貸出カード
掲載日:2026/11/05
弟は、同じ絵本ばかり借りてきた。
恐竜が卵から生まれて、大きくなって、また卵を産むだけの話だ。
「またそれかよ」と俺は毎回言った。
弟は毎回、「うん」と言った。
弟が入院してからは、俺が代わりに借りに行った。
病院の帰りに返して、次のときにまた借りた。
一度だけ、別の本を持っていったことがある。
弟は表紙を見て、「うん」と言った。それから、ちょっと残念そうな顔をした。
次からは、また恐竜にした。
弟は、その冬に死んだ。
それから、図書館には行っていない。
この前、娘を連れて、二十年ぶりに行った。
絵本の棚に、まだあった。
裏表紙のポケットに、昔のままの貸出カードが差さっていた。
弟の名前が、上から下まで、ずっと並んでいた。
途中から、字が俺のになっていた。
最後の一行だけ、また弟の字だった。
日付は、弟が一日だけ家に帰ってきた日だった。
気づくと娘がそばにいて、貸出カードのない恐竜の絵本を読んでいた。
「それ、好きか」と聞いた。
娘は「うん」と言った。




