レニの歌
仕事だからやってるだけ。
ブルーとイエローを基調としたステーションのライトアップ。
白色矮星のように明滅する居住エリア民家の灯り。
磁気ロードの真っ赤なテールランプ。
風はない。エアーは最適に保たれている。
それさえ除けば、ムーンバレー高層エリアは絶景だ。
この仕事のいいところは、誰よりも高い場所に立てること。物理的にね。
私はジャケットの上から、左胸に手を当てる。
うん。ちゃんとある。
鼓動も。武器も。理論武装も。
突入に7発。それだけ。
私の命はそれだけだ。
仕事だからやってるだけ。
Pipipipipi….
“Hi.”
“It’s time.”
“Got it.”
“Do a good job, Leni.”
Pi.
「誰に言ってるのさ」
床を蹴る。手摺を飛び越え、ワイヤーが踊る。
タイムリープのような落下感。浮遊の刹那に聞こえるのは。
聞いたことのない風の音。
強化ガラスは既に破壊されている。私はそこに転がり込む。
跳躍。
扉に1発。
脅しに3発。
ラッキー。当たった。武器排除。
銃口を額へ。
Bang.
Hum.
“Job done.”
“Retreat.”
Pi.
エマージェンシーが鳴り響く。
あと2発では心許ない。
「補充を……」
その時、それが動いた。
"Don’t move.”
照準の先には女。
では、なかった。
「宝石女か」
高級品だ。こんなに近くで初めて見る。
「あ、弾の補充……」
滑らかに光沢を放つ銅のボディ。
瞳と髪は黒水晶。
装填。これでよし。
“A song for you.”
「へ?」
アルミニウムのスタンドマイクがモザイク状に光を放つ。
赤銅色のボディが微細に震え出す。
「え?まじ?」
無音のエコー。
プリズムは音。
半月に開くカッパーリップ。
なるほど、そうか。だから銅。
"ーーーーーー"
アンプだ。
「そりゃそうだ」
ウォーターを飲み独りごち、パントリーの棚を物色。ビスケットとチョコレートがある。
「歩行機能は必要ないもんな」
ピリ、と封を開け、四角い形のビスケットを齧る。口の中の水分が凄まじい勢いで奪われた。
2本目のウォーターを取り出す。バニラ・フレーバー。甘すぎるけど、今夜はこのくらいがいい。
「ほんとーに重かった。根本的に家具なんだね」
視線をダイニングに向ける。月面都市第一層の安アパート、1DKのすみっこ。
ジュエレッタは直立したまま微笑んだ。この部屋には、椅子が1脚しかないのだ。
「Tacit understandingとして、金目の物を持ち帰っていいことになってるけど」
私はデータベースをウォッチで表示し、宝石女を改めて検分する。
Product Name: Morion Girl
Flavor: Passion and Rich
Polishing form: Full-bodied
Emotion Content: 53%
Raw Ingredients: Brass and Morion
Voice tone: Alto
Category: Sing
Serving Suggestion:
Room Temperature in the luxury night.
Price: 280 Monica
「えーっと、ざっと2800万yen?」
モリオンガールは殺風景な部屋の隅できらきらしく佇んでいる。
「あんた、いくらなんでも高すぎるしさ。バレたらやばいかな?」
上向きのランドルト環みたいな口が、光学パネルの微かな光をピンクネオンに照り返す。
この女は、歌う。
それだけだ。歌うことしかしない。
"Same here. "
あんたは歌う。私は撃つ。
それって、何か違うかな?
「ねえ、歌ってくれる?さっきみたいなサイレンじゃなく、オルゴールみたいな感じで」
モリオンガールはこくりと頷き、お代わりのハンドサインをした。
「あ、だから歌ったの?あの時」
私は可笑しくなって笑った。声を出して笑うのって久しぶりかも。
"Refill please, モリー."
クリスタルのマイクは置いてきた。
モリーは見えないマイクのスイッチを押す。
波長が変わった。境界が溶ける。
"Sweet dreams. Leni"
Lullaby.
レニ
年齢 17歳
誕生日 5月1日
身長 161cm
体重 52kg
足のサイズ 24cm
髪色 オレンジがかった金髪
瞳 菫色
好物 フレーバーウォーター
(マスカット、洋梨は常にストック)
苦手 缶詰の合成肉
(パッキングのものはOK)




