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箱の困惑


 「おっさぁーん。」

 「いや、知らない知らない!俺じゃないよ、盗ってない!」


 少年の半分呆れる様な、からかう様な口調に、おっさんは必死で否定した。

『買ってない』でなく『盗ってない』になるところが、縁のなさを表しているようで悲しい・・・。


 「あ、でもガラスかも。だってこんな箱丸出しで持ち歩くもんでもないだろ。もう一回よく見てみようぜ・・・。それにリングの裏とかに名前を彫っている人もいるらしいしさ。誰のかわかるだろ?」

 「うわぁ、だめだって、触ったら指紋つくっ!指紋!」

 「いーじゃねーか、ついたって!もう、わかったよ。開けません。これでいいだろ?落ち着けおっさん。」


 口を尖らせて、少年は箱をテーブルの真ん中にポンっと置いた。よくある定番の、紺色でフェルト素材の箱。本来なら、希望や愛や感謝に満ちた目で見られるべき物なのだろうが、明らかに迷惑と驚愕と困惑で見つめられるこの状況。箱も想像もしなかったに違いない。


 店内にはゆったりしたクラッシックが流れ、客は本を読んだり、外を眺めたりと思い思いに過ごしている。彼らには関係がないのだ、もちろん。


しばらくして、おっさんが、恐る恐る思い浮かんだことを口にした。

 「・・・もしかして、コレ、あの追いかけてきた男の人のかな・・・?」


 「・・・それしかねぇだろうなぁー。何でかわからんけど、おっさんの袋の中に落ちたんだよ。」

 少年は苦い顔をしている。

 「返さないと・・・まずいよね、やっぱり。」

 「そりゃぁ、大マズだろうなぁー。」

 「・・・・・ぅ、せっかく助かったと思ったのに・・・そんな・・・。」

 リラックスしていた気分が一気に大暴落してしまった。またあの大男と係わらなければならないなんて。おっさんは頭を抱えてうめき声をあげた。胃が痛い…。


 「駄目だな~、大人のくせに。これがオレだったら絶対逃げないね、だって悪いことしてねーもん。いいよ、もし出会ったらオレがさらっと渡してやるよ。」

 「じゃ、遠慮なく。」

 すっと箱を少年の方へ押しやる。あまりにもあっさりした行動に、少年はさすがに苦笑した。

 「・・・ちょっとは後ろめたさを感じてもいいんだぜ?」

 「でも、どうやって探そうか?あの人に会えなかったら?」

 別に遭いたくもないが、だからといって指輪の処理も困る。

 「そもそも、どこで追いかけられたんだ?オレがおっさん見たときは地下街だったけど。」

 「JR駅抜けたあたりかな・・・。地下鉄まで行く途中だったんだよ。」


 JRと地下鉄は、地下の連絡通路でつながっており、丁度その中間地点に地下街がある。これがまた、様々なテナントが広範囲にわたって繋がっているため、一日太陽の光を見ずに楽しむことも不可能ではない。

 それに用事がなくても、信号のある地上を歩くより快適なので、おっさんもよく利用していたのだった。


 「うーん、じゃあ、会わなかったら、駅の落とし物センターに届ければいいじゃん。・・・ていうか、探し回るよりも、最初っからそっちに行った方が早いや。」

 「おおー。それだ、頭良い!」

 もはやどっちが年上なのだか分かったものじゃない。でも、相手が誰であろうと関係なく意見を受け入れていけるのも、おっさんの長所の一つ。・・・受け入れるというか頼り切っているだけかもしれないけど。


 5分後・・・

 おっさんと少年は、地下街を通り駅に向かって歩いていた。

さすがに休日、様々な人が縦横無尽に行き交い、押しつ押されつしながらモゴモゴと進んでいく。

先ほどの逃走劇の時よりも、更に混雑しているようだ。


 「悪いね、付き合わせちゃって・・・。」

 「気にスンナって。大体、おっさんだけじゃ頼りねぇーもんなー。」

 「さすがに、落とし物センター行くぐらいはできるよ。誰に追われる訳でも無し。」

 「フラグたてんな~フラグ~。」

 軽口をたたきながら、2人は次第に姿を現してくるセンターへのんびり歩いて行く。

これで今日の「おかしな」問題も解決である。思いの外、大冒険をしてしまったし今日の所はゲームしないで増設だけにしておこうかな・・・。


 と、向こうから何か見覚えのある人物が歩いてくるのが見えた。

どうやら天井付近の案内板を確認しながら歩いているらしい。おっさんは何となく嫌な予感がした・・・。

背は高く、体格も良く・・・その人物は視線を前に向ける。その顔は・・・。


 「あ。」

 「あ。」

 「あ。」


 異口同音。


 さっき、おっさんを追いかけ回していた男だ!!!!


 思わぬところで出くわして、硬直しているおっさんの目の前で、先に我に返った男が、ゆっくり口を開く。


 「 お ま え ら ぁあああああ!!」 


 「○△×★□―?!!!」


 声にならない悲鳴をあげ、2人は全速力で今来た道を突っ走った!

後ろのほうで、恐ろしい怒鳴り声が追いかけてくる。


 「ちょ、自分なら逃げないって言ってたじゃないか!」

 「撤回っ。すげぇ迫力!怖ぇ、無理っ!」


 ウサギが、キツネに追われる気持ちってこんな感じなのだろうか・・・??ぐんぐん迫ってくる背後の恐ろしい威圧感と殺気をひしひしと感じ、ただ逃げる、という本能に従って足を動かす。

話?・・・無理だ。足を止めてにこやかに振り返ったところで、即座に「顔面めり込みパンチ」を頂戴するのがオチだ。

 とはいえ、このままでは埒があかない。どうすればいいか考えを巡らせていると、少年がおっさんの目の前に手を突き出して叫んだ。


 「おっさん、指輪!」

 「も、持ってないっ!持ってるの君だろっ!!」

 「!」

 少年はゴソゴソとポケットを探し、箱を見つけ出す。

 「投げるぞっ!!」


 え、投げるの?!


 男はすごい形相でこちらにせまってくる。少年は急に足を止め、振り返りざまに思いっきり箱を投げた。その動作と被さるようにおっさんが声を上げる。

 「本当にすみません!気づきませんでした!」

 男はおっさん達から飛んでくる箱へと注意を移し、近づきつつあるソレへ向かって手を伸ばす。


 やった、これで解決した!!



が・・・


 箱はその手をすりぬけ、男の顔にガアンとぶつかった。

何が起きたのかわからない、といった表情の彼の鼻からは、赤い赤い血がダラダラと流れ出ている。よろめく男、地面に落ちる指輪の箱、静まりかえる周囲。


あまりのことに、2人は逃げることも忘れ呆然と立ち尽くしていた・・・。



お読みいただきありがとうございます。


…文体が変わっている気がする。

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