エピローグ
縁側で俺は一人座ってスマホのメッセージアプリを開いた。頭上から風鈴の穏やかな音色が聞こえてくる。
社会人になると途端に遊ぶ友人がいなくなる。それを寂しいと思う間も無く仕事に励んでいるうちに連絡も来なくなった。機種変更をしてからはメッセージ欄からもいなくなり過去にメッセージを送り合う友達だったらしいという事だけが残っていた。
俺はスマホをポケットにしまう。祖父母の家が暇すぎて久々に星見や旧友たちへ連絡しようかと思ったけどやめた。もう家を出ないといけない時間だ。
「青ーもう出るぞー」
兄貴の声が玄関の方から聞こえてくる。
「あらー春ちゃんどうしたのー」
廊下で兄貴の娘さんにデレデレの母の横を通り過ぎる。兄貴から娘さんに『春』という名前をつけると言われた時、俺は思わず笑ってしまった。
ーーナッちゃんよりも長く生きられそうだ
と、言ったら兄貴に顔を顰められた。
「人生で包丁を持った誰かに殺されかけるとかなさそう。春のイメージ的に大人しい子になりそうだし」
「おい、誰が破天荒の死にかけ女だ!」
背後のキッチンから怒ったような声が聞こえてくる。
「言ってないし、死にかけてもないでしょ」
そう言いながら俺は振り返る。キッチンに立ったナッちゃんがフライパンの中身を菜箸でかき混ぜている。
反対に思いっきりビンタを喰らわしたでしょ、とは流石にナッちゃんの名誉のためにも言わなかった。俺は机を挟んだ先にいる兄貴の方へと向き直る。
「春、いい名前だね。可愛らしい子になりそう」
そんな話をしたなー、と思い出を振り返りながら玄関へと向かう。
玄関にはあれから髪を短くしたナッちゃんとナッちゃんに抱えられた我が家の新しい光が見えた。
「凪音起きたんだ」
「うん。隣で出る準備バタバタしてたら起こしちゃって。大丈夫かな」
「どうなんだろ。凪音の機嫌次第だな」
今は玄関に飾られた赤ベコに夢中だけど、凪音は絶賛嫌々期を迎えている。いつそれが発動するか分からないので俺たちとしては寝てくれていた方が安心だ。
兄貴の家族と俺の両親、俺の祖父母は兄貴のワゴン車で、俺たちは自分の普通車に乗る。有給を取っていないので明日から早速仕事だ。
思えば今年のお盆は外で遊びたい凪音に振り回され、あっという間に終わっていた。
毎年、一年経つごとに一年が短くなっていっているような気がする。多分、感覚で言えば一年が百日もない。そのせいなのか凪音もあっという間に成長していく。
「ジィジのほう行きたい」
今日はチャイルドシートで手こずらなかったのに車を発進させてからそう言われ頭を抱えた。毎日こんな感じだ。
「ジィジ」
それから灯籠流しが行われる公園に着く。抱えた凪音が先に着いていた祖父の方を指差した。
俺の抱っこより祖父の抱っこの方が良いらしい。祖父母共にひ孫に優しいので理解はできるけれど普通に傷つく。
祖父に凪音を預けてからナッちゃんと共に川の方へと向かう。川に着くともう既に小さな灯籠が淡い光を灯しゆっくりと下流へ流れている。
「お疲れ様」
「ナッちゃんもお疲れ様」
「うん。ありがとう。お盆入って初めてじゃない?こうやってゆっくりできるの」
俺は「そうかも」と答え、ぼんやりと光る灯籠を眺めた。川一面に灯籠が漂って水面が光っているようだ。
「凪音にはいっぱい色んな話を聞かせようね」
俺は隣にいるナッちゃんに「うん」と頷く。
「僕らの出会い。二人のご縁と花火の話とか」
あれから凪音が生まれるまで俺たちの間で花火のように大きく輝いた瞬間は数回だった。それ以外の日々も平穏で幸せな日ばかりとはいかなかった。それでも振り返れば良い日々だったとはっきり言える。
でも新たな家族が出来ると花火みたいな感情が昂り爆発する瞬間が何度もやってくることを凪音が生まれて知った。それに凪音は強く光った後もそこにいる。いずれこの手元から離れるまで。いや、離れていってもきっと俺たちの光はどこかでしっかりと光っている。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
これにて青夏、五円と花火、完結となります。
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では、また夏草の次作でお会いしましょう。ありがとうございました。




