第十六章 暴君の在るべき姿
「ぐあぁぁぁっ!」
「くそっ……!なんて強さだ……!」
不死鳥族の戦士達が、不死鳥界への侵入者に次々て殺られている。
「聞こえなかったのか?不死鳥王はどこにいる?」
黒髪の男が近くにいた戦士の首を掴み威圧する。
「だ………誰が貴様なんかに………」
「そうか、なら消えろ!」
そのままの状態で男がオーラを放って戦士の頭を消し去る。
「お前らにもう一度だけ言う、不死鳥王のところへ俺を連れて行くかここへ呼んで来い!」
男の周りをざっと五百の戦士達が取り囲んではいるが、あまりの強さに誰ひとりとして立ち向かえない。
とは言え、自分達の王を売るような真似も出来ない。
男の後ろには男によって倒された戦士達の残骸が転がっている。
「バケモノか………こいつ……」
口々に戦士達が男を批難するが、この場合は褒め言葉と捉えるべきだろう。
「不死鳥族も地に堕ちたな。バウンス王の時はもっと誇り高い戦士が大勢いたが………」
自分を囲む不死鳥族の戦士達を見回す。自分に怯える戦士達に胸の中では落胆していた。
「面倒だ、一気に片付けてやる。」
男は右手に黒い刃の剣を具現する。
「お待ちを、ヴァルゼ・アーク殿!」
戦士達の間を縫って来る男がいる。
「ヴァルゼ・アーク!!!?」
戦士達が男の強さに納得した。
そして全員が後ずさる。
「魔帝ヴァルゼ・アーク殿、不死鳥王がお会いになられます。」
右目に眼帯をした若い男は不死鳥王の使いのようだ。
「フン…………初めからそうすればいいものを……」
「お許し下さい。突然の貴方の来訪に不死鳥王も準備が出来ていませんで。」
「まあいい。お前はスタッカートの直属の部下か?」
「はい。申し遅れました、私の名はライト・ハンドと申します。色々雑用などをこなす役目の者です。」
雑用をこなすなどと言ってはいるが、ただ者ではない事を彼の雰囲気が語っている。
「さ、どうぞ付いて来て下さい。不死鳥王がお待ちです。」
ライト・ハンドが来た道を戻りヴァルゼ・アークを誘導する。
−不死鳥が狸にでもなったか………−
この手荒い歓迎は仕組まれたものだと悟った。
人間が魔帝の記憶と力を手に入れた事を知っている。それを不死鳥王は確認したかったのだろう。
となれば、その事を知る輩が不死鳥界にいる。
おそらくは天界の生き残り。
ライト・ハンドに付いて行った先は城の敷地内にある教会だった。
「こちらです。」
一度振り向きライト・ハンドがヴァルゼ・アークを見る。
「悪魔を教会に呼ぶとは………たいした歓迎だ。」
ライト・ハンドに誘導されるまま教会の中へ入る。
教会と言ってもキリストが奉られているわけではない。
不死鳥族を守護する不死鳥神が奉られている。
その大きな像が招かざる客を見下ろしている。
「不死鳥王、ヴァルゼ・アーク殿をお連れしました。」
不死鳥神の像の下の棺に手を掛けてじっとヴァルゼ・アークを睨む。
「他人の敷地に無断で侵入したあげく、かわいい部下を相当殺してくれるとは………悪魔はやる事が卑劣極まりないな。」
「スタッカート………」
「ライト・ハンド、下がってよい。」
「はっ。」
ライト・ハンドが教会を出るのを見届けてからスタッカートが口を開く。
「何しに来た?まさか私を倒しに来たわけではあるまい?」
「ネズミ捕りに来たんだよ。」
「ネズミ?」
「お前が知っている俺は、今のこの姿と違う。だがお前は俺が誰だか知っている。という事は、この姿の俺を知っているネズミがいるはずだ。どこにいる?」
「………………知らんな。」
「シラを切るか………」
「知らんものは知らん。それはそうと随分と図々しくなったんじゃないか?ヴァルゼ・アーク……」
「そのセリフそっくり返してやろう。」
腹の探り合いをしているわけではないが、心許せる相手でもない。互いに目を反らす事なく様子見といったところだろう。
何と言っても悪魔の象徴である魔帝と不死鳥族を統率する不死鳥王なのだから。
「ネズミを飼う趣味があるのならもっと生きのいいネズミをプレゼントしてやるぞ?」
「ハハハ!くだらん。ネズミなどおらんと言ってるではないか!」
別に本物のネズミと勘違いしてるわけではない。
ただ素直にヴァルゼ・アークの言う事を聞く気はないだけらしい。
「まあいい。ネズミなどいつでも始末出来る。ただ残念なのは、誇り高き不死鳥族の王がネズミ一匹に踊らされている事実だけだ。」
「悪魔にしてはジョークに品があるし、人間にしては口が達者だな。」
ヴァルゼ・アークの探しに来たネズミを知っていると合図している。もちろんわざと。
合わせて中途半端だと皮肉っているのだ。
「なら話題を変えるか?ずっと昔にお前の父親、バウンス王と戦って以来の再開だからな。あの頃はまだヒヨッコだったけどな。」
鼻を鳴らして教会内に並ぶテーブルに腰を掛ける。
「貴様と話す事など何も無いが?」
「フッ………ルバートが俺を訪ねて人間界に来たぞ。」
「何?ルバートめ、いないと思ったら人間界なんかに………」
「お前を止めてくれと頭を下げられた。」
「………それで不死鳥界に来たわけではないのだろう?」
「ああ。その件は丁重に断った。」
「なら闇十字軍は我々不死鳥族の敵ではないという事か。」
「そいつはどうかな?」
「どういう意味だ?」
「お前も求めているのだろう?これを………」
そう言ってポケットの中から桃色に輝く石を四つ取り出す。
「それは…………!!」
「やはりオノリウスの魔導書を狙うか………」
目の色を変えたスタッカートを見てルバートの話の裏が取れた。
「フラグメントと言うんだよ。これを八つ集めなければ魔導書への道は開かれない。そして、お前が魔導書を目指しインフィニティ・ドライブを望む以上は俺達は敵同士というわけだ。」
「フフ………なるほど。ならそのフラグメントとかいうのは今しばらく持っていてもらおう。地上粛正が済んだら次は貴様ら闇十字軍の番だ。」
スタッカートの目つきはもはや王としてと目つきではなくなっている。欲に塗れた俗物でしかない。
「好きにしたらいい。」
用が失くなったと見えてヴァルゼ・アークが帰ろうとする。
「待て!」
歓迎していなかったはずだがスタッカートがヴァルゼ・アークを止める。
「何か用か?」
背を向けたまま返事をする。
「お前ら人間界を支配するつもりなのだろう?」
「勘弁してくれ、人間界に興味なんかない。」
「なら魔導書を求める理由はなんだ?インフィニティ・ドライブを求める理由はなんだ?」
スタッカートもネズミの受け売りとはいえインフィニティ・ドライブの意味をわかっている。
考えられる理由は地上の支配以外は考えられない。
「お前達不死鳥族は地上粛正の後、地上を破壊して不死鳥界に主時間を移動させる。その為にインフィニティ・ドライブが欲しいと見える。安っぽい野望だがな。」
「………言ってくれる。我々の苦しみも知らないで………」
「俺は地上なんか欲しくないし、まして宇宙なんかも欲しくない。」
「だったら何が目的だ?」
「さあな。もしかしたら目的なんて無いのかもしれんぞ?」
「バカにする気か?」
「人様の事をあれこれ詮索する前に自分の足元を固めておく事だ。次期に有能な若い勇者が三人ほどここに来るだろう。」
「若い勇者?何者だそいつは?」
「人間で在りながら魔導の力を持つ少年、エアナイトの能力を持つ少女、そしてまだ覚醒していないが、おそらく俺達が恐れるべき力を持つトランスミグレーションの使い手の少年。彼らは必ずここへやって来る。」
「魔導に………エアナイトに………トランスミグレーションの使い手?我々が恐れる力…………もしや!!」
「本人は気付いてないが、間違いないだろう。彼らは戦いを一つクリアしていく度、とんでもなく成長を遂げる。せいぜい首を洗って待っておく事だ。」
スタッカートの方を向いてニヤリと笑う。
「随分と買ってるみたいだな。」
「まあな、かわいい弟と妹みたいなものさ。」
「ヴァルゼ・アーク、最後に一つ聞きたい。」
「なんだ?」
スタッカートの瞳に優しさが戻る。
「恥を忍んで聞く、お前は誰かを愛した事があるか?」
スタッカートの言葉に心があった。そしてその意味は、教会に入ってからずっと手を掛けている棺を見て理解する。
「部下達は愛している。俺にとっては全員家族であり恋人のような者達だ。誰ひとりいなくなっても困るよ。」
「……………。」
ヴァルゼ・アークの言葉に嘘はない。
「スタッカート、誰かを愛する事は恥ずべき事ではない。人間は愛を語る時、何よりも尊いだとか幻想だと皮肉る者もいる。だが両者とも間違いだ。」
スタッカートはただ黙ってヴァルゼ・アークの語りに耳を傾ける。
「愛とは自分を映し出す鏡だ。神もお前達不死鳥族も俺達悪魔も、誰かを愛する事で自分を見てるんだよ。人を愛せない者に王たる資格は無い。…………………その棺の彼女に愛を教わったか………」
何もかも見通されている。スタッカートは自分とヴァルゼ・アークの格の違いを思い知った。
「大切な物は失って初めて気付くらしい。」
ヴァルゼ・アークはそれだけ言い残して教会を出て行った。
「…………教わった物も失った物も私には大き過ぎた………だからこそ私はやり遂げねばならん!その為なら暴君にでもなろう!」
誰に言ったわけでもないが、叫ばずにはいられなかった。
「悪魔に愛を語られるとは…………情けない。笑ってくれ………馬鹿者だと………大馬鹿者だと笑ってくれ……なあ、トレモロ………」
棺を開けてトレモロの頬に触れる。
演じるは暴君………スタッカートに残された物はあまりに酷だった。