第4話 あああマーマレード
こういう笑える話こそが書きたかった!
クスリとでもして下されば幸いです!
第4話 あああマーマレード
マーマレードの魔女なんて奴がきてよお!
俺の家は税制に詳しいお嬢様に窓ガラス割られるわ!
最高だってばよ!
レディ・ローズ・フランソワとの決闘を控えた日曜日!
「東風! 遊びに行こうよー!」
ネイピアが切ったスイカのような半月型の口を開けて笑いながら抱きついてくる。
ベニクラゲといえども女の子ゆえいい匂いはするし、あと抱きつかれて気付いたのだが、彼女の髪はとても綺麗だった。オレンジの髪がふわりと宙に浮かぶと、光を反射してまるで西日を受けた夕暮れの空のような色合いになる。
あとね、ほんの少しだけど、裏返した醤油皿のようなつつましいものがありましたよ!
「遊びに、だと?」
俺は聞き返す。
「フツー何かすべきことあるんじゃねえの? ローズ戦対策寝るとか、エミリア救出するとか!」
「では木枯様はエミリア様を救出したいのですか?」
オリヴィアの質問に詰まる俺。
思い出す、あの鍵を埋め込まれたときの激痛と、修学旅行のようなエミリアの写真!
「ようし! 遊びに行こうぜ!」
「おー!」
やってらんねえよ決闘なんざ!
・・・・・・で。
「おうおう木枯くん。ずいぶんと可愛い女の子連れて歩いてるじゃないの、ああん?」
「あれあれおやおや? 木枯くんって妹さんとかはいませんでしたよねえ?」
「メイドさんまで侍らせやがってよお・・・・・・」
奴らに見つかってしまった。
僻みと嫉みを養分に、人の幸福をひたすら呪う、悪魔の手先のようなクラスメート。
地獄の門番ですら彼らを厭う。彼らのことは考えるな、ただ見て過ぎよ。可能なら目も合わせないようにしよう。一方的に逆恨みされて呪われるぞ!
「東風の友達?」
ネイピアがぴょこんと現れて言う。
「初めまして! ネイピア・ネースターです! スコットランド出身なんだけど・・・・・・今は東風の家に住んでるの!」
オワタ。
ところでネイピアってスコットランド出身だったんだ。どうでもいいけど!
クラスの連中が石を手に持っている。
「ま、待て! 人に石を投げる前によ・・・・・・自分だって女の子と歩いたりするんじゃないかって我が身を振り返ってみr」
俺の高校はミッション系なので習ったことがある。
罪を犯した女が石打ちに処されようとしているとき、主は言った。
あなた方のうち、今までただの一度も、心の中ですら罪を犯したことがない者のみが、石を投げよ。
「ボク、そのお話知ってるよー!」
ネイピアがにぱーと笑いながら言う。さすがはスコットランド系魔女! こいつらを諭してくれ・・・・・・
「主は言いました。今までただの一度も、心の中ですら彼女ができたことがない者のみ彼に石を投げよ、と!」
なんか微妙に違うんだけど・・・・・・
「おらっおらっ」
「死ねええええ!」
「お前らアアア! 心の中ではできたことあるだろ! 人に言えねえ薄汚ねえ妄想してんだろうが!」
「不潔です! 死んで下さい木枯さん!」
「オリヴィアアアア! 俺じゃねえ、妄想してんのはこいつらだよオオ!」
穏やかな日曜の朝。ローズとの決闘の前に俺の血が大地を濡らした。