灰色部屋
そこは薄暗い室内だった。
灰色の材質で作られた壁や天井、正方形の部屋、明かりなどないのにうっすらと周囲が分かる暗さ。その全てに見覚えがない。
はて、此処は何処だろうか、この状況は何だろうかと俺──大神宗十郎は小首を傾げた。
少なくとも目覚める前、家族と喧嘩して家を飛び出た時も酒はまだ飲んでいなかった。ならば酔っ払いの白昼夢って事はないだろう。
かと言って気を失うような目にも合っていない。轢かれかけて、間一髪で回避できたのは間違いないし、何より怒りで意識が熱を持っていて眠るなんて出来やしない。
じゃあなんだこの状況と首を傾げた時、手首に何かが巻き付いているのに気が付いた。不思議な事に、目線を向けるまで気付けなかったが、これが何ともしっかりと巻き付いていて、中々剥がれそうにない。
「なんだ、こりゃ?」
邪魔ではないが気になるし、何より目覚める前は確かに何も付けていなかったので何とも気持ち悪い。
こうなれば力付くだと歯やら指やら足やら使ってなんとか剥がせないか試行錯誤して、なんとかほどけて一安心だ。
……そう思っていたのだが。
ほどけた何かの内側、白み掛かった肌色に、くっきりと、Φに似た痣が浮かんでいた。
痛くもないし、何かを押し付けて出来たにしては色が濃い。刺青では無さそうだが、何だろう?
何となく指でなぞってみたがやはり違和感もなく、普通の肌だ。むしろなんかつるんとしてる。あら美肌。茹で玉子を撫でとるみたいや。……何してんだろう、俺。
現実逃避仕掛けたがとりあえず現状は変わらない。なので行動を起こすとしよう。
部屋であるので当然出入口があり、そこから部屋の外へと出る事も可能だろう。
そう考え、しかし流石にこの状況で警戒しない訳にもいかないとゆっくりと扉を開けて、
「………………」
静かに閉めた。
おかしいなぁ、なんか、緑色の肌をした頭から角が生えている子供達がバリボリとウサギを生で食べていた。生食は腹を壊すぞと教えた方が良いのか? いや違うだろそうじゃねぇよ。
なに、アレ?
どう見ても人じゃないんですけど。ウサギもなんか青色だったんですけど。と言うか周囲に錆びた剣とか落ちてたような?
おいおいおいおい、一昔前のファンタジー小説じゃねぇんだぞ? こちとら23歳でそう言うのからは卒業したんだよ。キレた拍子にな童心に戻っちまったか?
──誰か、この状況を説明してくれ。妄想? 現実?
「クソッ」
……もう理解することは諦めよう。理解できないのだと理解すればいい。ようするにもう何も考えたくない。
とりあえず寝よう、飛び出したの深夜だったし。
◆
目が覚めた。
そこは薄暗い室内だった。そう言えばそうだったと、一晩経ったら案外冷静に受け止められた。──現実でも妄想でも、最終的に自宅に帰らなくて住むのならいいと思ったからだろうか?
まあ、いいか。
とりあえず今はこの状況を楽しもう。夢でゲームの中にいると思えば多少は楽しく思えるし。
『第一条件【状況の許容】が確認されました──<メニュー>が開示されます』
「……は?」
機械的声が聞こえたが周囲はスピーカーらしき物はない。頭に直接響くような声だったし、本当にそうなのかもしれない。
「メニューがどうたらってのはなんだ?」
まさかとは思うが、ゲームのようにメニューが出てくるとでも?
それこそ小説じゃねぇんだぞ、あり得てたまるかよ。
「……<メニュー>」
呟いて見て、突如腕の痣が形を変えた。Φのような形から、中心の線からヒビのように線が広がったのだ。
そして、それが更に広がり、割れるかのように黒い円形に変化すると──、
「……マジかよ」
スマホだ。
円形からスマホが現れた。艶消しブラックのスマートフォンだ。……あれ、スマフォか?
画面をタッチすると、アプリは三つ。<ステータス><検索><記録>だけ。……分かりやすく分かりにくい。
とりあえず<ステータス>を押し、現れた内容は俺の情報だった。……ただし、俺が知る物とは、大きく変わっているが。
◆ステータス
<異界の><増幅能力者>大神宗十郎
肉体1/サモナー<1>
筋力5/体力7/器用72/魔力1/幸運15
固有<増幅><集束><コンバート><アルターサポート><ランクアップ>
習得<算術><飼育>
職業<召喚><契約>
──突っ込みどころしかねぇ。
職業やらはゲームチックなのでともかく、名前の横に<異界の>とはっきり書かれてるのは、やっぱり、あれなんだろうか。
夢だとするなら安心だが、現実だと頭を疑うなぁ。
「ともあれ、だ」
このみょうちきりんな状況を打開する為にまずは行動を起こすべきだろうな。……食料ないから、此処から出れないと餓死しかねないし。
……でもあの明らかな化物どうしよう?




