この戦いが本当に正しい戦いなのか未だ疑問を拭えない。しかし………いや、よそう。私は戦士だ。戦士である以上戦わねばならない。例えそれが殺戮になろうとも。」


「戦士だから戦うのが当たり前だなんておかしいと思う。貴方達の身の上はわかってます。だったらもっと別の道を探すべきではないでしょうか?」


出来るなら戦いたくない。誰も傷つけたくない。その想いをオルタードにぶつける。


「フ………そうだな。許されるなら私もそうしたい。だが、必要悪という言葉もある。不死鳥族の誇りは失う事は出来ない。」


オルタードが槍を構える。


「あかね、彼らに話し合いは無駄のようだ。」


「そうみたいね。悲しいけど力でしか説得出来ないのね。」


あかねが右手を前に出し空気の剣を出す。


「ミクソリディアンソード!!」


そう叫ぶと空気の剣がその姿を具体的にしていく。

細身の刃につばの部分には薔薇のレリーフがある。

これがあかねが生み出した彼女自身の武器、ミクソリディアンソードだ。


「戦いを選ぶか………ならば手加減はしない!」


「平和を手に入れる為に戦いが必要だというのなら、私は戦うしかない!」


どちらともなく駆け出す。

オルタードの槍が残像を残しながら絶え間無い攻撃を見せる。

その全てを読み、不器用ながらもミクソリディアンソードでさばき切る。


「やるな、さすがはエアナイトの血を引く者。」


「?」


オルタードの言葉に不可解な顔をする。


「せめてこの戦いの間だけでも私は戦士でいたい。相手がエアナイトなら尚のほど。」


オルタードは不死鳥族が地上に進行を開始すれば、戦士ではなく殺戮者となってしまう事を知っている。

今この瞬間だけが、戦士でいられる最後かもしれないのだ。


「エアナイト、行くぞ!!」


一度は止めた手をまた激しく動かす。

槍がしなりながら空を裂く音を上げる。


「ディストーション!!」


あかねが声を発すると、オルタードの周りの空気が細かい振動と共に、ノイズによって空間が刻まれる。


「こしゃくな!」


後ろへ宙返りをしてあかねの技を避ける。

今朝からのたったの数時間であかねはミクソリディアンソードとディストーションと自ら名付けた技を得とくしていた。

羽竜や蕾斗より成長の早いあかね。そこにはかつてエアナイトだったレジェンダがいてこその偉業とも言える。


「師匠がいいのか、弟子が優秀なのか……見事な技だ。」


まだ心のどこかに戦いへの恐怖心の残るあかねは、技に対して差ほど集中出来ていない。


「あかね、相手を傷つける事を躊躇うな!」


「簡単に言わないで!」


レジェンダはあかねを思って言ってるのだが、あかねにしてみればそれが出来ないから苦労しているのだと言いたくなる。


「今度は私が技を披露しよう!プリズムスクリュー!!」


槍を突き出す際、腕を内側に回転させて渦を起こす。

その渦に乗った魔力が刃物の役割を担いあかねの身体を傷つける。

無数の刃物をミクソリディアンソードで振り払うが、何せ数が多い。未来を読んでも全ては打ち払えない。


「いったぁ〜い。」


シチュエーションに似合わない猫撫で声で身体に付いた赤い線を撫でる。


「集中しろ!集中すればもっと優位に立てる!」


レジェンダはあかねが集中出来ていない事を除いては問題ないと認識している。

しかしあかね自身は十分集中していると思い込んでいる。

このギャップが埋まらなければ、レジェンダの適切な指示も意味がない。


「そんな事言ったって………」


ミクソリディアンソードを下段に構えオルタードの出方を待つ。


「あかね嬢、次はその命貰い受ける!」


槍を頭上で二、三度回してあかねに飛び掛かる。

レジェンダに言われた通り、もう一度冷静に集中してみる。


−最初は正面に突き、私がそれを後ろに下がって避ければ更に踏み込んで来る!チャンスはそこね!−


読み通り始めは正面に突いて来る。

あかねは予定通りに後ろに跳びはね避ける。

次にあかねの目に映る未来は………左足で思い切り地面を蹴り上げ、右足をあかねに向けて踏み込んで来る。と同時に槍を長く持って胸元を突いてくる。

 この0,X秒の未来は一部の狂いも無く遂行される。

そして既にそれが見えているあかねはミクソリディアンソードを準備していた。

狙うはオルタードの右の二の腕。直接命を狙うのはやはり抵抗がある。

利き腕の二の腕に深い傷を負わせる事で、オルタードの攻撃を止める作戦だ。


−来る!−


二回目の突きを屈んでかわす。

紙一重とはいえ見事に次の攻撃への体勢を崩さずにかわせた。

視線はオルタードの二の腕にある。

目標へ向けてミクソリディアンソードを突き立てようとしたが、右の頬に強い痛みを受けた瞬間身体が飛ばされた。


「キャァッ!!」


一度目を後ろに跳びはねて避けたのに、二度目を屈んでかわした事でオルタードが警戒したのだ。

そしてすかさずあかねを右肘で殴りつけた。

いかに0,X秒先の未来を読めると言ってもそればかりで戦いは行えない。

大切なのは次に繋がる為の素早い行動だ。

しかし残念ながら、その辺はオルタードの方が幾分も上である。


「エアナイトの能力を知っていたから対処出来たが………それにしても見事な作戦だった。素直にお褒めしよう。」


けして余裕からの言葉ではない。

オルタード自身一瞬ヒヤッとしたのは否定出来ない。


「女の子の顔に肘入れといて褒められても嬉しくないけど……」


「悪く思わないでほしい。あまりに素晴らしい攻撃に感心してしまってね。」


「そう………ならもう一発!!ディストーション!!」


さっきは不発に終わった技を放つ。

刻まれていく空間がオルタードを囲んで彼まで刻もうとする。


「何度やっても同じ事!プリズムスクリュー!!」


今度はオルタードの技があかねを襲う。


「苦しまずに死なせてやろう!」


留めを刺すべく勢いを増すプリズムスクリューに、空気を圧縮した弾を投げ付ける。


「コンプレッサ!!」


圧縮された弾が小規模ながらも爆発する。


「くっ!!まだあんな技を!?」


一点に集中して起きた爆発にオルタードが怯む。


「今ね!」


それを見逃す事なく大きく跳び上がる。


「技ならとっておきのがあるわ!喰らえ〜!!ドミナント・セブンス・スケール!!!」


「何を!!!プリズムスクリュー!!!」


あかねがミクソリディアンソードを両手で持ち、上から振り下ろし正面で止める。そこからかなり圧縮した空気が放たれる。それだけではない、ディストーションの空間の刻みを更に鋭くした刻みが圧縮された空気の周りを回りながらオルタードへ向かう。

技の意味をオルタードが理解したかはわかり得ぬところだが、ミクソリディアンソードも技の一つと考えるなら、あかねには後四つ技があると推測出来る。

それが証拠にドミナント・セブンス・スケールには他にも四つの現象が起きている。

オルタードの必死の技も虚しくドミナント・セブンス・スケールに掻き消されて、その身に受けてしまう。


「うわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!!」


オルタードが空高くまで飛ばされて受け身を取る間もなく大地と衝突する。


「いけない!つい本気になっちゃった!」


激しく傷ついたオルタードを案じてあかねが駆け寄る。


「ごめんなさい!大丈夫ですか!?」


仰向けで倒れるオルタードの見下ろして困った顔をする。


「最初から最後まで………見事だったよ………」


「オルタード…………」


「君の………この世界を想う気持ちの勝利………だな。」


「そんな……私は別に………」


「謙遜する……必要……は…ない。我々不死鳥族も、君達も、決して負けられない戦いにいる。これでいいんだ………君は勝たねばならない……世界を守るという事は、君の大切な物も守るという事だ。憎しみから始めた戦いなんて………私はやはり認めたくない。」


オルタードの息が弱くなるのに気付きレジェンダに回復魔法をかけるよう求めるが、レジェンダはそれを拒否する。


「レジェンダ!魔法でオルタードを助けて!!」


「………無駄だ。あかねの技の威力………あれをまともに喰らったのだ、助かる見込みはない。」


「そんな!!」


「断っておくが、どんなに魔力の強い者の回復魔法でも限界がある。回復魔法は生物の持つ自然治癒能力を一時的に大幅に高めるだけの魔法。そう教えたはずだ。それに……戦士が命を賭けて戦い、敗れたのだ。生き恥を晒す事はオルタードも望んではいまい。」


「ジョルジュ殿の言う通りだ………あかね嬢。このまま死なせてほしい………」


女であるあかねには、男のこういう考え方に賛同しかねる。

でも、オルタードの気持ちを酌んでやる事にした。

それが一番だと思ったから。


「ごめんなさい………私…………」


殺めてしまった事を悔いて泣いているわけではない。

ただ、他にどうすればいいのか思い付かない。涙を拭いながらそれでも溢れる涙が恨めしい。


「幸せ者だな、私は………君のような可愛い女性に看取られて逝けるのだから………」


「オルタード……お前の心残りは私達が必ずスタッカートに伝えよう。」


レジェンダがオルタードの無念を引き受ける。


「ジョルジュ・シャリアン………ありがとう…………」


レジェンダの優しさがオルタードの身体を伝い心まで染み込む。その想いは涙へと変わる。


「オルタード!!」


ゆっくり目を閉じたオルタードにあかねがその名を呼ぶ。


「眠らせてやれ………」


レジェンダがそっと呟く。

あかねも戦士の最後を看取る為黙って頷く。


「オルタード………哀しき戦士よ………」


レジェンダの心中は怒りに満ちていた。


「オルタード…………」


あかねもまたレジェンダの雰囲気からそれを感じ取り戦士の名を呼ぶ………。


オルタード…………凍り付いた空間の中で、いつまでも呼ばれていた戦士の名。


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