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絶望と共に歩く少女  作者: 皇 欠
―幼少編―
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第5話

ロロを連れて帰った次の日、ぐっすりベットで休んだおかげか顔色も幾分良くなっている。


「おはよう。ゆっくり寝れた?」

「……うん。おはよう」


まだ寝ぼけ眼をしばしばさせているロロ。小動物チックで超可愛い。


「二人とも顔洗ってきなさ~い」


お母さんの声。ロロを連れて外の井戸に連れていく。この街は下に地下水が溜まっており水に困ることはなくまた家々それぞれに専用の井戸がありそこを利用するのが決まりになっている。


「よっと」


桶を引き上げて水を汲み上げる。ひんやり冷たい水で顔を洗う。


「ほら、ロロ。しっかりしなさい」


ポケットからハンカチを取り出して水に浸し、拭ってやる。

子供っぽくて小動物ぽくて本当に可愛い子である。


家に戻った私たちはランの家のパンを朝食にロロを連れ出して、ランの元に向かった。


「ランいる~?」

「おう。フェルじゃねぇか。ランのやつがいきなり消えたとか大騒ぎしてたんだぞ?」

「ダリ父さん。ごめんなさい心配させちゃって。でも大丈夫だからそれに新しい友達ができたんだよ」

「それが後ろの子かい?」

「ええ。名前はロロ。いい子なの。よくしてあげて」

「フェルがそこまで言うとは珍しいな」

「ふふ、そうかもしれないけどでも私の人を見る目は中々だと思うよ」

「ははは。ちげね。お~いラン。フェルが来てるぞ~」


二階からドタドタと走りまわる音が聞こえ、まだ寝巻姿のランが階段から転げ落ちそうになりながらも一階に降りてきた。


「フェルちゃ~ん!!」


その勢いそのままに私に飛びついてきた。


「心配したんだからね! 勝手に一人でいなくなるんだもん!!」

「ごめんごめん。どこも怪我してないし怖い思いもしてないから安心して」


きつく抱き締めてくるランの背中を優しく擦りながら落ち着くまで待つ。

ひくひくといまだしゃくりをあげているランを離し、朝使ったのとは別のハンカチで拭ってあげる。


「ほら、それくらいにしなさい。可愛い顔が台無しになるわよ。これあげるから泣きやみなさい」


ランの首にブルーダイヤモンドのネックレスをかけてあげる。


「昨日おいてけぼりにしたお土産よ。綺麗でしょ」

「うんとっても綺麗だよありがとう! フェルちゃん!!」

「ランが喜んでくれて私も嬉しい」


クッと後ろから服の裾を引かれた。


「ん?」


ロロが訴えかけるような眼で私の眼を見つめてくる。


「……ああそういうこと」


得心がいった私はロロの背中を押してランの前に押し出す。


「ランこの子新しい友達のロロ、きっとあなたとも仲良くなれるわよ」

「ロロちゃんか~よろしくね」


ロロに近づくラン。だがロロは逆にランから距離を取り、私の背に隠れる。


「ありゃ?」

「恥ずかしがり屋なの。気にしないで」

「ううん~これから仲良くなってくよ」


にこにこ笑顔を絶やさぬラン。本当に良い子すぎる。


「それじゃみんなで遊びに行こう!」


率先して外に飛び出していくラン。私もロロの手を引いて一緒に外に出る。


「それで今日はどこで遊ぼうか?」


ノープランだったのね……まぁランらしいけど。


「それじゃ今日は釣りにでも行く? たまにはのんびりするのもいいでしょ」

「いいね。釣り竿もってくるね」


いつもとは比べ物にならないくらい素早い動きで家に戻り、人数分の釣り竿を持って戻ってきた。


「それじゃ行きましょうか」


私たちが釣りをするときは決まったポイントがある。山に近い場所にあり水も透き通って綺麗で流れも緩く、穴場のポイントだ。


「さぁ、たくさん釣らないと今日のお昼なくなっちゃうわよ」

「もちろんだよ~」


餌はそこらへんから手に入れた虫や蟹だ。各々思い思いの場所で釣り糸を垂らす。

のんびりとした時間が流れる。

川のせせらぎと木々のせせらぎに満たされながら釣り糸を垂れるこの時間。前世では一日一日必死だったからこの時間がどれだけ至福なのか身に染みて分かる。


そして最初にヒットしたのは意外にもロロだった。


「わわ!」


驚いた声を上げ、持って行かれないように必死にしがみ付く。


「ロロ頑張って竿放しちゃ駄目だよ!」

「ロロちゃんすぐ行くから!」


私とランはすぐさま自分の竿を放り出してロロの元に駆け出す。最初に辿り着いた私が竿を支え、ランが態勢の崩れたロロを後ろから支える。


「タイミング合わせて一気に行くよ!」


竿を握る手に力を込める。


「1、2、3、ハイ!!」


グッと体そのものを後ろに倒して竿を引き上げる。同じようにランもロロの体を引っ張り三人の力で魚との綱引きに勝った。


バシャと水が跳ねる音と共に魚が姿を現し、岩場に打ち上げられる。


岩の上で跳ねる魚は結構な大物だった。


「おーいきなりこんな大物を釣り上げるなんて才能あるんじゃないかな~」


魚を取りに行ったランが両腕に抱えてロロの前に持ってくる。


「はい! ロロちゃんが取った魚だよ!」


おっかなびっくりランが差し出した魚を受け取る。


「やったね」


まだ若干放心しているロロの頭に手を置いてなでこれと撫でる。


「初めて……初めて釣りってしたけど面白いね!!」


いつもとは違うハキハキとした声で喜ぶロロ。キラキラな星のエフェクトが周りに見えるほど輝きが見える。


「さぁどんどん釣りましょう!」


名残惜しかったがロロの頭から離して自分の竿を拾って釣りを再開する。

ランも釣りに戻る。


太陽が頂点になる昼まで釣りを続けたが結局釣果はロロが釣った魚一匹だった。


「う~むどうしようか……」

「どうしようね~?」

「……みんなで分ける?」


ロロが自分の魚を差し出してくるが三人で分けてしまうと一人当たりの取り分が相当少なくなってしまう。


「仕方ないわね」


私はできるだけ尖った石を拾って構える。

狙いは水面近くにいる大きめの魚。呼吸を止めて意識を集中する。


「ふっ!」


私の両手からそれぞれ二本計四本の石を放つ。真っ直ぐ飛んだ石は魚四匹を仕留める結果になった。だがいつもと違いここは川つまり流れがあるということは……


「あっ! ラン! ロロ! 魚が流れる! 捕まえて!」


流れは緩いが確実に流れていく。私もその場から川に飛び込んだ。


(ウオレス)


ロロが手を掲げて唱えると川の流れが変わり、ロロの前の浜に私もランも魚も纏めて集められる。おまけとばかりにまだ生きたままの魚も数匹打ち上げられてるし。


「ロロ……やるならやるって言ってちょうだい……溺れるかと思ったじゃない……」


私は息も絶え絶えにロロに言ったがそれがまずかった。


「ごめ……ごめんなさい……」


瞳に涙を溜めて決壊寸前だ。やばい。これは非常にやばい。


「でもありがとう~ロロちゃんのおかげで魚がいっぱい取れたよ~」


ランが腕一杯に魚を抱えて微笑んでいる。


「……怒ってないの?」

「なんで? ロロちゃん何か悪いことした?」

「……だってロロ……二人に迷惑……かけたから……」

「迷惑なんて思ってないよ? 僕は楽しかったし。フェルちゃんは迷惑をかけられたから怒ってるわけじゃないよ」

「……え?」

「そうそう。ロロ、魔法使う時はちゃんと事前に言っといて。そうすれば対応することができるから」

「……怒ってるわけじゃないの?」

「悪いことしたなら怒るけど今は怒ってないわよ」


私は苦笑した。ロロがどうやって生きてきたかは知らないが人の態度に相当敏感なようだ。そこらへんを気をつけないとまた泣かしてしまうかもしれない。心のメモ帳に新たに書き込んでおく。


「むしろお礼を言うよ。ありがとう」

「……ロロ、魔法使って褒められたこと初めて」


頬を染めて照れるロロ。思わず私はロロを抱きしめる。


「なら思いっきり褒めてあげるわよ。あんたの魔法は凄い。もっと自分に自信持ちなさい。大丈夫ここにはあなたを理由なく怒鳴る人なんていないから」

「……本当に?」


私にも身に覚えがある。怒鳴られるということは相当の恐怖を子供に植え付けることができる。転生してもまだ夢で見るくらいに私の心に傷を残している。そこに愛があればなんて間の抜けたアホなことを言う親もいるがそれは大人の詭弁というものだ。


「ところで、さっきロロが使ったのってなに?」


ランが純粋な瞳で私とロロの顔を覗き込んでいる。


「えっと……」


私が戸惑っている間にロロが答えてしまった。


「……魔法……だよ」

「魔法!!」


あっちゃ~。私は思わず顔を覆って天を仰いだ。

ロロが魔法のことをしたっということは次言う言葉は必ず……


「僕に魔法教えて!!」


キラキラエフェクト再び。好奇心の塊であるランに魔法なんて見せたらその後はこのセリフに決まっている。


「ランそれは置いといて、先にご飯にしない? それに服も乾かさないと」

「そうだね。じゃあ薪集めてくるね」

「あっ……待って……」


立ち上がりかけたランを止めたのはロロだった。


「薪ならロロが……集めるよ」


そう言ってロロは意識を集中する。


(ウインズ)


ロロを中心に風が舞い上がり、数秒踊った後、森の中に入っていく。ロロは意識を集中したまま風を操る。

そして待つこと数分。風が薪を運んできた。


「……これだけあれば……足りるかな?」

「十分十分。それで火も魔法使うの?」

「……うん」


運ばれてきた薪を適当に組み上げた後、ロロに着火してもらう。


(ブレイズ)


焚火の中心に小さく火が灯り、周りの薪に燃え移っていく。


「おお~凄い凄い!」


ロロは褒められて嬉しいのだろう。次々に私たちに魔法を披露してくれる。

そのたびにランの瞳も煌めきを増していく。ランの喰らい付き方がいつもより激しいのが気になるが今気にしても仕方あるまい。

私は魚の腹をサッと開いて腸を掻きだし、串に刺して焚火のまわりに刺していく。


「後は火が通れば食べられるよ」

「さすがフェルちゃん上手だね」

「ランの方が料理上手でしょ」

「そうかな~」


にへら~と締りのない顔をするラン。全くどうして怒れないんだなこれが。


「さってと、そろそろ頂きましょうか」


一人一匹ずつ手に取り唱和する


「いただきます」

「「いただきます」」


三人でおいしいおいしいと言ってすべての魚を完食した。


読んでくださった方ありがとうございます。

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