8 爆弾魔が生まれた日
暗い暗い闇の中。
その中で俺はひたすら耐えてきた。
暴力から耐えてきた。
悪意から耐えてきた。
理不尽から耐えてきた。
ここまで耐えた俺にもう怖いものはない……そう思った。
採掘場で他の奴隷たちが死んでも感情は沸いてこなかった。
首輪の影響もあっただろうが、それだけではなかった筈だ。
自分一人生きるのに精一杯なのだ。
自分以外は全て他人だ。
だけど……ゲイルたちと出会って初めて考えが変わった。
ゲイルたちはどう思っていたかわからないが、俺にとっては初めてできた家族だった。
いや、元の世界にも家族はいたが、あんなものとは比べるまでもなかった。
俺は一人じゃない、そう思うと闇の中に光が差し込んだ気がした。
ガタンガタン
揺れる馬車の中でゆっくりと目を開ける。
自分の手には錠がかけられ、首にはあの首輪があった。
そうだ、ここは奴隷商の馬車の中だ。
気絶している間に運び込まれたようだ。
周囲にはたくさんの亜人がいた。
中にはリザードマンの里でともに暮らしていたものもいた。
皆、一様に呆けた顔をしている。
隷属の首輪をはめられた場合、ゲイルがしたように自力で抵抗して外すしか方法はない。
他人が外そうとして外れるものではないのだ。
俺の首輪が壊れたのは正に奇跡といっても良い。
つまり、ここにいる者に未来などない。
待っているのは永遠に終わらない魔石関連の仕事か、貴族のペットとしての役割だけだ。
俺もうまく頭が回らない。
思考に霧がかけられたようだ。
頭の中を駆け巡るのはゲイルが死んだ光景と、レイナが俺をかばった瞬間だ。
ゲイルの顔には後悔の色があった。
レイナの顔には恐怖が張り付いていた。
二人は俺を助けてくれた。
俺は生き残った。
なのに、二人は死んだ。
その事実が強烈に頭を揺さぶる。
里を襲った騎士たちの姿と元の世界で俺を詰った奴らの姿が重なって見えた。
家族を失った悲しみは消え、代わりに猛烈な怒りがこみ上げてきた。
許せない。
いや…許さない。
神が許そうとも、俺が絶対に許さない。
この世界に救いはない。
それは確信だった。
ならば、壊そう。
この腐った世界を俺の手で壊してやろう。
俺の頭はどうにかなってしまったのかもしれない。
感情のメーターはとっくに振り切れている。
服の内側に隠した大きめの魔石を取り出す。
やることは単純だ。
魔石をそのまま爆弾にみたて、スキルで爆破する、それだけだ。
魔石と爆破スキルの相性は抜群だった。
その効果は数倍どころか数百倍だ。
威力が高過ぎて脱走の際にもほんの僅かしか魔力を込めなかったが、それで十分だった。
周囲に目をやり小さく"ごめん"と呟いた。
今度は全力でありったけの魔力を魔石に込める。
イメージは核爆発だ。
瞬間、世界が白に染まる。
世界に色が戻った時、残ったのは俺だけだった。
周囲には草一つ残っていない。
「ハハッ、ハハハハ、ァハハハハハハぁッ」
狂ったように笑う。
もう笑うことしかできない。
「神よ!! 無慈悲な神よ!! 見ているならば聞くが良い!! 俺はこの世界を壊す!! どんな手を使ってもだ!!」
まるでオペラのように空に向けて両手を広げる。
「俺の名は爆弾魔、ボマー!! お前の作ったこの世界を蹂躙するモノだ!!」
爆心地で泣きながら叫ぶ一匹の獣がそこにはいた。
世界の敵、災害、特S級……そう呼ばれる史上最悪の犯罪者が誕生した瞬間だった。
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名前:ボマー
種族:ヒューマン
クラス:解放者/爆弾魔
属性:火/闇
力:52
精神:666
スキル:爆破Lv7 剣術Lv2 槍術Lv2 斧術Lv1 体術Lv2
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異世界に一匹の爆弾魔が生まれました。
続きます。