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収束


 「申し訳ありませんでした。」

 「すみません。」


 おっさん達は再び、先ほどのコーヒー店に戻ってきた。今度は男も一緒に・・・。


 「謝って済めばケーサツいらねぇんだよ!・・・あーあ、服にも血がついちまったじゃねぇか。」

 男はカフェラテをすすり、向かいで小さくなっているおっさんを一瞥する。

散々その背に聞いてきた声は、こうして向かい合っていても大きく野太い。おまけに大柄で筋肉質な体格、スキンヘッドと言っても良いくらいの短髪。それにしては、着ている服が不釣り合いなほどチャッキリしていて、その違和感が余計に恐ろしい威圧感を醸し出していた。


 「そうは言うけどさぁ~。」


 いつもの調子良さを取り戻したのか、おっさんの横に座っていた少年が至って軽い口調で口を挟む。


 「いきなりすっごい顔で追いかけてくるから、危険を感じて逃げるんだろ?あんた怖えぇもん。最初に穏やかな対応していればこんな事にならなかったんじゃないの。」

 「オレのせいだって言うのか、ぁあ?」

 「実際そうじゃねーか。」

 「なんだと、このガキ、口の利き方教えてやろうか。」

 なんでこの子は、こんな怖い人と普通に話が出来るのだろう?


 その時、どこか近くから電子音が聞こえてきた。男が慌ててポケットをまさぐる。

 『ああやってポケット入れてさー、鞄を持ち歩かないから、指輪も無くすんだよな。』少年がおっさんに耳打ちした。

 『君だって持ってないじゃないか。』

 『オレは大事なものは雑な扱いしないもんねー。』

 『・・・さっきのあの剛速球は雑に入らないの?』

 苦笑混じりのおっさんのツッコミに、少年が答えようとしたその時、男が突然椅子を蹴って立ち上がった。店内がシンと静まりかえり、いらついている男の声がさらに大きく響く。


 「いや、だから、おっさん追いかけてよ、大変だったんだよ。は?嘘じゃねーよ!今ぁ?いけるわけねぇだろ、血がついてんだから・・・え?病院じゃねぇ、コーヒー飲んでる。・・・違げぇよ、休んでるだけだけだって・・そうじゃねぇ、あー、もう、いいから待てって!!」


 男はどんどんヒートアップしていく。多分、もともと筋道立てて話すのは苦手なのだろう。短い言葉ですまそうとするから、相手に困惑と誤解を与えてしまうのだ。電話の相手も怒っているのだろう、向かい側に座っているおっさんにも、女性とおぼしき声が聞こえてくる。


 ああ、これはもうダメだな。

そう思った瞬間、ふっと指輪の事が頭をよぎった。

 順調にいけば、この人も今頃恋人とデートだったはず。それが、自分のせいで?


 …。


 おっさんは、小声で「私が説明しますよ。」といいながら、頭に血が上っている男の手から電話をすっと抜き取った。思わぬ展開に口をパクパクさせている男を横目に、おっさんは“企業戦士”モードに入る・・・!


 「あ、突然申し訳ありません。実は、私がぶつかった拍子に、この方の服を駄目にしてしまいまして・・・ええ、はい、そうなんです。非常に申し訳ないです。大事なお約束だったのでしょう?それでですね、今、新しい服を弁償して、彼を元のかっこいい状態に戻しますので、もう少々お待ちいただけませんか?まったく私の不注意で、彼女さんにまでご迷惑をおかけして・・・いえいえ、とんでもない。はい、ああ、お待ちいただける。それは私としても助かります。いえいえ、ありがとうございます。」


 それは流れるような口調で、自信のなさを微塵も感じさせない、しかも声だけ聞くとナイスミドルのような紳士を連想させる話し方であった。だてに何十年も会社員はやってない。


 ピッと電話を切ると同時に、緊張した面持ちでおっさんを見つめていた2人が肩の力を抜き、なんとなく聞き耳を立てていた店内がほっとした空気になり、そしてワンテンポ遅れて少年が声を出す。


 「すっげー。普通のおっさんみてー。」

 「・・・アイツ何て言ってた?」

 「30分ぐらい、どこかで時間つぶしているからとのことでした。」

 おっさんは、携帯電話を返した。男はもごもご言いながらそれを受け取る。

 「それにしても、さっきからのビビリ具合とはえらい違いだったなー。さすが大人、すっげー。」

 「そりゃ社会人だからね。このぐらいの対応は普通だよ。」


 「その普通の対応を、最初に発揮しろよ・・・。」

 男はまだ口の中でブツブツいっていたが、

「・・・で、どこで買えばいいんだろう?服なんてこの辺で買ったことないよ・・・。」

 と呟くおっさんの言葉に、片眉を上げてニヤリとした。


 「はぁーん、本当に弁償してくれんのか。」

 「おい、ブランド物とか、たかるなよ。この人貧しいんだからな。」

 「当たり前だろ。金持ってなさそうなのは見りゃわかるってーの。」

 「はぁ・・・そんなに俺、貧乏くさいかな・・・。」

 この中で一番年配なのに。おっさんは少し自分がいたたまれなくなって、カップ一杯の水をすするのであった。




 30分後…


 「へぇ・・・いいじゃない。いつもより何か大人っぽい感じ。」

 待ち合わせ場所に現れた彼女が男の姿を見て、感心したように頷いた。

男は最初に着ていた細身のキッチリ系の服ではなく、筋肉質な体のラインを隠すゆったりめのジャケットを購入してもらった。しかも高そうな素材の。

 お金を出すのだから、安くて1年しか着れないものは絶対に買いたくない!とおっさんがごねた結果である。


 おっさんは、男の彼女に何回も謝罪をし、そうして仲良く立ち去る2人を見送った。どこにでもいる、楽しそうなカップル・・・きっと、デートの終盤にでも、あの無造作にポケットに突っ込んでいる“指輪”が登場するに違いない。危なくその縁を壊してしまうところだったけれど、間違いなくおっさんはそんな人生の一大事の日に立ち会ったのだ。


 「これで解決、だな。」

 少年は、すっかり感慨深く見入っているおっさんに向かって、宣言した。

 「よかった・・・。あの2人幸せになるといいな。」

 「ホントだよ、ったく。」


 おっさんはふと腕時計を見た。11時。まだお昼にもなっていない。今日は約1時間半の間に色々なことがあったものだ。

 何が何だか理解できないまま勢い任せで解決したけれど、今こうして思い返しても訳が分からない。もしこれがゲームだったら、適当なイベント作るなってところだろうか。


 それでも、おっさんは何故か充実感を覚えていた。心の底から焦ったり安心したり恐怖したり・・・それに普段絶対に関わる事のない人々と話したり一緒にコーヒー飲んだり!


 「じゃ、おっさん行こう。」

 「え?」

 「え?じゃねーよ。電器屋、電器屋!!オレだけじゃ、どのソフト揃えりゃいいかわからないからなー。教えてくれるって言ったろ。」

 「ああ、そうだった。」


 おっさん達は、一層人出が多くなった地下街を通り、近くの電器店へと足を向けた。

まだまだ、一日は始まったばかり・・・。



お読みくださりありがとうございました。


服弁償の話でひと悶着あったのですが、長くなったので切りました。

・・・最後がそっけなくなってしまったので、省略がよかったのかどうかわかりません。

もっと上手く書けるようになったら、修正しようかと思います。

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