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絶望と共に歩く少女  作者: 皇 欠
―幼少編―
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第26話

お祭りのあとの翌日、今日の鍛錬は休みになっている。お祭りではしゃぎまくったからその疲れを癒すためだ。といっても私は朝いつものように起きてお母さんが用意してくれた朝食を頂いたあとロロが起きてくる前に家を出て、街を出る。そのまま早足で山の麓にある洞窟に向かう。

そこはロロから出会い教えてもらったあの洞窟のもう一つの出入口だ。


「さて……」


私は懐から紐を取り出し、近くの木に結びつけ、それを洞窟の入口にピンと張るように別の木に結びつけたあと石や枝で目立たないように偽装し、もう一本今度は長い紐を取り出して入口で設置した紐に結びつけ、それを壁に沿って奥に張りつつ、壁に篝火を力で作りながら奥に進む。

今日の私の目的地ロロと出会った場所まで来た。ここまで引っ張ってきた紐に小枝を結びつけて長さを調節してピンと張ってある程度の高さに結ぶ。ロロ以外この場所を知っている人間はいないが念のために誰かが来たときの備えとして鳴子を仕掛ける。


「山の方はいいかな……あそこまで行く人間は街にはいないし」


そう結論づけて私は適当なとこに腰を下ろして、今回の本題を開始する。

私は手頃な石を手にとって、昔の記憶を攫いつつ石を力で変質させる。いつものナイフとは違い今回は細かい造りの物を創るため制御が難しい。

目を閉じて余計な情報をシャットアウトして力に集中する。石の構成を分解し、分解した要素を一つ一つ変質させ、もう一度私が望むとおりに構築しなおす。ただ感覚として力を扱ってきたが、この世界に生まれなおし、力の把握をし始めてから自分の意思を介することによってやれることは増えたと思う。


「ふぅ……」


知らずうちに入っていた体の力みを抜いて手の中のそれを見る。そこには黒くて無骨な鉄の塊が握られていた。すなわち銃。詳しく言うならオートマチック式の拳銃だ。この世界には魔法があるため飛び道具の発展が遅れている。一般的なのは弓矢だ。そのためこういう飛び道具で高火力を叩きだせる銃はかなりのアドバンテージを取れると考えたためこうやって拳銃の再現に踏み切ったわけだ。だが――


「うーん……本からの知識だったけどうまくいったのかな? いやそれにしては軽い気が……」


銃口を覗き込んでみるとその原因はすぐに分かった。


「中身がないって……ただの張りぼてじゃん……」


重要な中身の機構がスカスカだった。拳銃の作成は前世でもいずれ試してみようと思い立ち、拳銃の構造も情報として頭の中に叩き込んでおいたがまだきちんと力で再現するには至らなかった。


「なにが足りないんだろうか……とりあえず次は二つでやってみるか……」


こういうときはトライ&エラーを繰り返すことによって力の精度を上げていくしかない。私の力は物質を原子単位で把握、操作、変質、結合、分離をすることが出来る。そのためこのように石を拳銃にすることも可能というわけだ。ただこの力も万能ではない。まず私の視界に入っているか、手で直接触れていなければ力を使うことが出来ない。おそらく原子を把握することが最低条件としてあり、セーフティの役割を果たしているのだろう。また力を使ってもその効果が発動するまでラグがある。簡単な物を創る程度ならそこまでの時間は使わないが、複雑な物や大きい物、また大量に変えるときなどはそれに比例して長い時間を要する。

また力には私の想像力と知識に大きく作用される。拳銃のような機構を有し、細かな調節が必要となると機構の正しい知識と、動くときの想像力が必要となる。それらがイマイチだと今回のように外側だけのハリボテや中の部品だけが創られた時もある。


「一応もっと効率のいい方法を考える必要があるかもね……この力が必要な時なんてきて欲しくはないけど」


何度も作っていく中で今度はうまくいった手ごたえがあった。手の中の重み。手の肌を刺す冷たさ。命を刈り取ることに特化した武器がそこにあった。


「ん~今度はうまくいったかな?」


試しにスライドを引いてみる。力が中できちんと機構が働いていることを教えてくれる。引いたスライドは中のスプリングによって元に戻される。次にトリガーを引いてハンマーが撃針を叩いているのも確認する。その後も細々と機構を確かめてみるが知識との齟齬もなくちゃんと動いてくれるので今度は弾倉マガジンと弾を作る。私が作ったのは前世で使われているM1911、通称コルト・ガバメントと呼ばれる銃で使われている弾は.45ACP弾と呼ばれる弾丸だ。弾の構造は拳銃とは違い簡単でこのくらいだったなら失敗する心配もなく創れてしまう。

とりあえず10発創って弾倉に込めていく。弾倉の装弾数は7発。込め終わったそれを握りグリップの中に叩き込む。スライドを引いて弾を薬室に送り込む。後はセーフティ外して引き金を引けば問題なく弾は発射されるはずだが……


「暴発とかしないわよね?」


たぶん問題ないはずだが、本の知識を元に力で作ったものだから変なところで誤作動の可能性もある。


「さてこうなると怖いぞ……」


暴発とすると拳銃が破裂すると指がもげたり、破片で大怪我したり、下手したら死ぬ可能性だってある。なにか安全に試射する方法を考えないといけない。


「えーと、紐は余ってるし長さも十分。固定させるのも力を使えばいいから。よしいけるわ」


私はガバメントの引き金に紐を結びつけ、握り手を力を使って固定、銃口は適当に壁に向ける。紐を握ったまま十分な距離を取って地面に伏せる。伏せたまま左手と右腕を使って両耳を防いだら覚悟を決めて紐を思いっきり引く。


――ダァン!


一回の破裂音とその1秒後にカランカランという乾いた音が洞窟に響き渡る。排莢された薬莢だろう。服についた土や埃を払いながら立ち上がるとそこには銃口から白煙を棚引かせるガバメントの姿。きちんと弾丸を発射したことにより自らの役目を果たしたどこか自慢しているかのような印象を受ける。壁には銃弾がめり込み、その威力を証明している。


「よし。これなら練習できるわね」


固定を解いて両手で握る。両腕を伸ばし、銃口を壁に向け引き金を引く。


――ダァン!


「ぐっ!」


発射と同時に両腕に痺れのような激痛が走る。持ち上げているが辛くなり、銃を地面に置いて両腕を摩る。


「いったー! くぅぅまだジンジンするわね。こんなに衝撃があるとは知らなかったわ。こんなことなら撃ち方のほうも調べておくべきだったわね」


壁に空いた二つの穴を見て思う。


「この力はここでは過ぎた力だ。万全を期す為とは創り出しちゃって良かったのかしら……」


無意味な自問自答だということは分かる。このまま分解して二度と創らなければこの問題には一応の解決も出来る。でも銃に頼ればこっちの力を使わなくても済むことがあるかもしれない……


「結局は堂々巡りってことよね……よしっとりあえずは使いこなさないことにはどうしようもないわ」


再び拳銃を握り構える。


「残り8発は撃ち切って見せる!」


その言葉と共に引き金を引いた。


読んでくださった方ありがとうございます。

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