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絶望と共に歩く少女  作者: 皇 欠
―幼少編―
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第1話

いきなり成長してます。

 フェル・マーゼル。それが私が二度目の生で与えられた名だった。

私は確かにあの事故によって死んだはずだが次に目が覚めた時には赤ん坊になっており、意思は私のままだけど体はこのフェルのものだった。いや魂は私なのだからフェルも私だと考えた方が良いのか……。


まぁとりあえず何の因果かは知らないが私は二度目の生を受け、六年間生きてきた。前世で受けれなかった親の愛を存分に注いでもらって今に至る。

だけど神様は前世の魂と共に厄介な物をこの体に宿していた。前世の時に持っていた能力を更に強力にしたものがこの体には宿っている。発覚して両親や他の人々に恐れられないように人がいない時でしか使用していないがそれでも前世の時よりも力が強くなっている事は分かる。


この力があったから辛かったというのに……とにかく私は同じ過ちを二度も繰り返さないためにこの力を誰にも明かしてはいない。嫌……誰にも知られる訳にはいかなかった。知られればまた怖がられ人はまた距離を置く。同じ過ちは繰り返さない。自己暗示のようにそう心中で繰り返す私、そんな私にかけられる声。


「フェルちゃ~ん何してるの~行くよ~」


間延びした声。物見櫓から遠くを見ていた視線を下に向けると梯子の下で懸命に手を振っている一人の男の子。人懐っこい笑みを浮かべて、一生懸命に体全体で手を振っている。私は落下防止の柵を飛び越えそのまま10メートルの自由落下して少年の前に降り立つ。


「そこまで必死にしなくても大丈夫よラン。ちゃんと聞こえてるし、見えてるから」


少年の名前はランフォルト・ノディア。愛称はラン。家が御隣同士で同い年幼馴染だ。


「そう? でももしフェルちゃんが気付かなくって遅れたら嫌だから僕は一生懸命に呼ぶよ?」


小首を傾げながらそう言う可愛いラン。ランは女の子と変わらない程可愛い顔立ちをしている。つぶらで大きな蒼い瞳、肩まで伸ばした同色の髪、背丈も私よりも低く、小動物を連想させる一つ一つの仕草。ものすごく母性本能をくすぐられる。


対して私は切れ長の灰色の鋭い目つきと無造作に腰まで伸ばし、黒がちょっと強めの灰色の髪というさえない姿だ。そこまで自分の容姿には興味はないが身近にこれだけ女の子っぽい男の子がいると考えなくてもいい事を考えてしまう。


「みゅ? 僕の顔に何かついてるかな?」


いつの間にかランの顔を凝視していたみたいだ。私は平常心と自分の心に言い聞かせ答える。


「ううん。なんでもない」


「そう? ならいいや」


この子は人を疑う事を知らない。だから彼だけは心を許せる。許せてしまう。いずれ彼が疑う事を知っても彼だけとは離れたくないと思うのは私の勝手な願いなのだけど。


会話もなく黙々と歩いている内に目的の場所に辿り着く。その場所は教会だ。日曜学校といって週に何回か教会で開かれる学校の事だ。毎日ではないという事以外は前世の学校と大差はない。

私も最初通っていた内は前世で通えなかった分学校が楽しみだった。だけど私はこの世界でも異質だったようだ。まずは見た目。灰色の髪と目はこの世界では珍しく、私が生まれた時色々と騒がしかった。曰く「こんな色の子は見た事ない不吉な事が起きるのではないか」曰く「まさかこの子供が将来街に災厄をもたらすのではないか」などなど。好き勝手に行ってくれたものだ。だがそれを庇ってくれたのが現在の私の両親クラウス・マーゼンとアンナ・マーゼンだ。彼らは周囲の反対を言葉と行動で豪快に押し返し、私を育てる事を周囲に納得させた。その愛は変わらず今も過剰なほどに愛してくれているし、私も両親を愛している。


そしてもう一つが、

「フェルさんこの問題を解いてみなさい」

「はい」

日曜学校の先生が黒板に問題を書き、それを生徒が答える。

この世界の学力は歴史や地理は政治体系はもちろん違うが、世界の成り立ちは一部を除いてほとんど一緒で元素で構成されている。その一部とはマナと呼ばれる自然エネルギーだ。マナを体の中に取りこみ循環、昇華して魔力とする才能を持ち、魔法を扱える者を魔術師と呼ぶそうだ。残念ながらこの6年間魔術師を見た事は一度もない。ぜひ一度見てみたいとは思うのだが。

また言語もなぜか日本語が共通言語となっており、新たに未知の言語を覚えるという苦労をしないで済んだ。

とりあえず先生に出された数式の横にサクサクと答えを記述して席に戻る。先生はなぜか私を醜い物を見る様な視線を向けてくるが、私が一瞥をくれてやるとさっと視線を外す。全くそんな勇気もないのにプライドだけは人並み以上なのだから。おっと話が逸れた要するに私が優秀すぎて疎まれているのだ。生まれ変わった私は覚えようと意識していると見聞きしたことを全て覚えていられる完全記憶能力を新たに得ていた。非常に便利な能力で4歳の内に両親に見つからないように家の本を全て読みつくしてしまったため学校で習う事はこれをなぞっている事にしかならないのだ。だから授業中は出来る限り真面目に受けているつもりなのだがちょっと退屈しているのがバレているようなのだ。それで先生が頻繁に私に当ててくるのだがそれを易々と回避するのが面白くなく疎んでいるみたいなのだ。先生がそういう態度を隠そうとしないから、他の子供にも伝染しているのだ。それでも唯一の救いはランがいてくれることだ。


「やっぱ凄いね~さすがフェルちゃんだよ~」


やばい超可愛い。人目がなければ頭を抱いてグリグリしたい。と意識をどこかに飛ばしている内に正午の鐘が鳴り響き今日の授業が終わった事を告げる。先生はさっさと教室を後にして、私は黒板を一度見て、全ての問題に目を通し、間違いを探す。いくつかの間違いを見つけたので席を立って今だ席に付いているランにこことこことここ答えはこっちだからと教えておく。


「おい、フェルなにしてんだ?」


いつものダミ声。若干イラつきながら振り返るとそこにはやっぱり少し太り気味な体の上に弛んだ顔をくっつけた可愛さもカッコよさもないただの肉塊がそこにはいた。


「何の用? ドータ。私はあなたの醜い姿を視界に入れたくないのだけれど?」


ドータの姿を出来る限り視界の隅に追いやりながら(中心はもちろんラン)応対してやる。


「お前勝手に先生の答え書き換えんなよ。俺もまだ答え覚えてなかったんだから」

「あらそれは良かったじゃない。こっちの方が正解よ」

「そういって実はお前の方が間違えてるなんてことはないよな」

「あんなのの言う事を素直に聞いてるなんてホントバカねあなたって。バカなドータあんたみたいなのは街道にでも出て道化にでもなってなさい。きっと滑稽でお似合いよ」


一気に罵詈雑言でまくしたて最後に鼻で笑ってやる。


するとドータは予想通りに顔を真赤にして激昂し、私に殴りかかってきた。


「てめぇ人をこけにするのもいい加減にしろよ!」


その鈍重の体から放たれる威力も速度も乗っていないパンチをなんなく躱しその鳩尾に肘鉄を打ち込む。苦悶の声と共に前かがみになり狙いやすくなった醜くぶよぶよの顎を掌底でカチ上げ、肘鉄を打ち込んだ後すぐさま引いて溜めておいた拳で腹を深々と貫く。


「ゴホッ」


そのままドータは数歩後ろに机と椅子を巻き込みながら壁を背にして崩れ落ちた。


「ふぅ……あーすっきりした」


このドータ何度あしらっても懲りずに向かいそして簡単に挑発に乗ってくれるので良いストレス発散の道具として重宝している。


「何事だ!」


ドアを叩きつけるように開いて先生が教室に戻ってきた。騒ぎを聞きつけて来たのだろう。中の様子を一瞥してすぐに私の目の前まで来てその汚らしい口を大きく開けて怒鳴ってきた。


「またお前か! 何度叱っても反省の色が無いと思ったら! お前今日は片づけが終わるまで家に帰る事は許さないからな!」


それだけ言い残しドータを肩に担いで教室を出て行った。


「さてさっさと終わらして帰るとするか」

「手伝うよ~」


教室の黒板の前で真剣ににらめっこしていたランが倒れた机を起こしていた。


「いつものことだけどフェルちゃんはドータ君と仲いいね~」


あ~脳内お花畑(別にバカにしている訳ではない、決して)のランと話すのは癒されるな~。


のんびりとランが机を整えている間に私はきびきび動いて全ての机と椅子を片付けてランと一緒に教会からおさらばする。


「それじゃフェルちゃん僕はこれから家の手伝いがあるから~」

「うん。それじゃあねラン。用事が済んだらそっちに寄るから」


ランの家はパン屋を営んでいる。この小さい街では唯一のパン屋だ。そしてノディア家のメンバーは皆ランのように優しい。ランがこんな性格なのは家の伝統だと言える。だからこそ私もノディア家の人達は信頼している。また街全員がパンを買いに来る為、自然と情報も集まる。その情報を聞きに行くのもすでに習慣となっている。


さてそれじゃ今日も一日頑張るとしますか。



如何でしたでしょうか?


読んでくださった方ありがとうございます。

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