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第一皇妃とその子どもたち

 ドレスは一部を除き、無事に返ってきて衣裳部屋に収められている。


 無事ではない一部は、グラマラスな体型のセアラ妃が無理矢理着用しようとして、ボタンやなんやらが千切れたり、布が裂けたりとひどいことになっていた。残骸を持ってこられても仕方がない。


 帝国ほどではないが、ルーナマリアの母国だって、そこそこ裕福な方である。何せ、世界中から敬虔な信者や、そう見せかけたい金持ちがやってきては、金を使う。喜捨は神殿と折半し、王家の財産として貯められるのだ。


 そんなヴァチュリエ王国が、王女のために用意したドレスを、いち貴族の女が弁償できるはずもない。私は粛々と、女官やその家族を訴えて、処分した。見せしめの意味もある。十五歳という子どもだが、巫女姫は、第三皇妃として立つ女は伊達ではないのだと、知らしめなければならない。


「面倒だわ……」


 締める必要もないくらい細い腰を、さらにコルセットでぎっちぎちに拘束される。馬鹿力で締め上げているエミィは、私の溜息に手を止めた。


「辞められますか?」


 ぼそりと告げる低い声は、耳馴染みがよくて好きだ。何から何まで、私好みの可愛いメイドを手中に収めることができて、満足している。


「辞められるものならねぇ……でもまあ、一度行って、もう二度と呼ぶものかって思わせればよいでしょう」


 ふふん、と鼻で笑う私に、エミィは溜息をつきながら、最後にもうひと締めした。さすがにきつい。


 普通の女子高生であった私はもちろん、王女として政務に励むことができなかったルーナマリアの肉体もまた、コルセットなんて着けたことがなかった。


 結婚してから三日だし、この間まで母国でのんびり暮らしていた子どもには、任せられる政務もないからと、日中もゆったりとしたデイドレスで過ごしていた。


 楽な生活だった。寝室で好きなだけ惰眠を貪り、お茶の時間にはお菓子を摘まむ。


 そしてそれは同時に、退屈な生活でもあった。


 ミレア妃からお茶会の招待状が届いたのは、これ以上暇だと、何をするかわからないと思い詰めていた矢先のことだった。例えば、今は反省した様子で粛々と仕えている女官たちに、また別の罪を着せて右往左往する様を観察するとか。そういう意味では、彼女たちは第一皇妃のおかげで命拾いをした。


 さて、皇妃のお招きともなると、ラクチンドレスを着てはいけない。晩餐や舞踏会のように畏まった場ではないが、昼向けの正装をする必要がある。


 襟首が程よく詰まり、露出が少なめなので、ルーナマリアのような幼児体型でもさらりと着こなすことができる。帽子や手袋は、やんわりとした拒絶のように受け取られそうだから、やめておこう。十五歳には十五歳にふさわしい格好というものがある。大人ぶった服装は、年を重ねてからいくらでもできる。


 ふわっと裾が広がるラベンダーカラーのドレスを着たルーナマリアは、我ながら妖精のようだ。コルセットの締めつけさえなければいいのに。


「どうかしら、エミィ?」


 お気に入りのメイドは、驚くほど口数が少ない。同い年の少女ならば、もっとお喋り好きでもいいはずだ。私は彼女に制限をかけていない。無口で表情変化に乏しいエミィだが、私の問いかけにはきちんと応えてくれる。


「お美しいです、ルナ様」


 妃殿下やルーナマリア様と呼ばれるのが嫌で、エミィには「ルナ」と呼ぶように徹底している。やはり呼ばれなれている名前が一番だ。


 下級メイドとして王城に上がったエミィは、掃除などのハウスキーピング技術以外にも、様々なことができた。コルセットを締めるのもそうだし、化粧も。まあ、これは最低限に抑えた方が際立つルーナマリアの美貌のおかげもあって、スキルを発揮する場面は少ない。柔らかく、サラサラしすぎていてアレンジしづらい銀髪も、エミィの手にかかれば、すっきりとした編み込みヘアに変わる。


 編んだところに、金の櫛をさして完成だ。鏡の前でゆっくりと回り、にっこりと微笑みかける。


 ほら、ようやく面白くなってきた。


 女官なんて自分より立場の弱い人間をどうこうするよりも、自分と同格や、偉い人間を貶める方が、楽しめるでしょう?




 お呼び出しを受けたのは、ミレア妃の住まう宮の庭だった。


 グーツァ帝国では、皇妃はひとりひとつ、屋敷を与えられてそこに暮らす。そして、抱きたいときに妻のいる家を訪れるのだ。


 ちなみに私の屋敷はというと、まだ完成していない。新しい奥さんを迎えるとき、前もって家を準備しておくべきか、それとも奥さんの好みを反映させるために結婚後に相談するのが愛なのか、私にはよくわからない。


 ただ、嫁いできてこの方、宮の建設について話をされた記憶は、一度もない。そもそも建設しているのか? 初夜以外、皇帝陛下とは顔を合わせていなかった。


「この度は、お招きいただきまして、ありがとうございます。ルーナマリア・ヴァチュリエ・グーツァ、ただいま参りました」


 淑女の礼を取り、優雅に微笑む。


 相手は第一皇妃様。


 結婚した順番が一番早いというだけで、皇妃の地位は同等だ。一段階あがるためには、皇后として皇帝に任命され、貴族議会の承認を得る必要がある。


 しかし、そんな理屈はミレア妃の前では通用しない。彼女は自分が最も上だと思っている。セアラだけでも苦々しく思っていたのに、自分の娘みたいな年の小娘を入内させたことを、快く思えるはずがない。 


「ご立派な礼だこと」


 ミレア妃は私に一瞥をくれただけで、向こうからは「よろしく」の一言も何もなかった。そんなことだろうと思った。


 このお茶会の目的は、第三皇妃を仲間外れにしていると思われたら外聞が悪いというのがひとつ。それから、女官長から報告がいっているのだろう私の言動を自分の目で確かめたかったのがひとつ。


 私は微笑みを浮かべて、「失礼いたします」と、用意された椅子に座る。完璧なタイミングで椅子を引き、エスコートをしてくれたのは、ここまで一緒についてきてくれた、エミィだ。こういうときに給仕にふさわしいスキルと人格の人間を用意しておかない時点で、私の扱いはたかが知れている。


 まぁいい。私だったら、タイミングを合わせて椅子を思いっきり引いて、尻もちをつかせてやろうと考えるもの。


 第一皇妃派の給仕係が、何をしてくるか怖いじゃない? その点、今のところエミィのことは信用している。


 迷い込んできた彼女は、あのまま私が放置していたら、城を追い出されていた。病気の妹のために薬代を捻出しなければならないというエミィは、拾われたことを大層感謝して、私に尽くしてくれている。


 サーブされるお茶やお菓子を見つつ、今日のお茶会の参加者を観察する。


 ミレア妃の右隣にいるのが、皇太子・マクシミリアンだ。二十八歳の独身。明るく輝く金髪碧眼は女神・ヴァーチェと同じ色で、女神の祝福を受けているとされている。


 グーツァ帝国には、他国よりもこの色彩を持つ人間が多く、この国はもともと、あの女神様のお気に入りであったことが知れる。


 見た目はおとぎ話に出てくる王子様そのものだ。甘いマスクに、柔らかな物腰。何よりも、このお茶会で「よろしく」と目を合わせて微笑んだのは、彼だけだった。


 会釈に留めて、ケーキに夢中になっているフリをしながら、マクシミリアンの視線の先を探る。彼は私を見ている。頭のてっぺんから爪先まで、特に顔と、首と、胸と。笑っているのに、どこか粘着質でドロドロとした目の意味に、気づかないほど子どもだと思われているのだろうか。


 マクシミリアンの視線は、前世、制服姿で電車やバスに乗っているときに感じたものと、同質であった。セーラー服を、性欲の対象としか捉えられない、異常な男たち。触ってこようものなら、持っている安全ピンで手を刺してやった。


 そういう男はたいてい、四十~五十代くらいの見た目だった。まだ若いマクシミリアンの目を、好意的に解釈するのなら、父親の妃に横恋慕する息子(というと、源氏物語を思い出すわね)といったところだろうか。全然、恋愛感情は伝わってこないけれど。


 私が口の端についた生クリームを指で拭ってそのまま舐めると、一瞬鼻息が荒くなる。


 飲食の場に性欲を持ち出すヤバい男に、なるほど未婚なわけだ、と嫌になるほどわかってしまった。


 意識の隅にも置いておきたくなくて、マクシミリアンの存在を脳から抹消し、次に向き直るのは第一皇女のマリアナである。こちらは母親の遺伝子を色濃く継いでいる。豊かな黒髪がウェーブを描き、緑の目が意地悪そうに私を値踏みしている。


 女神によって仕込まれた、この世界の常識や歴史についての知識では、、彼女は一昨年、別の国へと嫁いでいた。出戻りになった理由を、女神は知る由もないが、なんとなく察せられるものがある。


 普通、女の皇族には女の、男の皇族には男の側近がつく。現に、ミレア妃の背後には例の女官長がいるし、マクシミリアンの後ろにも、彼と同じ年頃の男性が控えている。


 なのに、マリアナ皇女についているのは、男である。他のふたりや私のところのエミィが、じゅうぶんに立場をわきまえた振る舞いを心掛けている中、彼はヘラヘラと笑っていて、マリアナとの距離も近い。


 王侯貴族の結婚は、利害関係によって結ばれる。また、男は独身生活が長くても、「何か事情がおありになるのだ」と擁護されるのに対して、女はいつまでも未婚だと、どこかに欠陥があると思われてしまう世界である。


 マリアナ皇女が嫁いだのは確か、同盟を申し入れてきた王国の、王子だったか。王子とはいえ、国王が長期にわたって治世を敷いているため、相手は四十を超えていた。マリアナは、若くて美しい男でなければ我慢ができなかったのだろう。この場に連れてきた側近は、当時からの彼女の愛人に違いない。


「皇妃様、若いね。いくつ?」


 男は帝国の公用語で話しかけてきたが、訛りが強かった。嫁ぎ先で見繕った男を、離縁されても手放さなかったのはマリアナの深い愛情だと取ることもできるが、家族からは疎まれている様子だ。


 一応は皇族に迎え入れられた私に向かって、口の利き方がなっていないとミレア妃は男を睨み、娘に向けて咳払いをした。だが、意に介することなく、マリアナはうっとりと隣の男を見上げている。


 あらあら、骨抜きじゃないの。外国の男が、宮中の最奥、皇族の私的空間まで入り込んでいるのは問題だ。ふたり以外の全員が、苦い顔をしている。


 私はにこやかに、じぃっと男を見上げて応えてやった。


「十五です」


 途端に口笛を鳴らす男。現代日本でも、まずない下品な仕草だった。昭和のアニメや漫画の文脈である。


「マジで? 全然子どもじゃないか」

「デミトリー! おさがり!」


 さすがに看過できず、皇妃が叫んだ。この期に及んでも、マリアナは自分の従者の何か悪いのかを理解していない。


 この男の出自は、いったいどうなっているんだろう。


 マリアナの嫁ぎ先はそこそこ力のある国で、だからこそ皇帝は、属国ではなく同盟国として、一応は対等に扱っているわけだ。そこに娘を嫁がせ、関係を強固にしてきた。しかも彼女の不祥事による離縁という弱みまで握られて、向こうが有利になってしまっている。


 そんな国の、王族の前に顔を出せるほどの身分ではないはずだ。言葉遣いも野卑だし、教養のかけらも感じない。


 なれそめはマリアナに尋ねればわかるだろうけれど……うん、興味ないな。


 それよりも、せっかく与えられた機会だ。乗ってさしあげるとしよう。


 私は一口お茶を飲んだ。ケーキとの相性がいい。日本でいう、オレンジペコーかしら。カップを置いて、私はデミトリーと呼ばれた男に微笑みかける。


 単純な男は、自分に興味を示してくれたのが嬉しかったらしく、「おっ」という顔をした。あらまあ、マリアナ姫。なんて怖いお顔なんでしょう。分厚いお化粧がよれて、汚くなってしまうわよ?


「そうなの。私、とーっても若いんですの。だからね」


 ちら、と視線を向けたのは、第一皇妃の背後にいる女官長だ。私の渾身の流し目を、彼女は受け止めきれずに背を丸くする。皇妃が堂々としている分、腹心の部下である彼女がそんな風に自信をなくすのは、悪目立ちした。


 ほら、これまで場を観察するだけだったマクシミリアンとその部下が、「何事だ?」という顔で見ているじゃない。


「私付きの女官は、みんな最低でも十以上年上で、お話が合いませんの。私は、皇妃として、この国の若い人たちの間で、何が流行っているのかを知り、むしろ私が新たな流行を作り出す側とならなければなりませんのに。女官長たちのようなお年の方には、おわかりになりませんでしょう?」


 年齢、若さというマウントは、いずれ自分も取られる側に回るのだが、この場では非常に有効に働く。なんといっても私は、十五歳。玉のような肌、化粧などしなくとも愛らしい顔立ち、多少食べ過ぎたところで代謝もいいから、急激に太ったりすることもない。女の戦いは、美しさがものをいうことがある。それは若さとほぼイコールで結ばれるものだ。


 ミレア妃は、ぴくりと眉を動かしただけだった。代わりに激高したのは、愚かなマリアナ妃である。


「ちょっと、あなた! それってどういう意味よ!」

「どういう意味と言われましても……言葉通りですが」


 小首を傾げて、追撃をする。


「……ああ、マリアナ様は私に仕えてくれている女官とも、お年が近くいらっしゃいましたわね。失礼いたしました」


 暗に「オバサン」と言ってのけたわけである。さすがのマリアナも、自分が馬鹿にされていることに気づいた。


 手袋も身に着けていない手で、私を指さす。この世界でも、他人を指しちゃいけません、というのは子どもでも知っているマナーだ。しかも私は、同じ皇族である。下々の者に向けるのとは、意味が違う。


「マリアナ。やめなさい」


 マクシミリアンが妹を諫めるも、気性の激しい彼女は、兄の言うことを聞かない。


 聞くに堪えない、皇女とは思えない俗っぽい罵詈雑言を、私は右から左に受け流した。お茶が冷めてしまう前に、飲みましょう。ケーキも、今日は暖かいから、生菓子から先にいただかなければ。


 まるっと無視をされていることに、さらに苛立つマリアナは、とうとう立ち上がると、テーブルクロスを引き抜いた。ガチャン、と音を立ててカップやケーキスタンドが倒れる。ああ、せっかく作ってくれた食べ物が、勿体ないこと。


「マリアナ!」


 幸い、私のことはエミィが咄嗟の判断で庇ってくれたので、まだじゅうぶんに温度を保っていたお茶をかぶることもなかったし、ドレスが汚れるような事態にはならなかった。だが、他の参加者たちの連れは、エミィほど反射神経がよくない。


 皇妃の薄いイエローのドレスは紅茶をかぶり、マクシミリアンの上着には、クリームがべったり。この事態を招いた張本人に至っては、慌てたデミトリーが追い打ちをかけて、頭の上に焼き菓子が載っているという異常事態だ。思わず笑っちゃいそうになったけど、我慢我慢。


 私のことを守り抜いたエミィに、「よくやったわ。ありがとう」と礼を言うと、シャイなこの子は頬を染め、小さく頷くだけだ。そしてこの完璧な私のメイドに対して、マリアナは牙を剥く。


「そんな下級メイドを連れて、みすぼらしいったらありゃしないわ!」

「みすぼらしい?」


 私はにっこりと微笑んだ。ただし、口元だけ。


 この私のメイドが、みすぼらしいはずがない。ボブに整えられた黒髪も、金色の瞳も、黒猫みたいで可愛いじゃない。この女は目が腐っている。いつか抉り出して、もっとよく見えるものを嵌めてやろう。


「私の完璧なエミィがみすぼらしいとしたら、あなたのデミトリーはいかがですか? 下品な言葉遣いしかできず、それをあなた様はお咎めにもならない。似た者同士、ということでしょうか」

「っ!」


 ああ、それほど鈍感というわけでもないのね。きちんとプレッシャーは感じてくれているようで、結構。口から先に生まれた軽薄男のデミトリーも、青い顔をして唇を震わせている。


 私はお茶会の列席者たちを見回し、席を立った。


「……どうも歓迎されていないようなので、私はこれで失礼いたしますわ。ああ、そうそう、女官長」


 まさかこの場で名指しされるとは思っていなかった様子で、彼女は肩を跳ね上げさせ、かわいそうなくらい狼狽えた。別に無理難題をおしつけようというのではないのだから、そんなに畏まらなくてもいいのに。


「は、はい、ルーナマリア様」

「先ほどの私の話を踏まえて、新しい女官を派遣してくださるかしら? 今いる方々は、私に心から仕えてくださらないので」


 お前たちが起こした不祥事は、これでなかったことにしてやろうという寛大な私の言葉に、女官長は涙を流して喜んでいるように見えた。




 ごきげんよう、と退出した私を、マクシミリアンが追いかけてきた。


「お待ちください、ルーナマリア妃」

「……何か?」


 女同士のバチバチのやり取りを間近で見ていた彼が、追いかけてくるのは意外だった。マリアナを諫めることはしたが、彼は基本、呆気に取られて見ていただけだったし。


 静かに振り返った私に、皇太子はあたふたとしながら、微笑んだ。金髪碧眼の美青年だ。少々年がいっているとはいえ、私と皇帝よりは断然釣り合う。気持ち悪いロリコン男という一点を除けば、だが。


「その、妹が大変失礼なことを……母も、あなたのことを粗雑に扱って。今度、お詫びをさせていただけないだろうか」


 呼吸が少し乱れていて、頬が紅潮している。一目瞭然、興奮を見てとったのは私だけではなく、エミィもだった。彼女は無言で、さりげなく私より半歩前に立ち、庇った。本当に、できたメイドだ。第三皇妃の私室に迷い込んでくるなんて、考えられないほど。


 マクシミリアンは、エミィにも笑みを向けた。彼女がぴくんと反応したのを見て、私は咄嗟に、エミィの腕を押さえた。それから、丁重にマクシミリアンにお断りを入れる。


「なぜです?」

「なぜって……おわかりになりませんか?」


 あなた、皇太子。私、皇帝の妻。そんな属性を持ったふたりが必要以上に交流することは、格好のゴシップだ。私の最終目標は、皇族を全員何らかの方法で引きずりおろし、国として成り立たせなくすることだけれど、そんなやり方で満足できるはずもない。ま、やるとしても最後の手段よね。


 さすがにそこまで頭は悪くないとみたマクシミリアンは、「それではまた、いつか母たちを交えて」と言い残して帰っていったけれど、たぶんもう、二度とお誘いはないだろう。


「ああ、でも、一番下の子には会ってみたかったわね」


 ミレア妃が生んだ三番目の子、エレーラは齢十歳。


 社交界デビューもまだの彼女は、私的なお茶会の場にもいなかった。マリアナよりも素行が悪いなんてことはないだろうけれど、いったいどんな子だろう。十歳の女の子を弄ぶ手段なんて、いくらでも思いつくけれど……。


「ルナ様。楽しそうですね」

「あら? わかった? 私ね、人と話すのが好きなのよ」


 対話を通じて信頼関係を構築したあとに、思いもよらない方法で裏切ってやったときの顔は、何よりもそそる。だから私は、人と話をするのが好き。


 特にこの世界は、日本とは違って階級社会だ。プライドの高い貴族、皇族連中とこれから渡り合い、破滅させていくのが私の役目だと思うと、ゾクゾクする。


 そしていずれは……と考えて、エミィの視線に気づく。


 にっこりと微笑みを向けてやれば、顔を赤くして彼女は俯き、背を丸めた。私よりも背が高いのに、そうすると小さな子どもみたいで、可愛らしい。


「もちろん、あなたとお話をするのも大好きよ。いろいろ教えてちょうだい。あなたのこと」


 エミィの背中を優しくぽんぽん二度叩き、背筋を伸ばさせる。しゃんとした彼女はいつものスンとした表情に戻っていたが、耳だけはいつまで経っても赤かった。



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― 新着の感想 ―
やっと続きhが読めましたー。若さのマウントってとられる方がいい年してどうなのってなるなー、とニヤニヤしていたおばさんです笑
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