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第2話 メイドのオリヴィア

ネイピアのメイド、オリヴィア登場!

楽しく書けています。

読んでくださっている方、ありがとうございます!


 オリヴィア・オースティン。

 英国風のメイド服に身を包んだ童顔の少女だが、立ち居振る舞いの洗練ゆえに大人びて見える。

 彼女こそがネイピアの代わりにマーマレードを作っていた張本人だそうだ。よく見ると片手にスーパーのビニール袋をぶら下げている。袋の中には重いものが入っているのか、縄のように持ち手の部分が重力で細く絞られている。下の方には丸みを帯びた黄色い影が透けて見える。オレンジだろう。 


「お嬢様・・・・・・あれほど申し上げたではありませんか。マーマレードの残量も確認せずに外出してはならない、と」

 めっ、とネイピアの額を指で突っつくオリヴィア。

「ですがご安心下さい。私が大至急、追加のジャムを作りますので・・・・・・」

 そう言うとオリヴィアは俺の方に向き直って

「失礼ですが台所をお借りしても?」

 と尋ねてきた。

 こちらの身の安全がかかっているのだから断る理由もない。

「失礼・・・・・・」

 オリヴィアは台所に消えた。

「ネイピアお嬢様。この際ですからマーマレードの作り方をお伝えしておきます。ネースター家の跡継ぎたるもの、マーマレードくらい作れなくては・・・・・・」

 確かに。だって二つ名がマーマレードだろ!


「マーマレードはオレンジを材料としたジャムです。まずは甘いオレンジを選ぶところから・・・・・・」

 オリヴィアが手に持っていた袋をひっくり返すと、太陽の光をこぶしに固めたようなオレンジの山。

「よいオレンジを使わなければよいマーマレードはできません。よいマーマレードがなくては、お嬢様のお力を発揮することは叶いません・・・・・・」

 そう言うとオリヴィアはオレンジを手にとっては重さや色合いをチェックしてゆく。

 ふむ。

 これは少しばかりお役に立てそうだ。


「オリヴィアさんよ。そのオレンジ、俺に貸してくれないか?」

 俺は彼女の買ってきたオレンジを揉み始める。

 変質者ではない。

「これは甘いぞ。これと・・・・・・これも」

 甘いミカンを選ぶ。これは俺の数少ない特技だ。掴んだときに指が少し埋まる感じがするのが甘いよ!

「本当?」

 ぬ。俺のミカン利きを疑うか。不埒なマッチ棒め。

「ま、信じろって」

 そう言いながら俺はミカンを剥いてネイピアに投げる。受け取ったミカンを口に含んだネイピアは目をぱちくり。

「・・・・・・甘いよ!」

「そうだろうそうだろう」

「すごいよ東風! ただの貧相な高校生じゃなかったんだね!」

 ・・・・・・貴様が俺のことをどう思っているのかはよく分かった。今度マーマレードにクエン酸入れてやるから覚悟してろ。


「これは・・・・・・本当に甘いですね」

 オリヴィアも俺の腕を認めた!


「木枯さま。これはもしかすると・・・・・・」

 オリヴィアが何かを言いかけたその時。

 ドガアアアアン!

 庭先で何かが爆発する音がした。


「ここで会ったが百年目えええ!」

 この声は。


「レディ・ローズ・フランソワ・・・・・・!」


 リビングの窓ガラスをぶち破り、硝煙の中から姿を現した劫火の魔女。


「エミリアから聞いたわ・・・・・・王家の鍵はやっぱりあんたが持ってるようね、木枯東風!」

 真実の火! とローズが叫ぶと、掌の上に例の青い炎。

「さあ舌を出してもらおうかしら、木枯東風! 質問は・・・・・・」


――お前は王家の鍵を持っているか?


「くっ・・・・・・」

 今度の質問では逃れられない。

「ウソついたら真実の火で燃ーやす!」

 ハリセンボン飲ます、みたいなノリでいうなや。

 とはいえピンチはピンチ。思わず目をつぶったその時。


「お嬢様のお客人に手は出させません・・・・・・!」

 俺の目の前を影が横切ったかと思うと、ローズの身体は右方向に吹き飛ばされていた。

 壁の方を見るとオリヴィアがローズを組み臥している。


「オリヴィア、あんたまで・・・・・・!」

「お引き取り下さい、レディ・フランソワ。王の秘宝を力尽くで奪う・・・・・・それが名誉ある劫火の魔女の振る舞いですか」

 ふん、とローズは鼻を鳴らす。

「分かってないわねえ、オリヴィア。別に宝物庫の財産は、庭園の魔女の私有物ってわけじゃないのよ?」

「・・・・・・」

 なにやらわけの分からぬ話をする二人。推測するに、王家の鍵は別にエミリアのものと決まっているわけではない? 正式な所有者は未定ということか? 

 状況が掴めないので、ネイピアの表情を盗み見る。彼女は何かを知っているはずだ。

「・・・・・・」

 ネイピアは口を真一文字に結んで沈黙を貫いていた。ううむ、あれは何かを知っているな?


「ネイピア・・・・・・ネースター家の次期当主として答えなさい。王家の鍵の所有権は、グリーン家にはない。そうよね?」

 ・・・・・・どういうことだ?

 王家の鍵はエミリアのものではないのか?


「・・・・・・?」


 冷や汗をたらたら流しているネイピアを見て確信に到った。

 こいつ、たぶん何も分かってねえな! さっきの沈黙は単に何も分からなかったから黙ってただけか! 授業参観で先生に指された生徒じゃねえんだぞ!


「ネイピア、どういうことよ!? あなた、何も分からずにエミリアについたんじゃないでしょうね!?」

 ローズの声は鋭い。


「いい加減にして下さい、劫火の魔女! お嬢様はただ・・・・・・!」

 何かを言おうとして言いよどむオリヴィア。ただ、何なのだろうか。まさか、ただよく分からないままお菓子に釣られて、とかじゃねえだろうな。


 一瞬の隙を突いて、ローズがオリヴィアを吹き飛ばす。

 まずい・・・・・・!


「おい、レディ・ローズ・フランソワ!」

 俺は思わず声を張り上げていた。

 我ながら思う、なんでこんなことしちゃったの?

「お前は・・・・・・」

 ローズの目的は王家の鍵。つまり俺だ。

「王家の鍵が欲しいんだろう?」


 ローズは肩で息をしながらこちらを睨み付ける。


「あんたの推測通り、俺は王家の鍵を持ってる。エミリアが俺の記憶の中に封印したんだ」

「そうよ。だからあんたを捕らえて無理にでも鍵を引きずり出そうってわけ」

 ふうん。

 それがローズの目的ね。

「いいのか? もし俺が頭を打って記憶喪失にでもなったりしたら・・・・・・」

 ローズが一瞬虚を突かれたような顔をする。

「鍵をちゃんと・・・・・・取り出せるのかね?」

 ローズの目的は王家の鍵の入手。そして鍵は俺の記憶の中にある。

 ならば、もし俺が記憶喪失になれば?

 俺の作戦に気付いたか、オリヴィアが叫んだ。

「動かないで下さい、レディ・フランソワ! 動けば、私のナイフが木枯さんの海馬をぶち抜きます!」

「く・・・・・・!」

 歯がみをするローズ。

 ところでオリヴィア。ナイフで海馬ぶち抜くって、もう少し穏便な方法使えないかなあ? 記憶飛ばすだけでいいのよ? ていうか忘却の魔法とかないんかい! そんな物理的な方法で記憶飛ばすな!


「わ、分かったわ。交渉といきましょう・・・・・・!」

 鍵を失うことを恐れたローズは折れた! ざまあ!


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