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絶望と共に歩く少女  作者: 皇 欠
―幼少編―
34/59

第33話

予約をミスしてました。遅れてしまい申し訳ありません。

「ふぅ~……」


戦闘の終了にようやく安堵の息を吐く。頭蓋を貫通して脳にまで達した一撃は予想通り必殺の威力はあった。


「よっと!」


刀を引っこ抜いてジャンプ一つで穴から脱出する。なんなく脱出した私は広場の惨状を改めて認識し、トロールの規格外の膂力を痛感する。


「本当に好き勝手しやがって」


めちゃくちゃになった広場。穴が開き、めくりあがり、戦闘の激しさを物語っている。


「あんたもきちんと土葬してあげるよ」


穴の縁に手をついて力を使う。壁に使ったときと同じように複製し埋めていく。土が勝手に動いて埋める様はやっている私からしても不思議な光景だが穴を作ったときとは倍の時間をかけて穴を埋めきった。

その次は荒れきった広場を元に戻す。形を整えるだけだから簡単だ。たいした時間もかからずに土木工事を終わらせた私はこれからのことについて頭を巡らす。


「トロールは片付いたのはいいとして問題は街中に散ったゴブリンの残党よね……ん?」


広場に繋がる道から次々にゴブリンがその姿を現した。どうやらトロールとの戦闘音を聞きつけて様子を見に来たようだ。


「これはこれは……飛んで火に入る夏の虫っってやつね!」


余計な手間が省けたことを喜びつつ、私はゴブリンを滅ぼすために突貫を仕掛けた。




太陽はすでに傾き、空が黄金に染まる頃私は歩きながら安堵のため息をついた。あの後、広場にやってきたゴブリンを殲滅し、まだ残っていないかを確かめるためにざっと街中を三週は走り回った。そのおかげで一、二週目ではゴブリンを見つけたが三週目ではそのゴブリンも姿は見られなかったため、殲滅したのだと判断した。もしまだ生き残りがいたとしても一匹、二匹ならばどうすることもできないだろう。


「そうだ。お母さんたちはどうしただろう?」


私は私のことに集中していたから外の様子なんて全く気にしていなかったし、外の魔物の攻撃が街に来ることもなかったからすっかり忘れていた。

外の様子を見るために物見櫓に昇る。屋根からの視点よりもずっと高いところから壁の向こうを眺める。夕日が眩しく、見づらかったが正門の方から長い影と一緒に歩いてくる五人の姿を私は確認することができた。


「無事みたいで良かった……お父さんもいるってことは途中で合流したのかしら?」


そんな疑問はとりあえず放っておいて、迎えるために正門に急ぎ走る。正門にたどり着くとお父さんたちが丁度入ってくるところだった。


「お父さん!」


勢いよくお父さんの胸に飛び込む。


「珍しいね。フェルがこんな風に抱きついてくるなんて」

「たまにはいいでしょう?」


確かに気恥ずかしくはあるけれども今はこうしたいって思ったんだもの仕方ないじゃない。


「あらフェルったらそんなに汚れてどうしたの。それに血もついてるじゃない。おまけに怪我もしてるみたいだし」

「お母さんごめんなさい。服こんなに汚してしまって。実は……」


私は街の中にゴブリンが入り込んでいたこと。自分がそのゴブリンと戦ったことを説明した。ただトロールに関しては目撃者もいないし、死体も片付けたことから伏せておいた。


「お前いくらなんでも無茶しすぎだ! 死にたいのか!」


ダドリーさんが私を怒鳴りつける。怒られて当然だが、私には私の言い分がある。


「でも街の中に入り込んだゴブリンに対抗できる力は私しかいなかったんです。あのまま放置しては死人が出たかもしれません。死人が出るかもしれないというのに子供だからという理由で避難するなんて私にはできませんでした」

「ぐっ! 確かにお前の行動は正しいかもしれない。こうやってここにいるってことはそれだけの力もあるってことだろう。だが一歩間違えればお前がその犠牲者になっていたかもしれないんだぞ! そんなことになったらどれだけの人が悲しむと思ってるんだ! ランやロロがどれだけ泣くと思う!」

「それは!……ですがそれでも…………確かに私の行動は軽率でした。でも私が傷つくことで守れるものがあるというなら私はそれでいいです。それがいいです」

「まぁまぁ二人とも今は一仕事こなして疲れてるんだ。言い争いはまた後日にね。それにフェルの言い分もダドリー君の言い分も正しい。水かけ論になるだけだよ」


ダドリーさんとの言い合いが苛烈する前にお父さんが間に入って取り持ってくれた。正直私も熱くなってたから助かった。


「ですが!」

「もちろんフェルにはお説教をさせてもらう。全部悪いとは言わないけど無茶なことには違いないからね。でもお疲れ様フェル。今日はお母さんにいつも以上に腕を奮ってもらおうね」

「美味しいの作ってあげるわよ!」


お父さんの言葉にお母さんが胸を叩いて力強く引き受ける。


「ありがとうお父さん……」


それだけをどうにか呟いた私は目を閉じた。


「少し眠りなさい。食事ができたら起こしてあげるから」

「はい……」


張り詰めていたものが緩んで、睡魔に襲われる私。起きた私に待ち受けるのはランとロロに泣き付かれ、アレンツ父さんとダリ父さんによるダブルファザーズのお説教と大変な目にあうのだが今はただ睡魔に全てを委ね、夢の世界に旅立つ。



ここから時は加速する―――






読んでくださった方ありがとうございます。


これにて幼少編が終わり来週からは時が進んで冒険者編に突入します。


これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。

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