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第一章 招かざる客

「フラグメントは満月の夜にだけ月の引力に反応して大量に魔力を放射するの。その時に解空時刻に映る光の場所を記憶しておくしかないのよ。自分のいる場所を0地点として、後は計算すればだいたいどの辺にあるかわかるはずよ。私達は残り三つのフラグメントの在りかは把握してるから問題ないけど、貴方達はちゃんと見つけられるかしら?」


金で出来たブローチのようなものの真ん中に紫色の石が埋め込んである。一万年に一度ミドガルズオルムという時空の狭間に生息する巨大な蛇が不死鳥を呼び寄せ、その身を焼いて脱皮する。その時に流す涙を解空時刻と呼ぶらしい。

岩瀬那奈に渡された解空時刻はとてもそんな風には見えない。


「計算て……どんな計算なんですか?」


漠然と説明されてもわからない。

蕾斗が那奈に聞き返す。


「そのくらいは自分達で考えなさい。なんでも人を頼るのはいけないわ。三人寄ればなんとやらよ。四人もいるんだから大丈夫でしょ?」


夕暮れの美術館には羽竜とあかねと蕾斗とレジェンダしか客はいない。まあレジェンダが客として成り立つかどうかはわからないが……。


「わかりました。それは私達でなんとかします。でも、本当にもらってもよかったんですか?なんか高価な物みたいですけど………」


あかねが申し訳なさそうに解空時刻を握りしめながら那奈の顔を見る。


「いいのよ別に。総帥から貴方達が来たら何も言わず渡すように言われてるから。一通り説明はしたし、後は貴方達次第よ。ま、レジェンダもいるし大丈夫か。」


「ほんとにありがとうございます。」


重ねてあかねが頭を下げてお礼を言う。

やっぱり何度考えても『悪魔』とは思えない。こういった日常で彼女達と会話すると、ほんとの一般人にしか見えない。

もっとも、那奈は若くして国立美術館の館長なのだから一般人から少し遠いかも。


「さあ、今日はもう閉館よ。未成年は早く帰りなさい。ご両親が心配するわよ。」


時計の針は既に5時を過ぎていた。


「別に帰っても心配してくれる奴なんかいねーよ。」


「え?羽竜君………ご両親いないの?」


急に膨れっ面をする羽竜に那奈が疑問を抱く。


「二人共仕事で家になんかたまにしか帰って来ないからな。今はレジェンダがいるから淋しくないけど。」


「羽竜君やっぱり淋しかったんだね……」


「……!!ば、馬鹿、淋しくなんかねーよ!!」


蕾斗につっこまれて慌てて訂正する。


「そう…………羽竜君も結衣と同じなのね……」


「新井が俺と同じ?」


「ええ、前にも言わなかったかしら?あの娘わけあってご両親と暮らしてなかったのよ。だからずっと心を閉ざしていたの。今は私達レリウーリアは全員共同生活してるから淋しくないって言ってるけど………まあいろいろあるから。………って私口が軽すぎかしら?今のは結衣には内緒ね!また余計なこと言ってって怒られちゃう。」


無邪気な笑顔で右の人差し指を口元に当てる。


「わかったよ。新井には言わない。」


 最後にみんなで那奈にお礼を言って美術館を出る。

あかねの手には解空時刻が握られている。

普通物語で重要なアイテムは、何か試練を乗り越えて手に入れるもの。それであってこそ価値がある。

しかし、解空時刻は美術館という誰でも来れる場所でしかも敵から簡単に『貰って』しまった。優しい説明付きで。


「なんか複雑だよね……」


「何がだよ、蕾斗。」


「だって那奈さんてあんなに優しいのに、いつかあの人とも戦わなくちゃいけないんだよね……」


「………しかたないだろ。あの人達は悪魔なんだし。ヴァルゼ・アークだって何考えてるかよくわかんねーし。優しい優しくないはあの人達には関係ないんだよ、多分………」


「ヴァルゼ・アークは頭のキレる男だ。何を考えてるか深読みすればするほどあやつの手の平で踊ることになる。なら我々は我々で考えて、正しいと思う道を歩くしかない。」


レジェンダが困惑する羽竜と蕾斗をなだめる。


「レジェンダの言うヴァルゼ・アークって、『この時代』のヴァルゼ・アークか?それとも『千年前』のヴァルゼ・アークか?」


「私は『この時代』のヴァルゼ・アークしか知らない。だがおそらく『千年前』のヴァルゼ・アークもキレる男だったのだろう。説明は出来ないがそう思う。」


最近は口を開けばレリウーリアの話になってしまう。

特にヴァルゼ・アークの話題が多くなる。

レジェンダも彼に惹かれ始めているのかもしれない。


「何にしても満月までは後二週間もあるし、解空時刻はそれまでは役には立たないね。」


「なんか計算がどうのこうの言ってたな………俺計算苦手なんだよな……」


「もう!二人共男の子でしょ?しっかりしてよ!」


煮え切らない羽竜と蕾斗にあかねが説教する。


「怒鳴ることねーだろ……おっかねぇなあ……」


「なんか言った?」


「いえ…何も……」


この頃あかねにペースを握られている気がしないでもないと、羽竜が不満げな顔を見せる。でも少し悪い気がしないわけでもない。

それは三人がいつも通りの日常を満喫している証拠だ。

そんないつも通りの日常もこの後すぐに壊される。


「!!!」


羽竜が何かを感じ取る。

レリウーリアのものとは違う気配。


「何…?この熱い気配は……」


今までにない燃えるようなオーラを感じるあかね。


「一つ…二つ…三つ……四つ………となんか小さいオーラが一つ来る。」


羽竜とあかねには感じられない小さいオーラを一つ感じ取る蕾斗。


「蕾斗!啖氷空界を張れ!」


レジェンダが蕾斗に啖氷空界を指示する。


「わかった!」


ただならぬ気配を感じて素直に啖氷空界を張る。

周りの空間が凍り始める。


「まさか……!?」


まさか啖氷空界を破る者が悪魔以外にいるとは羽竜も思わない。

凍り付いた空間に穴が開き、そこから一人の少年が現れる。

その腕にはおそらく鳥カゴだと思しき物を大事そうに抱えている。

少年は羽竜達を見つけると一目散に駆け寄って来る。


「た、助けてください!追われてるんです!」


あまりに突然の出来事にア然としてしまう。


「もう逃げられんぞフォルテ!おとなしくフランジャーを渡せ!」


少年は羽竜達の後ろに回り込み自分の身を守る。


「お、おい、なんだお前!?」


少年を追って来たと思われる男は三人。

その中のリーダーらしき男が剣を抜いて羽竜達に近づいてくる。


「フン……どこのどいつが結界なんぞ張ったのかと思えば、まだ子供ではないか。」


「お願いします!助けてください!」


少年が怯えた声で助けを請う。


「どけ!貴様らに用はない!」


男が羽竜と蕾斗の肩を掴んで払おうとする。


「どう見てもあんたのほうが悪者だよな?そうだろ?蕾斗。」


「そうだね、こんな悪人面の人中々いないよね…」


「なにぃっ?言わせておけば!」


男が剣を左から右へ振り二人を斬ろうとする。しかしそれをあかねが止める。


「!?」


男にはあかねの空気の剣が見えていない。

部下らしき男二人が剣を手にして応戦する構えだ。


「貴方達がその気なら、私達もその気になりますよ?」


強気なあかねに負けてられないと羽竜と蕾斗もやる気満々だ。


「レジェンダ、トランスミグレーションをくれ!」


何も言わずマントからトランスミグレーションを出す。トランスミグレーションは静かに宙を漂い羽竜に渡る。


「この世界にまだ剣の使い手がいるのか?」


「なんだよ、怖いのか?」


羽竜が挑発する。


「くっ……このガキ……!」


部下の一人が我慢出来ず羽竜に斬りかかる。


「止せ!!」


リーダーの男が先走る部下を止めるが、もう遅い。


「羽竜君!私がやる!」


あかねには既に0,X秒先の未来が見えている。


−最初の一撃はフェイントね……次は右から突いてくる!−


あかねの見えない剣を警戒して最初はフェイント攻撃、二撃目は姿勢を低くしてあかねの右から突いてきた。


「うおっ……!?」


自分の攻撃よりも先に何かがミゾオチを直撃する。


「手加減しといたから。」


どうやら剣の柄を当てたらしい。


「やるじゃん!吉澤さん!」


蕾斗に冷やかされて、はっと我に返る。


「ち、違う!つい……」


赤くなる頬に親しみが湧く。


「ぐっ……女……」


「バカが。先走りおって。」


「も……申し訳ありませんディエッサー様……」


ディエッサーと呼ばれたリーダーの男が羽竜達を睨みつける。


「なるほど……少しは出来るか………いいだろう、相手してやる。まとめてかかってこい。」


「まとめて?冗談だろ?男ならサシで勝負だ!」


そう言ってトランスミグレーションの刃をディエッサーに向け、頭の脇で構える。


「……後悔するなよ、小僧。」


「その小僧って聞き飽きてんだよ。」


羽竜に対抗して剣を構えた。

余裕の表情で羽竜を迎え撃つ。

そして、羽竜にも余裕が見られる。


「行くぜ……!」


羽竜から仕掛ける。

トランスミグレーションと共に駆け出す。


「そんな子供騙しの構えで!」


「覚えておけよ!俺の……俺の名前はぁぁぁぁっ!!」


トランスミグレーションの刃が赤い光を放つ。


「なんだこのパワーは……!!」


「目黒羽竜だぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


「!!!!!」


トランスミグレーションはディエッサーの足元の影に振り下ろされる。

その威力が解放されディエッサーを吹き飛ばす。


「ぐわっ!!」


啖氷空界の中で不様に転ぶ。


「ディエッサー様!!」


「小僧!!」


もう一人の部下が羽竜に突進する。


「だから……小僧じゃねぇって………言ってんだろーっ!!」


突進して来た部下の男の攻撃をかわして背中に蹴りを入れる。


「うわっ!!」


前のめりに見事に転ぶ。


「もう一回言うから聞いとけ!俺の名前は……目黒羽竜だっ!!」


羽竜の声が啖氷空界の中を駆け抜けていく。


「さっすが羽竜君!カッコイイ〜!」


蕾斗は相変わらずの調子だ。


「なんなんだあのパワーは……」


ディエッサーは羽竜とトランスミグレーションの圧倒的なパワーに成す術も無いことを悟る。


「な〜んだ、もう終わりか?物足りねぇなあ。」


舐めてかかったとはいえ一撃でやられてしまうとはさすがに思わなかったようだ。


「おい!ここは一旦退き上げるぞ!」


「し、しかし……フォルテは……」


「今のを見ただろう?俺達では歯が立たん。一度城に戻る!」


「「はっ!」」


「フォルテ!このまま逃げられると思うなよ!」


ディエッサーが捨て台詞を吐き、部下達と共に啖氷空界に出来た穴から撤退していく。


「けっ、おととい来やがれ!!」


勝利の雄叫びと言わんばかりにトランスミグレーションを啖氷空界の穴に向けて叫ぶ。


「なんだったんだろ……あの人達……」


蕾斗が啖氷空界を解く。

凍っていた空間が元に戻る。


「あ…あの、ありがとうございました。」


少年が羽竜達にお礼を言う。


「君……フォルテ……とか呼ばれていたけど、それって名前だよね?」


少年に近寄りあかねが名前を確認する。


「はい。僕はフォルテ。そしてこいつはフランジャーと言います。」


羽竜達よりは年下に見えるフォルテと名乗る少年。

鳥カゴにはフランジャーと呼ばれた白い雛鳥がいる。


 フォルテとフランジャー。彼らとの出会いは羽竜達を新たな戦いへと導いていくこととなる。


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