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絶望と共に歩く少女  作者: 皇 欠
―幼少編―
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第16話

「ハァ……ハァ……ハァ……」


 日はすでに暮れ私はまだミェルさんのトリックを見破れずにいた。


「さて今日はこれくらいにしましょうか。フェルも息上がってるし」

「ハァ……ハァ……ありがとうございました」


 膝に手をついて息を整える。結局終始殴られるだけで終わりミェルさんのあの動きの取っ掛かりすら掴めないままだ。


「ま、そんな簡単に見破られたらあたしの立つ瀬がないからね。良かったフェル鋭いからすぐに見破られたらどうしようかこっちもひやひやだったのよ内心」

「本当ですか?」


 私は訝しげにミェルさんを睨め上げる。


「本当本当。それに向こうもようやく終わったみたいだよ」


 ミェルさんがそちらを指さすと疲弊した様子のランとロロが歩いてくる。二人ともフラフラだ。二人の修行もなかなかにハードだったと見受けられる。


「大丈夫二人とも。フラフラだけど」

「うん……腕がもう上がらないよ……」

「……ロロも……魔力空っぽ……」

「いや~すまんすまん。こいつら鍛えがいがあってな。ついつい熱が入ってしまった」

「私もよ。ロロあなた筋がいいわ。すぐに私を追い越す精霊術師になれるわよ」

「……ありがとうございます……でももう少し手加減してくださると嬉しいです……」

「それは無理な相談ね。これからも厳しくビシビシ行くわよ!」

「…………フェル助けて……」

「頑張りなさいロロ!」


 ロロには悪いがシスティさんの修行は将来必ず役に立つ。ここは突き放すのがロロのためよ。


「……ひどい……フェル……」


 寂しそうにこちらを見つめるロロ。そっとロロから視界を外してランの腕を取ってその二の腕を優しくマッサージする。もみもみと入念に掌全体を使ってランを労わる。


「全く最初から張り切り過ぎよ。体に無理がかかってるじゃない。ダドリーさんもランは全く鍛えてもない素人なんですから」

「だからすまないってだが、さっきも言ったがランが思ったより鍛えがいがあってなこっちもつい力を入れちまった」

「ダドリーさんみたいな剣士になれますか!?」


 復活したランの瞳が異様な輝きを見せる。


「おう。いずれ俺を超えるくらいの気概でやってもらわなきゃ困るからな」


 嬉しそうに笑うダドリーさん。その顔は本当の息子に向けるように穏やかだ。ランみたいないい子が息子になってくれたらどんな人でも嬉しいだろうけど。


「そんじゃそろそろ戻るとしようか。アンナが夕飯作ってくれているはずだぜ」

「僕のお母さんも今フェルちゃん家でご飯作ってくれてるはずだよ」

「リサーナ母さんが? なんで?」

「人が多くなったから食事作る手が足りないんだって。だから僕の家とフェルちゃんの家で一緒に食事すれば食材も手間も減るって言ってた」

「ああなるほど。確かに一気に4人も食いぶちが増えたからね」


 ロロ、ダドリーさん、ミェルさん、システィさん。ダドリーさんは人の2倍、3倍は食べそうだしお母さん達の仕事は一気に増えただろうし、うん手伝えることは手伝って上げないと。


「おいおいその言い方だと俺たちが役立たずっていいたそうだな」


 ダドリーさんが私の方を振り向いて人の悪い笑みを浮かべる。絶対そういう意味で言ったわけじゃないの分かって言ってきてるね。


「大人がいたいけな子供の上げ足を取って面白いですか?」


 私が極上の笑みを浮かべて言い返してあげるとまずいという顔になる。


「いやいやお前を子供と認めてしまったら世の中のほとんどの大人を子供と呼ばなきゃならなくなっちまうじゃねえか。下手したら俺も子供に分けられるかもしれないからな」


「ダドリーは子供っぽいからね」


「そうね。フェルと比べるとそう思ってしまうわね」

「おいおいそれはないだろう。お前らだってフェルと比べたらお子ちゃまじゃないか。正直フェルみたいなガキ初めて見たぜ。ストリートチルドレンでもこいつくらいの鋭さを持ってる奴なんてそうはいないぜ」

「うわー私散々な言われ方ですね。そんなに異端ですか私」


 本人が隣にいるっていうのに好き放題に言うダドリーさんを殴りたくなるのをどうにか我慢してそれだけ言ってやった。


「いや~……あの二人から生まれたフェルならそれでもまだ足りない気がする……」

「そうね~……懐かしいわ……」


 ミェルさんとシスティさんが遠い目をしてる。今日にでも二人から詳細に昔の話を聞き出す必要がある気がする。


「というかダドリーさん達にお聞きします。昔の二人ってどういう人でしたか?」


 その瞬間時が止まった音がした。―――気がした。

 完全にその活動を止めた3人。まずいことを言ったかしら。と思ったら3人同時に体が震え始めた。


「アレンツさん……すいません……これ以上は……もう体が動きません……」

「……しっかりして……ダドリー……そして私の代りを……ちょアレンツさんそんなつもりは……えっそれはひどい!……」

「アンリさん……これ以上は魔力が……えっ絞り出せ?……無理です……そんな……」


 やばい。地雷を踏んだどころか踏み抜いて連鎖反応起こしちゃったみたいだ。うーんそんな気はしてたんだけどここまでひどいとは思わなかった。予想外ね。3人に両親の話はNGだね。


「……どうする? システィさん達これじゃ動けないよ?」

「ロロ“炎″で大きな音出してくれない?」

「……?」


 小首を傾げるが言うとおりに魔力から魔法を発動してくれる。


―――パァン


 銃声に似た音が響くその音と共に3人は即座に武器を取り戦闘態勢を取った。


「敵か!?」

「分からない!」

「精霊に探させます!」

「さすが冒険者ですね。緊急事態に対しても素早い対応ですね」


 彼らのその素早い反応はそれだけの場数を踏んでいることが窺える。


「敵の反応ありません。どういうことでしょう?」

「御三方……両親の話で動揺していたとはいえ動転しすぎではないですか?」


 私が声をかけると3人はポカンとした顔で私に視線を合わせる。


「おろ? フェル敵はどうした?」

「ダドリーさんなんて間抜けな声出してるんですか?」

「えっ!? あれ?……いやぁーなるほどそういうことか……助かった」


 地面に焦げた跡を確認したダドリーさんはなにがあったのか理解したようだ。


「私はもう3人の過去、特に両親に関することはもう聞きません。どうやらあなたたちにとって触れられるとまずい話みたいですしね」

「あーそしてくれると助かる。できるなら俺もそいつらも思い出したくないんでな」

「興味は尽きないのですが毎回行動不能になられるのはこちらも手間ですのでね」

 苦笑いを浮かべる3人だがその笑みにはどこか安堵した表情も窺える。

「ほんとなにをしたのでしょうあの二人は?」



読んでくださった方ありがとうございます。

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