まずは転生から
俺こと、雨宮翠は死んだ。余りにも突然だったんだ。普通に近くの大通りを歩いていたら、後ろから叫び声が聞こえて、振り返ろうとしたら背中に痛みが走って、そしたら何故か道路まで吹き飛んで視界の前にはトラックがすぐそこに。
ここで意識は完全に途切れたんだ。まぁ特に何か悔やむ様な人生を送っていた訳では無かったけど、なんか呆気ないようなそうでも無いようなそんな感じ。
ともあれ、俺は今新しい体と人生を持っている。そう、転生したのだ!!
「だから、なにって話だよなぁ」
「うん、なんの話し?」
今、俺に疑問を向けている奴の名前はファリア。なんか適当に森の中を歩いてたら、勝手ついて来た変な奴。後、なんか妙に耳が長い......怪しい奴
「おーい...ミドリ?」
「はい、なんでしょう」
「いや、だからなんの話し?」
「あーなんでも無い!」
ところで俺は何しにこの森に来たんだっけ?うーん、思い出せない。
「ねぇ!ミドリはなんでここに来たの?」
全く、うるさい奴だな!こっちは考え事をしてると言うのに......あっ思い出した!そうだそうだ、エルフだ!!いやー忘れるところだった。確か特徴があるとか言ってたはず。
「ところで、ファリア。この森で鼻の長い種族を見たことある?探してるんだけど」
俺はファリアが何か発言しようとしたところで聞いた
「っえ、鼻の長い種族?ごめんなさい、分かんない」
ふむ、どうやらファリアにも分からないらしい。うーん、どうするか......早くしないと、ハンターに先を越されてしまう。
「......もしかして、ミドリが探してるのってエルフ?」
俺はファリアが言った言葉に少し警戒する。だって今、ファリアが向けている目線は確信をついているように思えるんだ。
「えーと、ファリア...確かに俺はエルフを探してるよ。だけどなんで急に?っは!もしかして!?」
やっぱり、そうかー!!こいつハンターだな?俺の目は騙されないぞ。耳がやけに長いし怪しいと思ってたんだよ。
「気づいちゃった?そうだよミドリ...私がそう」
俺は確信をつくようにファリアに向かっていった
「お前がハンターだな!!」
「そう...私がエルフだよ」
俺が喋ってるのと被ってファリアが何言ったのか分からないが...どーせ減らず口か何かだろう。さて、ターゲットは目の前だ。と俺はやる気を上げて、腰にぶら下げている"剣の魔導具"に手を掛ける。
「ん?ん?ん!?ちょっちょっと待って!?いっ今ハンターって...え?え!?」
ほらみろ!俺の言った言葉に動揺してるぞ!このハンター。この森のエルフを奴隷にする為に来たんだな?
「どうしたハンター、見事に正体を暴かれて動揺してるぞ」
俺は自信満々に言った
「いやいやいやいや、わたし!私がエルフ!!」
「戯言を言うな!エルフはな......鼻が長いんだ!!!」
「耳が長いの!!!鼻じゃない!みみ!!」
ファリアは必死に長い髪で隠れている耳を手で、これ!と言わんばかりに強調している。だが俺は騙されない。事前にエルフの事はある程度、"魔導隊"の指揮官に聞いているからだ。ファリア...いやハンターが何を言ったって無駄だ。
「もういい、無駄話は無用!!」
俺は声を上げて魔導具を起動する。俺が使う魔導具はシンプル、剣の形をした魔導具だ。だが、それだけじゃない。ハンター目に物見せてやる!
「もう!やるしかない」
ファリアも俺が魔導具を起動したのに気づいて、握りしめていた剣を構える。
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広い静かな森の中、強い金属音が響く。音が短く長くなるにつれ森はどこか荒げているように見える。風で浮き上がる葉は落ち、また浮かぶ。そしてまた落ちる────が一つの葉は真っ二つに切れた。ものすごいスピードで二人の人影が森の中を駆け巡っている。
「はあはあ、っく!?」
キュルキュルキュルとワイヤーの様に伸びる剣が木々や葉など掻っ切って一直線に耳の長い少女に向かう。少女はそれを間一髪で握っている剣で弾き返しそのまま走る。逃げる様に。
「逃げるなハンター!!それともファリアと呼んだら逃げないかああ!!!」
「だからハンターじゃ...てか、どういう理屈!?」
するとカーンと音が鳴り、手に一瞬だけだが痛みを感じた。ファリアはよく見ると握っていた剣が無くなっているのに気づいた。剣はどこだと周りを見渡す。とファリアは背後まで迫っていたミドリに気づく。同時にミドリの左手に探していた剣が握られているのを見る。
「さて、他に武器はあるか?」
ミドリはそう言いながらファリアを魔導具で拘束する。ミドリの魔導具は手元にあるスイッチを押すとワイヤーの様に伸びる、いわゆる蛇咬剣だ。
「......っ」
ファリアはミドリのの発言に少々苛立ちを感じる。武器を持っていないのは明らかだ。それに拘束された状態ではどうする事も出来ない。
「逃げるなよハンター」
煽っているのかと言わんばかりにファリアはミドリを睨みつける。
「言い分は聞くぞ」
「拘束された状況では、何も言う気になれない」
「そうか......エルフを奴隷にする為によくもこの森まで来れたな?確かこの森は結構危険だったはずだぞ」
「どうすれば信じてくれるの...」
「信じるも何もお前は鼻が長くない」
「..........ねぇエルフの事はどのくらい知ってるの」
「まぁある程度だが、まず鼻が長い、見たらすぐに分かるらしい。後は、一番特徴的というかお前らハンターがエルフを狙う目的"魔導具を創り出す事が出来る"原理までは分からないけどな」
「そう、そこはちゃんと知っているのね。少し時間をくれる。別に拘束した状況で構わない...お願い」
「別にいいぞ、周りにお前の仲間と"魔物"達の気配はないからな」
ミドリはファリアを拘束した状況で地面に座る。警戒も緩めない。一体ファリアが何をするのか少しだけ気になっている
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拘束してから数十分はたった気がする。このハンターはさっきからずっと目を瞑っているだけ、それ以外に違和感を感じる部分はない。
「おい!おい、聞いているのか?」
反応はなし。もういっその事このまま魔導具で殺すのもアリかも知れないが、何かハンターの情報が得られるかも知れないしな〜うーん、どうするかなぁ
「もう待てないぞ〜聞いているのか──!?」
なっなんだ!?眩し!!なんだよ急に.......コレって
「お前......魔導具」
「驚いた?コレが答え」
そう言いながらハンターじゃなくてファリアの前に一つの魔導具が現れた。よく見ると俺が使ってるものと瓜二つだ。どういう原理だ......とその前に拘束を解かないと
「随分とあっさり解くんだね。少しは警戒したら?」
「勘違いだったのは本当、すいませんでした」
俺は何か勘違いしていたらしい。目の前にいるファリアがハンターではなくエルフだったとは、驚きだ。
「因みに、鼻ではなく耳が長いの覚えておいてね」
「はい!覚えておきます」
「.......改めて聞くけど、あなたは何故この森にいるの?」
「あー、俺はアルドリア大陸の第九都市の第八魔導隊に所属してて、今回はハンターがエルフを奴隷にしようとしてるという情報が隊に入ってきて、そのエルフ達を保護する為、俺はここに来た」
正直、この森っていうかこの大陸に来るのに結構時間が掛かった。大体二年はかかってるはずだ。
「アルドリア大陸って、この大陸からすごい離れているんじゃ!?まさか私達エルフを助ける為に大陸を渡ってきたの?」
「まさにそう。俺達魔導隊が生きているのもお前らエルフのおかげでもあるからな...見捨てる事はできないと、代表が言ってる」
正直、俺はそこまで思ってない。
「貴方、どうやって、私もある程度この大陸の街には訪れているから分かるけどこの大陸には海を渡る船なんかなかったはず」
「そこは...っていうか、俺はほぼ徒歩で来た。海に関しては専用の魔導具があるからそれでなんとかなってこの大陸に着いた時には二年ほど経ってたって訳」
「とても無茶な人」
「なんとでも、急になるんだが俺は貴方達エルフを保護しに来てる訳で、仲間たちや他にはいるのか?」
俺がそう質問すると、ファリアの顔は一気に変わる。何かを言おうとしてるがとても言いにくい様だ。ふーん、何かあったのだろうか?俺が森に入った時にはハンターの気配はなく、今もない......いやもしかして
「一言で聞くんだけど...遅かった...ですか?」
俺の問いにファリアは頷く。さて、ここで一つ理解したのは俺は今回の遠征に失敗したという事だ。転生前も決めた目標とか達成しようとしたけど、全然上手くいかなかったっけ......
「私が唯一の生き残り。後のみんなは魔導具を創らせれる為にとっくに捕まってる。その内殺された者もいると思う......私は奇跡的に逃げ切る事が出来たの。それから一日がかぎたあたりだと思う、貴方を見つけた」
なるほどな、俺が森を歩いていたからハンターだと思われたか
「あんな事があったから、貴方をハンターだと思ったわ。もちろん森を訪れる普通の人もいるわ。だけど、貴方は魔導具を持っていたからそう思ったの。ハンターも魔導具を持っていたから」
でも違った。俺はファリアの発言を遮る様に声を出す
「そう、でも違った。俺はそのハンター達を探して、挙げ句の果てにたまたま会ったお前をハンターだと勘違いして、襲った」
全く何をやってんだか。
「うん、貴方がハンターと私に言ったから、その時に私も違うって理解したわ」
コレからどうするか.....ハンターはエルフを捕まえたって言う事は、今回は奴隷にするという事だから、奴隷商人のところか.....、だけどこの大陸には奴隷商人はいない。ということは
「なあ、お前はこの森に残るのか?」
「ファリアでいいよ。貴方が私達を保護する為に来たのなら貴方に着いていくわ......私にとってこの森にある里が帰る場所だけど、もうないから」
「了解。取り敢えず森を出て街に行こう、後俺も名前でいいぞ。まぁなんか長くなりそうだから宜しくファリア」
「よろしくミドリ」
とは言ったものの、俺はアルドリア大陸からここに来るまで二年はかかったからマジで戻るのも長い。取り敢えず、街に行けばハンター達の事も少しは探れるかも知れない。俺の知る限り、ハンターはこの大陸から一番近いフィードリア大陸に行く筈だ。そこにある大きな都市に奴隷商人がいる。あらかたそこら辺の情報は調べてきたからななんとかなる筈だ。
「ところで私が創り出した魔導具については触れないの?てっきりもっと明らかな反応すると思ってたから」
そう言ってファリアが先程の魔導具を見せる。そういえばそうだ。ファリアが創り出した魔導具って俺のと瓜二つだ
「そうそう、触れようと思ってたんだけど、なんでこんな俺の魔導具と似てるんだ?ていうか同じに見えるんだが」
「それはね...私は少し特別だから!見た魔導具を私は創り出す事ができるの。普通はエルフによって創る魔導具は異なるけどね、私は同じ物が作れるの!!すごい?」
と言われても余り凄さとかは感じない。そもそも原理そのものが分からないからそれが凄いのか、凄くないとか聞かれても人間には分からない。他のエルフがどう思うかは別かも知れないが
「無視?」
「いや、俺はそう言うのがまだ分からないから」
「まぁいいよ。いつか分かる筈だからね。後さ、街に行ったらご飯食べたい」
「もちろん俺も街に行ったら食べるからその時に」
ファリア......里が襲われてから一日経ったとは言え、なんか軽いな。こうもっと気にしないのか?俺は転生前とか悲しい事があったら飯とかなんて食べれなかったけどなー...まぁいいか。今は出来ることをしていこう。
今出来ることは、ファリアを俺達魔導隊の所まで連れていくことだ!