プロローグ
微睡んでいた意識が浮上する。ちっとも気分のいい目覚めではなかった。
もう入らないと言っているのに、無理矢理に食べ物を詰め込まれるようにして流し込まれた、この世界の知識がぐるぐると脳内を巡る。頭痛と耳鳴りが止まない。
自分がどこの誰で、どういう出自の人間で、この世界はどういう仕組みになっているのか。
そしてようやく、目の前のことを落ち着いて観察できるようになったときに見えたのは、荘厳な祭壇だった。
「やってくれるわ……」
思わず、呟いていた。楽隊による演奏は、そんなぼやきをかき消してくれた。隣を歩く男は気がついたはずだが、ちらと目をやっただけで、「どうした?」と尋ねてくることもない。おそらく、こちらに興味関心がないのだ。
それは、これから自分がやろうとしていること、やらねばならないことに対して都合がいいのか悪いのか、今はまだわからない。
祭壇の前に進み出ると、自然と膝を折り、頭を垂れていた。儀礼を取り仕切る神官からのありがたいお言葉を、聞き流す。
薄いヴェールは、視線を隠す。しわくちゃの顔のわりに、背筋のピンと伸びた神殿の長の背後に佇んでいる女神像を、強く睨みつけた。
――あなたの頼みを聞き入れてあげたんだから、もう少しタイミングというものを考えてほしかったわ、女神様。