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第1話:新しい制服と、リズムを失った鼓動

スズメのさえずりが、登校する数百人の生徒たちの足音と重なり合いながら、校門へと流れ込んでいく。

春の爽やかな空気に包まれた中、レンは「清林高校」と刻まれた石碑の前で立ち止まり、何度もネクタイを整えていた。

「暑いな……あ、違う。寒いって言うべきか」

レンは思わずタイ語で呟き、白くかすかな息を吐く。

日差しは強いのに、吹き抜ける風が肌を刺し、思わず鳥肌が立った。

濃いグレーのブレザーにスラックス。

その姿は、タイにいた頃に履いていた青い半ズボンとはあまりにも違っていて、鏡で見た自分がまるで別人のように感じられた。

緊張だらけの自己紹介

「さあ、レン君。入って」

二年A組の教室前から、佐藤先生が声をかける。

引き戸が開いた瞬間、ざわめいていた教室が、まるでスイッチを切られたかのように静まり返った。

三十以上の視線が、一斉にレンへと突き刺さる。

黒板の前に立つと、そこには大きなカタカナで彼の名前が書かれていた。

――「レン」

「え……えっと……」

喉がからからになる。

「さ、さわっ……あ、違う!

は、はじめまして! 僕の名前はレンです。タイから来ました! よろしくお願いします!」

言い終えると同時に、勢いよく頭を下げたため、危うく教卓にぶつかりそうになる。

教室の後ろから、くすっと笑い声が漏れた。

「お辞儀、きれいだね」

「タイ人? 辛い料理の国だよな?」

そんな囁きが、あちこちから聞こえてくる。

窓際の席

レンの席は、教室の窓際だった。

小説や漫画でよく見る“主人公の特等席”。

だが、今の彼にとっては、最も緊張する場所だった。

隣には、いかにも人懐っこそうな少年・ヒロイ。

そして前の席には、長い黒髪の少女・ナナミが座っている。

「よろしくな、レン君。俺、ヒロイ!

タイ人なんだろ? ムエタイすげーよな。首蹴りとかできんの?」

「い、いえ……そこまでじゃないです」

拙い日本語で答えると、突然ナナミが静かに振り返った。

「ねえ……カバン、逆だよ。校章は外側」

「えっ? あっ……ありがとうございます!」

慌てて直そうとしたせいで、ストラップが絡まり、さらに混乱する。

ナナミは小さくため息をついて前を向いたが、レンは見逃さなかった。

彼女の口元が、かすかに緩んでいたことを。

昼休み――本当の試練

昼休みのチャイムが鳴った瞬間、レンはある重大な事実に気づく。

――一緒に昼ごはんを食べる相手がいない。

クラスメイトたちが机を寄せ合う中、レンは一人、朝5時に起きて作った弁当箱をそっと机に置いた。

ふわり、と漂う懐かしい香り。

中身は――ガパオライス。

しかも、タイから持ってきたプリッキーヌーをこっそり入れてある。

「……なんか、匂いしない?」

誰かがそう言った瞬間、クラスメイトたちが次々と鼻をひくつかせ、

“転校生の机”へと集まり始めた

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