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託された者

マーマレードの魔女を膨らませて長編化する計画です!

コメディ形式で行く予定。

とにかく書き続けるぞー!

プロローグ 託された者


 俺の名は木枯東風こがれとうふう。特に特徴のない高二男子です。

 学校が終わって家路を急ぐ道すがら。影が少しずつ長くなる夕暮れ時。

 さっそくだけど、悪い魔女に命を狙われています。

 なんで悪い奴って分かるのかって?

 悪い魔女って自分で言ったんだよ、そいつが。だから悪い奴で間違いありません。


「早くエミリアから渡された巻物を渡しなさい? それとも、頭蓋骨割られて脳を引きずり出されたいかしら?」


 劫火の魔女レディ・ローズ・フランソワ。

 派手な金髪をサイドテールにまとめ、深紅のドレスをまとったライオンっぽい少女。絶対獅子座だと思う。

 彼女が狙っているのは俺の記憶の中にある<王家の鍵>だ。

 <王家の鍵>。それは魔法使いの王の宝物庫の鍵。

 何でそんなもんが俺の記憶の中にあるのかって?


 数日前のことだ。


 その日、俺は白いワンピースを着た栗色の髪の少女に、登校中突然、その鍵を渡された。少女は自分のことをエミリア・グリーンと名乗った。またの名を庭園の魔女。あまりにも突然のことでよく分からなかったのだが、彼女はローズの手下どもにその鍵を狙われていたらしい。


――お願い、私を信じて。<王家の鍵>をあなたの記憶の中に封印させて・・・・・・!


 この鍵をあいつらに渡したら大変なことになる。

 そう、怯えた表情で説明するエミリアを見たとき。俺は彼女を信じることに決めた。


「ここにサインしてくれる? 鍵の所有権をキミに譲る契約書・・・・・・」


 エミリアはなにやら流麗な筆記体が書かれた羊皮紙を俺に渡した。

 新手の詐欺か? という不安が頭をよぎったが、現代では違法な契約は後から取り消せる。それを知っていた俺は、彼女に言われるがまま、その紙にサインをした。


「ごめんね、ちょっとチクッとするから」


 庭園の魔女・エミリアはそういうと俺の額にキスをした。その瞬間、彼女の唇が触れた所に引き裂かれるような痛みが走った。初恋の味など消し飛ぶ痛みである。


「ぐ、ぐわあああああああああ!」

「大丈夫、もうすぐ終わるから・・・・・・」

 額にドリルで穴を開けられ、その内部にむりやり手を突っ込まれてピンのようなものを埋め込まれるイメージか。いや、経験したことはないけど。

 エミリアさん、この痛みを「ちょっとチクッとする」と表現するのは無理があると思うのですが。


「キミに鍵を託すね。大丈夫、あいつらは私が引きつけるから。後で護衛も送るから、安心してね・・・・・・」

 痛みに蹲る俺をおいてエミリアはワンピースの裾をたくし上げたまま走り去った。タタタタとヒールが地面を叩く音が遠のいてゆく。

 なにやら真っ黒なローブに身を包んだ百鬼夜行のような集団が俺の目前を駆け抜けたのはその直後のことだった。

「女はどこだ!?」

「鍵はどこに行った!?」

 カラスみたいな連中の話し声を聞いて俺は、そいつらがエミリアを追っている悪者だと言うことを理解した。

 漆黒の集団が街路を埋める中、最後尾から悠々と姿を現した少女。カラスどもがささと道を空けるのを見て、俺はそいつがボスだと察した。

 暗闇の中で月のように光を放つ金色の髪。舞踏会の主賓にすらなれるような真紅のドレス。


「お、お嬢様!」

「レディ・ローズ・フランソワ・・・・・・」

「寛大にして慈悲深き劫火の魔女よ。ど、どうか哀れみのほどを。我々は全力を尽くしました・・・・・・!」


 手下どもの言い訳にふん、とローズは鼻を鳴らす。


「はじめからあんたたちがエミリアを捕まえられるなんて期待してないわ。逃げた方角だけ教えなさい。後はみんな寝てていいわよ」

 私一人で十分、と獰猛な笑みを浮かべる劫火の魔女。

「そ、それが・・・・・・どっちに逃げたのかも」

 分からなくて、という言葉を蚊の鳴くような声で呟く手下。

「・・・・・・はあ?」

 余裕を崩さなかったローズの表情に怒りの火が灯る。


「方角すら分からない? 呆れた、あんたたちが無能だってことは知ってたけど、ここまでとは・・・・・・」

 ローズは手下どもを押しのけると、俺の方につかつかと歩み寄ってきた!


「そこの人間。こんな女を見なかったかしら?」

 ウソをついたらひどい目に遭うわよ、と言って劫火の魔女は手配書のような羊皮紙を俺の顔に突きつける。 俺は迷った。

 ウソをつくべきか? いやしかし、こいつがヤバい魔女であることはすぐに分かる。たぶんウソをついてもバレる、いやしかし・・・・・・!


「・・・・・・見てません」

 俺はそう答えた。

 ウソをついた・・・・・・のではない。実際、そんなもん見てないもん。


 レディ・ローズ・フランソワが見せた手配書に描かれていたのは、子どもでも描かないような下手くそな絵。全身? を描いているつもりなのかそれともバストアップなのかすらよく分からない。見ようによっては顎から手が生えているようで不気味である。その爆発した吹き出しみたいなのはワンピースなのかバレエの衣装なのか判別に困る。あと、エミリアの目は顔からそんなにはみ出していません。髪もなんか素麺がタップダンスをしているみたいだし。


「もう一度聞くわよ、人間。ここに描かれた女を見なかったかしら?」

「見てません」

「私の目を見て言いなさい。謀れば承知しないわよ?」

「見てません」

 俺はローズの目をまっすぐに見て言った。何の後ろめたさもなく見ていないと言える。だって実際、そんな怪物は見たことがないのだから。

「・・・・・・これは真実の火よ。ウソをついている者はこの火に焼かれる。正直者は焼かれない」

 ローズの掌から煌々と輝く炎が立ち上る。

「あなたの舌にでも押しつけてみようかしら?」

「見てません」

 俺は舌を出した。ローズはちょっと躊躇った後、真実の火を俺の舌に押し当てた。


 ジュッ!


 と音がしたが、特に熱くもなんともなく。熱くない火ってフワフワの綿毛で撫でられてるみたいで意外と気持ちいいね。


「ウソじゃない・・・・・・?」

 ローズは首をかしげている。


――お、お嬢様! はばかりながら、その似顔絵では・・・・・・!

――馬鹿野郎! てめえ、お嬢の絵を侮辱するか!


 下っ端どもの哀れな会話が聞こえてきた。ローズには聞こえないらしい。俺、実は結構耳がいいんだよね。

「あんた・・・・・・ずっとここにいたのよね?」

「いましたよ」

 ジュッ。熱くない。

「この女よ。本当に見てないの?」

「見てません」

 ジュッ。


「・・・・・・?」

 完全に当惑した表情を浮かべるローズ。自分の絵が下手すぎるという可能性には思い至らなかったらしい。質問の内容が「エミリア・グリーンを見ていないか」だったらヤバかったが、「この女」だからセーフだ。ウソはついていない。


「ご、ごめんなさい・・・・・・私の見込み捜査だったようね」

 ローズはシュンとして俯き気味に声を絞り出した。

「あ・・・・・・後で慰謝料を払うわ。火を押しつけたことも謝るわ・・・・・・100万円くらいでいいかしら?」


 意外とリーガルマインドのある魔女であった。火を押しつけたのに100万か? と突っ込みたくもなるが。しかし傷害は残ってないし、下手に追及しても「本物の火ではなかった」とか言い逃れされそうだし。


 このいかにも高飛車でプライドの高そうなお嬢様が、意外にも自分の非を認めることができるタイプだったことに驚いている。逆ギレされて消し飛ばされるかもと心配していたのだが。


 レディ・ローズ・フランソワは顎に手を当てて考えこみながら、くるりと踵を返した。


「行くわよ、あんたたち・・・・・・そこの人間には金貨5枚を渡しときなさい」

「は・・・・・・はっ!」

「お前ら、撤収だ!」

 赤いドレスの少女と千羽カラスどもはぞろぞろと来た道を引き返す。

 ローズと手下の会話が聞こえてきた。

「なんであいつはエミリアを見なかったのかしら・・・・・・真実の火にも焼かれなかったし」

「へ、へい。あっしにはとても分かりませんで・・・・・・」

 こらウソをつけ下っ端。てめーにゃ原因が分かってんだろ。そいつを真実の火で焼いた方がいいぞ。

「まさか私の絵では顔が分からなくて? いや、それはさすがにないわよね・・・・・・」

「仰るとおりで・・・・・・あ、いえ、何でもありません」

 こら下っ端。今、何に対して「仰るとおり」つったんだ。怒らねえから言ってみろ!


「おい、そこの! お嬢様からのお情けだ・・・・・・有り難く受け取っとけ」


 黒いローブの下っ端が俺に金貨5枚をよこす。ちっ、金持ってそうなのに5枚かよ。しけた魔女だぜ・・・・・・そう思ったが、意外と1枚が大きかった。名刺サイズよりは大きく、はがきよりは小さい程度。これ、もしかして純金? 劫火の魔女バンザーイ!

 家に帰ってネットで調べてみたらどうも300万円くらいの価値はありそうでした。レディ・フランソワ様バンザーイ!




 で。

 今、その劫火の魔女は俺にたぎる炎を向けている。愛の火だったらよかったけれど、どうもそうではなさそうだ。


「よくも騙してくれたわね・・・・・・!」

「騙してねえよ!」

 聞くところによると、ローズはあの後3日3晩エミリアを探し回ったがついに見つけられず。ふてくされて自邸に戻り、ストレス解消のため趣味のお絵かきを始めたのだそうだ。


――傑作が生まれた。


 そう思ったらしい。

 これは万バズ間違い無しとネットにアップすると。返ってきたのは罵詈雑言の酷評。

 彼女は残酷な真実を知ることになった。

 自分は絵が下手なのだと!


 ローズは泣き叫びながら真実の火を振りかざす。絵を褒めた手下どもがヤケドを負うさまを見て、疑いは確信に変わった。

 あの人間、もはや許してはおけぬ!


 あのー、一言いいですか。

 その恨みは逆恨みどころか四次元空間の方向を向いてませんか。


「あんた、私が一生懸命描いたエミリアの絵を見て内心笑ってたんでしょ!」

「ち、違うウウウウ!」

 じゅっ。

「熱いイイイイイ!」

「こんなのどう見てもエミリアじゃねえよ、人間じゃねえよと舌を出してたんでしょ!」

「ギャアアアアア!」

 舌を出していたのは本当だけど、あんたがさせたんだろ!

「私の絵が下手ならそう言いなさいよバカあああああ!」

 キレる部分が違う気がするけれど。

「燃やし尽くしてやる!」

 劫火の魔女の逆鱗に触れた俺は。

 その瞬間、死を覚悟しました。

 灼熱の竜巻が火の粉をまき散らしながら俺を屠らんと向かってくる。炭になるまで焼き尽くされる、そう覚悟したその時。





「助けに来たよ、東風!」

 俺とローズの間に割って入り、煉獄の火を受け止める少女がいた。

 小柄な身体にロングのオレンジ髪。紺色のブレザー、チェックのスカート。

「あ、あんたは・・・・・・?」

「ボク? ボクの名前は・・・・・・」


――ネイピア・ネースター!


 少女はそう名乗った。


「庭園の魔女エミリア・グリーンの要請を受け、<王家の鍵>を守るべく馳せ参じました・・・・・・」

 そうか。

 エミリアが後で送ると言っていた救援。俺の護衛・・・・・・!



「クッ・・・・・・エミリアが寄越した護衛ですって!?」

 ローズは歯がみをする。

「ふん・・・・・・あんたみたいなちんちくりん、私が相手にするまでもないわ! あんたたち、やっておしまい!」

 ローズの命に従って、どこから現れたか黒ローブの手下どもが一斉に俺とネイピアの元へ殺到する!

「さあ・・・・・・どうするのかしら、マーマレードの魔女!」

 ネイピアは一瞬、構えるような姿勢を取ると、片手を高く上げて叫んだ。

「来て! オレンジスター・ロッド!」

 刹那、びゅおおおおと風を切る音がして何か箒のようなものが、ローズの手下どもを蹴散らしながらこちらへ飛んでくる。哀れな手下どもは疾風にあおられた木の葉のように舞い上がり、鳥の糞のようにボトボトと地面に落ちてゆく。汚えな。

 ところで、奴らを吹き飛ばしたあの獲物。あれは箒ではない。

 バターナイフだ! ネイピアの身長ほどもある巨大バターナイフ!


 飛んできたオレンジスター・ロッド(バターナイフ)を掴み、マーチバンドのようにくるくると回転させながら後ろ手に構える。 べしべしべし!

 そして、ソプラノの声高らかに宣言する。


「マーマレードが瓶に残っているかぎり、東風に手は出させないよ!」


 マーマレードが瓶から尽きたら俺の身の安全は保証されんのかい。そこは「私の目の黒いうちは」とかじゃないのか。

 あと、背後に人がいるんだから少しは考えてよね。さっきのべしべしべしって音、てめーのバターナイフが俺を殴る音よ? 真実の火よりこっちのが痛かったわ!


「ふん・・・・・・少しはやるじゃない」

 ローズは人形のような頬に一筋の冷や汗を垂らす。

「焼いておしまい・・・・・・フレアル・インペリウム!」

 今度は炎の竜が俺たちの方へ襲いかかってくる。だがネイピアはその場を離れず・・・・・・

「トースト・バリアー!」

 呪文を唱えた!

 なんか嫌な予感がするが・・・・・・

 俺たちと竜の間に現れた巨大な食パン。あんなんで防げるのか!?

 だが、炎の竜は現れた食パンの手前で動きを止めた。少しずつ焦げてゆく食パンの香ばしい匂いが辺りに漂う。


「くっ・・・・・・ウチの竜が食べ物で遊ばないようしつけられてるからって・・・・・・!」

 そうだったの? 教育がしっかりしてますね、さすがレディ・フランソワ!


「そんなことよりパンが焼けたよ、ローズ!」

 ネイピアはそう言うと、懐からジャム瓶を取り出した。それをちょんちょんと指で突くと・・・・・・瓶が浴槽ほどの大きさになった!

 ネイピアが言っていた「マーマレードが瓶に残っている限り」とはこいつのことか。ところでネイピアさんよ。もう底の方にわずかにこびりつくようにしかジャムが残ってないように見えるのは気のせいかね? これが尽きたら俺の身は危ういんだよね?


「マーマレードはたっぷり塗ってえー!」

「ま、待て! ちゃんと残しとけ!」

 残量も気にせず、オレンジスター・ロッドで先ほど焼けたトーストにジャムを塗ってゆく。それと比例して俺の安全も目減りしていくわけだが!

 畳ほどの大きさのトーストにマーマレードをたっぷり塗って。それをバターナイフの先端に器用に乗せる。「ローズちゃん、召し上がれ! 朝のマーマレード・セット!」

「今は夕方よね!?」

 ローズ様のノリ突っ込みはスルーして、ネイピアは回転投げの選手のようにオレンジスター・ロッドを回転させべしべしべしだからね、そいつを振り回すときは回りに注意してね?

「マーマレード・バレット!」

 たっぷりとマーマレードを塗ったトーストがローズの元へ放たれる。

 ちゅどおおおん! と音がして、辺りは煙に包まれた。

 やがて視界が晴れると、両腕で顔を庇うようにして立ち尽くしている劫火の魔女の姿。

「な・・・・・・何してくれてんのよ・・・・・・!」

 はあはあと肩で息をするローズ。

「お気に入りのドレス、ジャムでべたべたじゃないの! クリーニング代出しなさいよ! ねえ、ちょっと!」

「ええー、知らないよお-。ローズが東風をいじめるのが悪いんでしょ?」

「ああーもう! どうしてこいつはいつもいつも・・・・・・!」

 いつもいつも、ってことはもしかしてこいつら知り合いか?


「・・・・・・撤退するわよ! ネイピア、次会うときは覚えてなさい! そのバターナイフ、消し炭にしてくれるわ!」

 捨てセリフを吐くと、レディ・ローズ・フランソワはシーツのような大きな布を頭上に広げ、その下に指先でトウモロコシほどの大きさの火を灯した。

 すると、ローズの身体はふわっと宙に浮き上がる。分かったぞ、熱気球の原理だ。シーツの下で空気を暖めて浮いているのだ。

「それと木枯東風! あんたもね! 次会うときは神絵師になってるんだから! あと、あの金貨売るなら小分けにして少しずつ売るのよ! でないと税金かかるんだからね!」

 妙に怒るポイントがズレているのと、アフターケアが万全なお嬢様であった。

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