第十三章 still 「アイ」……
チャーチは自分を変わり者だと言った。
シュミハザも変わり者と呼ばれた過去があった。その時は気にも止めないフリをしていたが、内心は傷ついていた。
どこが周りの人と違うのか?
自分は母親の言う通り産まれて来なければよかったのではと悩んだ時期もあった。
ヴァルゼ・アークに会うまでは。
「お互い変わり者なのですね………チャーチ。」
変わり者の意味がシュミハザとチャーチとでは違うが、シュミハザは共感する。
そう呼ばれる事の辛さを知っているから。
「………?お嬢ちゃんも変わり者なのですか?」
シュミハザが微笑んだ。
笑顔を捨てた彼女が。
「残念です、チャーチ。同じ種族、同じ歳だったら、きっと私達はいい友達になれたのだと思います。」
「………………………。」
この時チャーチが何を感じたかはわからない。
口元を緩めただじっとシュミハザを見ていた。
「チャーチ、貴女は愛する人の為なら肉体を犠牲に出来ると言ってましたが、ライト・ハンドという人はそれで満足してるのですか?私自身、貴女と変わらない気持ちですが、ヴァルゼ・アーク様はきっと私が五体満足で帰って来る事を望んでいます。あのお方はそういう人です。だから私は何一つ失う事無く帰らねばならないのです。」
「そう………それもまた愛でしょう。」
チャーチが剣を構える。
シュミハザもロストソウルを構える。
「貴女と私………互いの愛を賭けて………」
シュミハザがロストソウルをチャーチへ飛ばす。
空間を裂くように勢いを増して飛んでいく。
チャーチもシュミハザに挑む。
鋭い角度でチャーチに纏わり付く。
進行を止める事なく身体を回転させ、時にぎりぎりでかわしながらロストソウルを避ける。
「不死鳥族No.1のスピードは伊達じゃありません!」
ロストソウルを振り切りシュミハザの後ろにつく。
「くっ………!」
チャーチがシュミハザの身体を真横に斬りつける。
それをバック転でかわす。
間際、爪先をチャーチの顎に当てる。
剣を振り切る為、姿勢を低くしていたチャーチはまともに喰らう。
「!!!」
ロストソウルが再び獲物をロックオンして飛んでいく。
チャーチが警戒するのは時空の歪みを使ってのロストソウルの動き。
こればかりは読み切れない。
距離を意識しなくていいシュミハザのロストソウルはどんな曲面にも対応可能だ。
「うおおおっ!!」
唸り声を上げてロストソウルを弾き返す。
そのまま回転してまたチャーチに向かう。
剣で防ぐしか方法はない。
ところが警戒していた事が起きる。
ロストソウルは時空の歪みに入り姿を消した。
−どこから来る!?−
足元、頭上、後ろ、右、左、すかさず確認するが一向に姿を現す気配がない。
「チャーチ、私の全魔力とオーラをもって貴女を倒します。」
「言いましたね!なら私も私の全てをもって貴女を倒します!シュミハザ!!」
どこから来るかわからないロストソウルを警戒し続けても始まらない。
自分のスピードには自信がある。
何と言っても不死鳥族No.1。罠だとも考えたが、死にさえしなければシュミハザを倒せる。
腕の一つや二つ、痛くも痒くもなかった。
大地を蹴り上げシュミハザの心臓目掛けて剣を構え、飛んでいく。
「覚悟!!シュミハザッ!!!」
「掛かりましたね!!」
飛んで来るチャーチに狙いは定まっている。
「デッドエンドネメシス!!」
「な………!!?」
ロストソウルは時空の歪みに入ったままなのに、シュミハザが必殺技を仕掛けて来た。
すると、入った時空の歪みから折り返し飛んで来る。
「しまった………!!」
後方を完全に取られた。
半端じゃないスピードのチャーチの真後ろは空気の抵抗が小さくなっている。
追い付くのは容易だった。そしてチャーチの真後ろでまた時空の歪みに入る。
次に出て来た場所は、チャーチの正面。
「!!!!!!!!!」
避けれない。顔面直撃を避けたいが為、身体を起こして勢いを止めようとしたが、それが悪かった。
ロストソウル………デスティニーチェーンは迷わずチャーチの身体を貫く。
「ぐはっ………………」
喉を逆流して来た血液が宙に舞う。
ロストソウルによって浄化が始まった。
「………すっかり策にハマった………わけですか………がはっ……」
摩擦されな空間の衝撃波によってチャーチの身体が粒子に還り消えた。
「…………チャーチ、安らかに眠って下さい。」
……勝負はついた。
「俺の相手が女とは。フン!舐められたモンだ。」
二メートルはある格闘家のような大男が大鎚を担いでナヘマーを見下ろしている。
「女、女と差別する男にイイ男はいないって、レリウーリア(うち)のお姉様方がおっしゃってたわ。」
覚醒中の身体に漲るオーラが自信に変わる。
「名前を聞こう。」
大鎚を地面に下ろす。その衝撃で空間が揺れる。
「普通は自分から名乗るものでしょ。別にいいけど。私は闇十字軍レリウーリアの一人、魔人ナヘマーよ。」
大男の威圧なんて気にしない。
「魔人ナヘマーか。俺の名はカデンツァ、不死鳥戦士団随一のパワーを誇る。」
−自分で言ってるし。−
心の中でナヘマーがつっこむ。
「さっさと始めましょ、今日は早く帰りたいの。」
「生意気な…………そんなに死にたいなら殺してやる!」
大鎚をナヘマー目掛けて振り下ろす。
軽快な身のこなしで避ける。
ナヘマーの避けた方にまた振り下ろす。
屈強な体つきをしてるだけあって馬鹿がつくほどデカイ大鎚を軽々とブン回してくる。
「ちょこまかちょこまかとすばしっこい小娘だ。」
大鎚での攻撃なんてそんなにバリエーションはない。だから攻撃を読む事に苦労はしないが、一発でも喰らってしまえば致命傷に成り得る。
「長引けばこっちが不利になる…………でも懐に近付いて捕まりでもしたら…………」
ナヘマーのロストソウル・オリハルコンは短剣。距離は近距離に限られる。
技を繰り出すにしてもせいぜい二発が限界だ。まだカデンツァに一撃も与えてない状況では無駄撃ちは控えたい。
「断っておくが、俺は相手が女子供でも容赦はしない。」
自信満々に言ってるが、褒められるような事ではない。
「手加減されても困るけどね。」
皮肉で返す。
レリウーリアの者達は皮肉好きが多い。ナヘマーは『お姉様』達のそういうところが好きでたまらない。
憧れの一つだろう。
「死に急ぐか………ハッ!とんだ不良娘だな、親が泣くぞ。」
「親?ハハハ。関係無いわね。とうの昔に縁を切ったわ。」
強がるそぶりは見せていない。
ナヘマーは『親』という響きがあまり好きではない。
それは年頃の少年少女達にあるような気持ちとは全く別の感情だ。
そこには重い罪がある。彼女が彼女でいる為に引き換えにした罪が。